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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 18-1(泉視点)

2017年01月21日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 小学校入学の少し前に出会って、一目惚れして。
 でも、男の子同士だからそれは間違いだと周りに言われて、気持ちを打ち消し続けてきて。
 でも、小6の夏に、やっぱりこれは恋愛感情の「好き」なんだと気がついて……

 それから5年。

「優真……優ちゃん……大好き、大好きだよ……」

 ずっと望んでいた言葉を聞かせてもらえた。そして、

「ずっと、ずっと、お前のことが好きだった」

 ずっと言いたかった言葉を伝えられた。
 それだけでもう充分、夢の中のことのようなのに……

 その翌日。

「優真に、抱かれたい」

 そんなセリフが諒の口から発せられて……オレの思考は停止した。



***


「で? 諒とはどうなってるの?」
「どうなってるって?」

 侑奈に聞かれ、淡々と聞き返す。
 今、桜井先生とライトとの待ち合わせ場所に向かうため、家から駅に向かって歩いているところ。諒は部活の帰りにそのまま行くというので、一緒ではない。侑奈と二人きりで歩くなんてすごく久しぶりだ。

「した?」
「何を?」

 聞くと、侑奈は「はああ?」と呆れたように言い、

「何を?って言うってことは、まだなわけね……」
「…………」

 ………。余計なお世話だ。

 抱かれたい、の話は、高校卒業まで……というか、オレが諒の身長を越すまで待ってくれ、と答えて、諒にも納得してもらえた、と思う。

 その話をしてから2週間以上たつけれど、まだ、手を繋ぐだけでも精一杯だったりするオレ……。
 それなのに、「した?」なんてそんな高度なレベルの話をできるわけがない。

「相変わらずだねえ泉。ここぞというときに尻込みしちゃうの、昔からだよね」
「なんだそれ」
「例えばー……、あ、ほら、中1の体育祭の時、リレーのアンカーに指名されたのに、無理!とかいって、頑なに断ったよね」
「………」

 嫌なこと思い出させるな……

「チームの中で一番タイム速かったから指名されたのに、何なのあの男気のなさは」
「それは……」

 違うチームのアンカーが諒だったからだ。諒に負けるのは絶対に嫌だったから……

 ムッとしていたら、侑奈は軽く肩をすくめた。

「まあ、中学の時の話はどうでもいいや。問題は今だよ。何でしないの?」
「…………」
「諒、待ってるよ? してあげなよ」
「してあげなよって………………、あれ?」

 なんでオレが「する方」に限定されてるんだ? もしかして……

「………。ユーナ、諒から何か聞いてるのか?」
「え、何も聞いてないよ?」

 ちょっと笑ってる。絶対何か聞いてるこいつっ。

「嘘つくなよ。普通に考えたら、諒の方がデカいし、あんだけ女喰いまくってたんだから、諒が『する』側だって思うだろ?」
「えー、そーおー?」

 しらばっくれたように言う侑奈。

「諒はすっかり昔みたいなカワイイ諒君に戻ったから、男なら抱きたい!って思うんじゃないかなーと思ったんだけど?」
「………」
「それにうちはママの方がお父さんより背高かったから、私的には二人の身長差は問題ないし」
「………」

 うっと詰まってしまう。

「泉、なんだかんだ理由付けて先送りにしてるだけなんじゃないの? 何をそんなにビビってるわけ?」
「ビビってなんか……」

 否定しかけて、侑奈に格好つけてもしょうがないか……と思い直し、本音を吐き出す。

「………。ちょっとはオレの身になって考えてみろよ?」
「泉の身……。うーん……『ずっと好きだった子に好きって言われて超ハッピー』」
「………」
「だから手を出さない意味が分からない」
「だーかーらー……」

 こいつは男心を全然分かってない……

「元カノに言うのもなんだけど……諒って中一から彼女いただろ?」
「そうだねえ。それから女切らせたことないよね」

 ま、直近の半年は私だけどね! 彼女歴最長だけどね! 他の女は長くても1ヶ月だからね!

