小学校入学の少し前に出会って、一目惚れして。
でも、男の子同士だからそれは間違いだと周りに言われて、気持ちを打ち消し続けてきて。
でも、小6の夏に、やっぱりこれは恋愛感情の「好き」なんだと気がついて……
それから5年。
「優真……優ちゃん……大好き、大好きだよ……」
ずっと望んでいた言葉を聞かせてもらえた。そして、
「ずっと、ずっと、お前のことが好きだった」
ずっと言いたかった言葉を伝えられた。
それだけでもう充分、夢の中のことのようなのに……
その翌日。
「優真に、抱かれたい」
そんなセリフが諒の口から発せられて……オレの思考は停止した。
***
「で? 諒とはどうなってるの?」
「どうなってるって?」
侑奈に聞かれ、淡々と聞き返す。
今、桜井先生とライトとの待ち合わせ場所に向かうため、家から駅に向かって歩いているところ。諒は部活の帰りにそのまま行くというので、一緒ではない。侑奈と二人きりで歩くなんてすごく久しぶりだ。
「した?」
「何を?」
聞くと、侑奈は「はああ?」と呆れたように言い、
「何を?って言うってことは、まだなわけね……」
「…………」
………。余計なお世話だ。
抱かれたい、の話は、高校卒業まで……というか、オレが諒の身長を越すまで待ってくれ、と答えて、諒にも納得してもらえた、と思う。
その話をしてから2週間以上たつけれど、まだ、手を繋ぐだけでも精一杯だったりするオレ……。
それなのに、「した?」なんてそんな高度なレベルの話をできるわけがない。
「相変わらずだねえ泉。ここぞというときに尻込みしちゃうの、昔からだよね」
「なんだそれ」
「例えばー……、あ、ほら、中1の体育祭の時、リレーのアンカーに指名されたのに、無理!とかいって、頑なに断ったよね」
「………」
嫌なこと思い出させるな……
「チームの中で一番タイム速かったから指名されたのに、何なのあの男気のなさは」
「それは……」
違うチームのアンカーが諒だったからだ。諒に負けるのは絶対に嫌だったから……
ムッとしていたら、侑奈は軽く肩をすくめた。
「まあ、中学の時の話はどうでもいいや。問題は今だよ。何でしないの?」
「…………」
「諒、待ってるよ? してあげなよ」
「してあげなよって………………、あれ?」
なんでオレが「する方」に限定されてるんだ? もしかして……
「………。ユーナ、諒から何か聞いてるのか?」
「え、何も聞いてないよ?」
ちょっと笑ってる。絶対何か聞いてるこいつっ。
「嘘つくなよ。普通に考えたら、諒の方がデカいし、あんだけ女喰いまくってたんだから、諒が『する』側だって思うだろ?」
「えー、そーおー?」
しらばっくれたように言う侑奈。
「諒はすっかり昔みたいなカワイイ諒君に戻ったから、男なら抱きたい!って思うんじゃないかなーと思ったんだけど?」
「………」
「それにうちはママの方がお父さんより背高かったから、私的には二人の身長差は問題ないし」
「………」
うっと詰まってしまう。
「泉、なんだかんだ理由付けて先送りにしてるだけなんじゃないの? 何をそんなにビビってるわけ?」
「ビビってなんか……」
否定しかけて、侑奈に格好つけてもしょうがないか……と思い直し、本音を吐き出す。
「………。ちょっとはオレの身になって考えてみろよ?」
「泉の身……。うーん……『ずっと好きだった子に好きって言われて超ハッピー』」
「………」
「だから手を出さない意味が分からない」
「だーかーらー……」
こいつは男心を全然分かってない……
「元カノに言うのもなんだけど……諒って中一から彼女いただろ?」
「そうだねえ。それから女切らせたことないよね」
ま、直近の半年は私だけどね! 彼女歴最長だけどね! 他の女は長くても1ヶ月だからね!
侑奈は誇らしげに言ってから、
「それがどうかした?」
「どうかって……」
分からないか……
「あのー、その半年の間だって、諒とユーナはその……してたわけじゃん?」
「何を?」
「何をって!!」
思わず叫ぶと、侑奈は「え!?」と本気で驚いたように振り返り、
「まさか泉、それ気にしてるの?」
「気にしてるというか……」
「え、でも、ほら、諒は童貞ではないけど、処女なわけじゃん? それに免じてそこは許してあげて……」
「じゃーなーくーてー!」
話の食い違いにイラッとして話を遮る。
「オレが言ってるのは、諒が女としてたのが嫌とかそういうことじゃなくて……」
「じゃ、なに?」
侑奈も眉を寄せている。本当に分からないらしい。
「そうじゃなくて…………」
「うん」
「諒は半端なく経験積んでるわけだろ?」
「まあそうだねえ」
「だから………」
息を吸って、はいて、小さく本音を言う。
「オレ……経験ないから、絶対、諒より下手じゃん」
「…………え」
「今、諒より背も低いし、余計に絶対、諒より上手くできない」
「…………」
「だからせめて背だけでも高くなってからって………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
長い長い沈黙の後、
「馬鹿じゃないの?」
侑奈がボソッと言った。おれもボソッと言い返す。
「馬鹿じゃねーよ。男のプライドってもんが……」
「はあ!?そんなプライド馬鹿すぎる!」
馬鹿、馬鹿、ホント馬鹿!