 侑奈は誇らしげに言ってから、

「それがどうかした?」
「どうかって……」

 分からないか……

「あのー、その半年の間だって、諒とユーナはその……してたわけじゃん?」
「何を?」
「何をって!!」

 思わず叫ぶと、侑奈は「え!?」と本気で驚いたように振り返り、

「まさか泉、それ気にしてるの?」
「気にしてるというか……」
「え、でも、ほら、諒は童貞ではないけど、処女なわけじゃん? それに免じてそこは許してあげて……」
「じゃーなーくーてー!」

 話の食い違いにイラッとして話を遮る。

「オレが言ってるのは、諒が女としてたのが嫌とかそういうことじゃなくて……」
「じゃ、なに?」

 侑奈も眉を寄せている。本当に分からないらしい。

「そうじゃなくて…………」
「うん」
「諒は半端なく経験積んでるわけだろ?」
「まあそうだねえ」
「だから………」

 息を吸って、はいて、小さく本音を言う。

「オレ……経験ないから、絶対、諒より下手じゃん」
「…………え」

「今、諒より背も低いし、余計に絶対、諒より上手くできない」
「…………」

「だからせめて背だけでも高くなってからって………」

「…………」
「…………」 
「…………」
「…………」 


 長い長い沈黙の後、

「馬鹿じゃないの?」

 侑奈がボソッと言った。おれもボソッと言い返す。

「馬鹿じゃねーよ。男のプライドってもんが……」
「はあ!?そんなプライド馬鹿すぎる!」

 馬鹿、馬鹿、ホント馬鹿!

 侑奈はひとしきり人のことを馬鹿馬鹿言ったあげく、

「上手いとか下手とかそんなの関係ないの。大好きな人に抱かれることが重要なの。それがどんなに幸せなことか……っ」
「痛……っ」

 思いきり腰のあたりを拳で殴られ悲鳴をあげる。でも、侑奈は容赦なく、叩き続けてくる。

「痛いっ痛いって……っ」
「馬鹿泉っ馬鹿馬鹿馬鹿!」
「ちょっマジで痛い……っ」
「諒のことお願いって言ったでしょ!?」
「……っ」

 侑奈、涙目……っ

「ちゃんと幸せにしてあげてよっ」
「…………ユーナ」

 愕然とする。やっぱり、侑奈……

「ユーナ、やっぱりまだ諒のこと……」
「好きじゃないっ。今の諒は好きじゃないっ」

 侑奈は怒ったように言い放った。

「私の好きだった諒は、泉への想いを隠すためにクールな仮面つけてた諒! その諒はもうどこにもいない!」
「ユ……」

「仮面を取ってあげたのは私だもん。諒には本当に幸せになってほしいと思ったから……だからっ」
「……っ」 

 だめ押し、とでもいわんばかりに、思いきり叩かれ、息が止まりそうになる。振り返ると、侑奈がこちらを睨みながら言った。

「泉だから、任せたんだからね」
「…………」
「…………」
「…………」

 再びの沈黙の後……

「………っていう、女の子としての思いとは別に……」

 ふっと、優しい笑顔を浮かべた侑奈。

「仲良し3人組として、二人の幸せ願ってる」
「侑奈………」

 侑奈はやっぱりオレの女神で……
 女神のいうことは絶対だけど……

 でも………


***


 無言のまま電車に乗り、待ち合わせ場所のある駅に着くまで一言も話さなかった。そのまま、待ち合わせ場所にも無言で向かったのだけれども……

「あれ?」
「え」

 喧嘩みたいな怒鳴り声に二人で足を止めた。道行く人も数人振り返っている。その視線の先には……

「ちょ……っ」
「わ、マジかっ」

 2対1の、わりと派手目な若い男同士の喧嘩。詰め寄られているのは………

「ライト……っ」
 オレ達の待ち合わせ相手であるヤマダライトだ。

「何やってんだお前! 大丈夫か!?」

 慌てて声をかけると、

「…………え」

 驚いた顔でライトがこちらを見返してきた。



---


お読みくださりありがとうございました!

えーと……どうでもいいことなのですがっっ
泉君と慶、諒と浩介、って、ちょっと見、キャラかぶってね?と前々から気になってたので、ここが違うよ!をまとめてみました。

容姿
泉→174cm。サル顔(いやでもイケメンの部類には入るんですけど!)
慶→164cm。中性的な超美形。誰もが振り返る美形オーラの持ち主。

諒君→185cm。気品あふれる美形男子。甘いマスクとはこのことです(*^-^)
浩介→177cm。地味。よくみるとわりとイケメンだけど何しろ地味。


性格
泉→お調子者。でもビビり。
慶→明るい。男らしい。

諒君→口数少ないのでクールに見える……けど、ただ単にボーッとしているだけのことも(でもそう見えない。イケメンは得だ)
浩介→優しく穏やか…に見えて、実は腹黒い。


言葉使い
悪い>>>>良い
慶>泉>諒>浩介


カップルとしては… 
泉×諒は、今はまだギコチナイですが、ここ乗り越えると、わりと人前でも自然にくっついてたりするようになります。そしてお互い「好き」って言葉に出してちゃんと言い合ってます。

浩介×慶は、慶が人前だとツンデレのツンを最大限発揮してしまいます。そして慶は「好き」って言いません。でも最近(もう42歳だよ)ようやく少しは言うようになりました。


諒と浩介の最大の相違点は、相手に対する思いです。

諒はひたすら、泉に守られたい。依存したい。って感じ。

浩介は、守られているばかりのおれはダメだ!おれも守れるようにならないと!!みたいな気持ちが強くて……。
どうしておれなんかを選んでくれたんだろう?って気持ちも強いので、自分も彼の役に立たなければって、強迫観念的に思っちゃってるというか……自己肯定感が低いせいですかね。
浩介がその思いから解放されるのは、40歳を過ぎてから。ようやく「そばにいるだけでいいんだ」って思える時がきます。(そこらへんの話が長編「あいじょうのかたち」にくどくどと書かれております^^;)

そう考えると泉×諒って、浩介×慶が交際24年かかかってようやく得た答えの場所に、初めからたどり着いているのかもしれません^^;


って長々と失礼しました!!
次回は明後日更新予定です~~。どうぞよろしくお願いいたします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 17(浩介視点)

2017年01月19日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 交通事故をきっかけに、教え子である高瀬諒君と打ち解けられた。そう考えるとこの肋骨骨折もムダではなかったと思える。

 いつも一歩引いたようなクールな雰囲気をまとっていた高瀬君。それが実は幼馴染みの彼への恋心を隠すための仮面だったと分かり……、今現在、めでたく両想いになった彼は、次のステップに進むための相談をオレにしてくれた。

 彼である泉優真君が、高瀬君よりも背が低いことを気にして先に進んでくれない、ということだったので、

「誕生日に、童貞卒業をプレゼント! これで決まり!」

 そうアドバイスすると、高瀬君は、

「え、えええええっ」

と、叫び……それから「うわ、どうしよう……できるかな……」とブツブツブツブツいいながら、彼のところに戻っていった。

 二人は少し触れ合うだけでも、赤面してしまうような初々しさぶりで……

(ああ、いいなあ……)

 ちょっと羨ましい。おれと慶にもあんな時代があったなあ。彼らとおれ達、ちょうど10歳違いかあ……。

 なんて、遠い目になりながら、二人のことを眺めていた、その時。

「え? わあっ」
 突然、膝が後ろからの衝撃でガクンっとなり、倒れそうになった。

「!?」
 振り返ると、おれの高校時代からの親友兼恋人の渋谷慶がケタケタ笑っている。

「何ボーッとしてんだよ?」

 この光景………

「……………。懐かしい」
「は?何が?」
「……………」

 どうせ慶は覚えていないだろう。この「膝かっくん」を慶に初めてされたのは、約11年前。高校一年生の時だ。まだ友達になったばかりの頃……

「あの頃の慶、可愛いかったなあ……」
「だから、何なんだよっ」

 ムッと口を尖らせた慶。子供みたい。

(うん。前言撤回!)