侑奈はひとしきり人のことを馬鹿馬鹿言ったあげく、
「上手いとか下手とかそんなの関係ないの。大好きな人に抱かれることが重要なの。それがどんなに幸せなことか……っ」
「痛……っ」
思いきり腰のあたりを拳で殴られ悲鳴をあげる。でも、侑奈は容赦なく、叩き続けてくる。
「痛いっ痛いって……っ」
「馬鹿泉っ馬鹿馬鹿馬鹿!」
「ちょっマジで痛い……っ」
「諒のことお願いって言ったでしょ!?」
「……っ」
侑奈、涙目……っ
「ちゃんと幸せにしてあげてよっ」
「…………ユーナ」
愕然とする。やっぱり、侑奈……
「ユーナ、やっぱりまだ諒のこと……」
「好きじゃないっ。今の諒は好きじゃないっ」
侑奈は怒ったように言い放った。
「私の好きだった諒は、泉への想いを隠すためにクールな仮面つけてた諒! その諒はもうどこにもいない!」
「ユ……」
「仮面を取ってあげたのは私だもん。諒には本当に幸せになってほしいと思ったから……だからっ」
「……っ」
だめ押し、とでもいわんばかりに、思いきり叩かれ、息が止まりそうになる。振り返ると、侑奈がこちらを睨みながら言った。
「泉だから、任せたんだからね」
「…………」
「…………」
「…………」
再びの沈黙の後……
「………っていう、女の子としての思いとは別に……」
ふっと、優しい笑顔を浮かべた侑奈。
「仲良し3人組として、二人の幸せ願ってる」
「侑奈………」
侑奈はやっぱりオレの女神で……
女神のいうことは絶対だけど……
でも………
***
無言のまま電車に乗り、待ち合わせ場所のある駅に着くまで一言も話さなかった。そのまま、待ち合わせ場所にも無言で向かったのだけれども……
「あれ?」
「え」
喧嘩みたいな怒鳴り声に二人で足を止めた。道行く人も数人振り返っている。その視線の先には……
「ちょ……っ」
「わ、マジかっ」
2対1の、わりと派手目な若い男同士の喧嘩。詰め寄られているのは………
「ライト……っ」
オレ達の待ち合わせ相手であるヤマダライトだ。
「何やってんだお前! 大丈夫か!?」
慌てて声をかけると、
「…………え」
驚いた顔でライトがこちらを見返してきた。
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お読みくださりありがとうございました!
えーと……どうでもいいことなのですがっっ
泉君と慶、諒と浩介、って、ちょっと見、キャラかぶってね?と前々から気になってたので、ここが違うよ!をまとめてみました。
容姿
泉→174cm。サル顔(いやでもイケメンの部類には入るんですけど!)
慶→164cm。中性的な超美形。誰もが振り返る美形オーラの持ち主。
諒君→185cm。気品あふれる美形男子。甘いマスクとはこのことです(*^-^)
浩介→177cm。地味。よくみるとわりとイケメンだけど何しろ地味。
性格
泉→お調子者。でもビビり。
慶→明るい。男らしい。
諒君→口数少ないのでクールに見える……けど、ただ単にボーッとしているだけのことも(でもそう見えない。イケメンは得だ)
浩介→優しく穏やか…に見えて、実は腹黒い。
言葉使い
悪い>>>>良い
慶>泉>諒>浩介
カップルとしては…
泉×諒は、今はまだギコチナイですが、ここ乗り越えると、わりと人前でも自然にくっついてたりするようになります。そしてお互い「好き」って言葉に出してちゃんと言い合ってます。
浩介×慶は、慶が人前だとツンデレのツンを最大限発揮してしまいます。そして慶は「好き」って言いません。でも最近(もう42歳だよ)ようやく少しは言うようになりました。
諒と浩介の最大の相違点は、相手に対する思いです。
諒はひたすら、泉に守られたい。依存したい。って感じ。
浩介は、守られているばかりのおれはダメだ!おれも守れるようにならないと!!みたいな気持ちが強くて……。
どうしておれなんかを選んでくれたんだろう?って気持ちも強いので、自分も彼の役に立たなければって、強迫観念的に思っちゃってるというか……自己肯定感が低いせいですかね。
浩介がその思いから解放されるのは、40歳を過ぎてから。ようやく「そばにいるだけでいいんだ」って思える時がきます。(そこらへんの話が長編「あいじょうのかたち」にくどくどと書かれております^^;)
そう考えると泉×諒って、浩介×慶が交際24年かかかってようやく得た答えの場所に、初めからたどり着いているのかもしれません^^;
って長々と失礼しました!!
次回は明後日更新予定です~~。どうぞよろしくお願いいたします。
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