 おれの慶、今もすっごく可愛い!

「なんでもなーい。大好きーっ」
 愛しさ募って抱きつこうとしたら、

「アホかっ」
「痛っ」

 ゴンッとグーで額を押し返された。
 人前ではつれないのも、昔から全然変わりません……。


***


 泉君がこれからアルバイトだそうで、二人は帰ってしまい、慶も仕事のため帰らなくてはならない時間になったので、おれも帰ろうと思ったところ、

「先生、片付け手伝ってくれるよねー?」
「このあと、教室で打ち上げやりますよー?」

 ヤマダライトと相澤侑奈に言われ、そのまま残って片付けの手伝いをすることにした。

 慶とは昨日の夕方からずっと一緒にいることができて、ものすごく嬉しかったけれど……、幸せの反動、というのだろうか。一緒にいられた後は、どうしようもない寂しさが襲ってきて立ち直れなくなる時がある。こうして大勢でいると少しは気が紛れていいかもしれない。


「相澤さんは大丈夫なの?」
「何がですか?」

 打ち上げの席で二人きりになれた時に、相澤侑奈に聞いてみたところ、きょとんと返された。何がって……

「元彼と会うの、辛くない?」
「あ、それか。全然です」

 ぷっと吹き出した侑奈。無理しているようにはみえない。

「何て言うか……諒、幼くなったと思いませんか?」
「うん。思う」

 高瀬君、表情も柔らかくなった。
 侑奈は嬉しそうにうなずくと、

「あれが本当の諒なんですよ。私が好きになった諒はクールで大人の顔をした諒で……でも、そんな諒は本当は存在してなかったんだって、今なら分かります」
「…………」
「今、本当の諒が………小学生の時にいた、可愛い諒が、帰ってきてくれたから」 

 侑奈は優しく微笑んだ。

「だから、嬉しいです」
「…………そっか」

 そう思えるようになるには、たくさんの葛藤があっただろう。でも、今の彼女の瞳は吹っ切れたような美しい光を放っている。

 強いな。強い子だ。

 さらに、侑奈はニッと笑うと、

「なんで、これからは全力で二人の応援をしていくつもりです」
「え?」

 応援って………、え、まさかっ

「相澤さん、知って……っ」
「もちろん。だって二人がくっつくキッカケ作ったの私ですよ?」
「え!? そうなんだ!?」

 自分が好きな人の恋を応援するなんて偉すぎる。

「私達、『仲良し3人組』なんです。今までも、これからも」
「仲良し……3人組」
「そう。仲良し、3人組」

 3本立てた指を口元にあてて、にっこりとした侑奈はとても可愛くて、つられて笑ってしまった。

 きっとこの子なら、二人の良き理解者になってくれるだろう。

(だから、頑張れ。二人とも)


 しかし…………
 これで、めでたく高瀬君が泉君に抱いてもらえたとして……

(もっと具体的な話しをされたら困るな……)

 おれは以前、泉君よりも身長の高い高瀬君が、身長を理由に泉君に抱いてもらえないに違いない……と悩んでいたため、「おれ達は両方している」と思わず嘘をついてしまったのだ。

(今は怪我のせいでやれないけど……)

 昨日も結局、手で抜きあっただけで、最後まではやらせてくれなかった。騎乗位だったら大丈夫って言ったのに、慶は過保護過ぎるんだ。

(できるようになったら、お願いしてみようかな……)

 慶に、抱いて、と言ってみよう。そうすれば嘘じゃなくなる。そうだ。お願いしてみよう……


 そう思いながらも、なかなか慶に言うタイミングもなく、できていないまま一ヶ月近くたったある日。

 部活が終わった直後、高瀬君がコッソリとおれのところにきてくれた。

「先生ありがとう」

 恥ずかしそうに言った高瀬君。
 ああ、うまくいったんだ………とホッとする。

「誕生日の魔法、でした」
「そっかあ……」

 夢見るように言う高瀬君がちょっと羨ましい。
 おれももうすぐ誕生日だ。誕生日にお願いしてみようかな……
 


---


お読みくださりありがとうございました!
進展のない回でm(_ _)m

冒頭「膝かっくん」の話は「遭逢6(浩介視点)」でした。
高校一年生の5月。浩介が学校に馴染もうと頑張っていて……なんだかもう、いとおしい。
この時、慶159センチ、浩介174センチ。15センチも差があったんだ~(今は13センチ差。164と177です)

そして、お願いした話がこちら→「R18・受攻変更?!」

次回は泉視点……誕生日の魔法に行き着くまでに何があったのか、とかそこら辺の話になると思われます。
明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 16-2(諒視点)

2017年01月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘



「優真に、抱かれたい」

 勇気を出して、言ったのだけれども……

 彼の答えは「ちょっと、待ってくれ」だった。

 高校卒業するまで(今、高2の七月末。あと二年弱もある)と言ったけれど、ようは、彼がオレの身長を抜くまで(オレは今185センチ。彼は174センチだ)、ということらしい。
 オレも相当身長にコンプレックスを持っている自覚はある。でも、彼も彼で思うところがあるようで……

 小学校6年生の夏に恋心を自覚してから、もうすぐ丸5年。想いを確認しあうまで5年もかかったというのに、また待たないといけないなんて……


 そして、両想いになって、3日経っても彼とはギクシャクしたままだった。

「お前、女といる時いつもこんな感じなのか? ずーっと黙ーっててさ」

 彼に聞かれて、思い返してみて気がついたのだけれども、確かに女の子といるとき、オレは黙っていることが多い。

 でも、女の子というのはたいていお喋りが好きで、こっちが何も話さなくたって、勝手にぺらぺら喋ってくれる。少し何か聞くと、それが10にも20にもなって返ってくるので、こちらが話す必要はほとんどない。

 それに、元々オレは無口な方だし、彼と侑奈の三人でいるときも、二人が話しているのを黙って聞いていることが多い。今まで彼と二人きりの時だって、彼が話していることが大半だった気がする。だから、黙っているのはオレにとっては普通のことであって、今、沈黙が続いてしまうのは、確実に彼が話さないからなのだ。


 侑奈のうちで一緒にいるときは、わりと普通なのに、二人きりになった途端、ぎこちなくなる彼……

 今までみたいに話せなくなってしまったのは少し寂しいけれど、でも、今まで通り「友達」みたいに接されたら、もっと複雑な気持ちになっていたと思う。だって、オレ達は「恋人」になったんだ。今までと変わって当然だ。

(それだけオレのこと意識してるってことだし……)

 そう思うと、彼のことが余計に愛しくてしょうがなくなってくる。

 無言でスタスタ歩いていってしまう彼の後ろ姿を見つめながら、斜め後ろを黙ってついていっていたら、

「……諒」
「ん?」

 ふいっとこちらを向いて、手を出してきた彼。

「手」
「…………え?」

 何のことだか分からなくて固まってしまったら、手をぐいっと掴まれた。

「優ちゃ……」
「引っ張ってってやる」
「…………」

 きゅっと掴んでくれる力強い手。温かい……
 でも、誰かとすれ違うかもしれないのに、いいの?

「引っ張ってる風ならいいだろ」
「…………ん」

 わざと歩くのをやめると、彼が「重っ!おめーよ!」と、笑いながら文句を言って、オレの手を引っ張ってくれた。大好きで大好きで、泣きたくなってくる。

「優ちゃん」
「んー?」

 笑っている彼の手をぎゅっと握り返す。

「大好き、優真」
「!」

 彼はびっくりしたような顔をして……

「そんなのっ」
 真っ赤になって、怒るみたいに言った。

「そんなの、オレの方がもっと大好きなんだからなっ」
「………っ」

 繋がった手からあふれてくる想い。

「優ちゃん……」

 好き。大好き。

 だからもっと……もっと欲しい。もっと欲しいよ、優真……。



***

 翌々日、侑奈が参加しているボランティア教室が出店するお祭りに彼と一緒にいった。
 そこで偶然、桜井先生とその恋人の渋谷さんに出くわした。2人は親友ではなく、本当は恋人同士なのだと聞かされてから、初めて二人が一緒にいるところを見たわけだけれども……

(うらやましい……)

 二人があまりにもお似合いすぎて、うらやましくてしょうがなくなった。その上、渋谷さんの方が13センチも背が低いのに(その上、渋谷さんは中性的な面差しの美青年なのに)、桜井先生が抱かれることもあるという。なんてうらやましい……。


「先生……ちょっといいですか?」
 桜井先生と二人きりになれるチャンスが回ってきたので、すぐに声をかけた。二年後の話だけれど、今から知っておきたい。

「抱かれる側の準備、みたいなのがあったら教えていただきたいんです」

 言うと、桜井先生は目をパチパチとさせて……

「本当は立場的に、生徒にする話じゃないんだけど……」

 友人として、人生の先輩としての話だからね? と念を押してから、色々なことを教えてくれた。

 オレは男同士だとどうするのか、ということは漠然とは知っていた。でも、妊娠の可能性がないからコンドームは必要ないのかと思いきや、桜井先生によると「絶対に必要」で、付けないと挿入した側も細菌をもらう可能性があるし、もし中出ししてしまったら、全部かきださないと受け側がお腹を下してしまうことがあるという。それにいきなり挿入ではなく、潤滑油やジェルとかを使って指で少しずつならしていく必要もあるし、いざ本番、の前には、浣腸をしておいたほうがいいらしい。シャワー浣腸のやり方も教えてもらった。

 先生の話し方は、すごく事務的で、いやらしさが少しもなくて……周りからみたら、まさかオレ達が男同士のセックスのやり方の話をしているなんて思いもしないだろう。


「まあ、あとは……男女間ですることと変わらないんじゃないかな……」
「なるほど……」

 頭の中のメモに書きこみしつつ、先生にお辞儀をする。

「参考になりました。ありがとうございました」
「うん。頑張ってね。……って、先生としては生徒の性行為を推奨するようなことはNGなんだけど」
「あー……大丈夫です」

 苦笑した先生に、手を軽くふる。

「彼、高校卒業まではしないっていってるので」
「えええ?!そうなの?!」

 自分も高校卒業まではしなかったらしいのに、驚きの声をあげた桜井先生。

「それでいいの?」
「いいのって……先生だって高校卒業まではしなかったんですよね?」
「まーそうなんだけど……うちは、付き合いはじめたのが高2のクリスマス頃で、そのあとなんだかんだで受験突入で、気持ち的にも余裕がなかったっていうのもあったから……」
「あ……そうなんだ」

 受験……まだ少しも現実味のない話だ。
 しかも、高校卒業というのは、言い訳でしかない話で……

「でも、どっちにしろ、卒業してもダメかも……」
「え? どうして?」
「背が……」

 事故の後の病室でもそうだったけれど、オレは普段はこんな風に人と話したりできない方なのに、桜井先生にはなぜか話せてしまうから不思議だ。今も、彼に「待ってくれ」と言われた話を思わずしてしまった。すると、桜井先生は眉を寄せて、

「高瀬君はそれでいいの?」
「本当は良くないですけど……しょうがないかなって」
「そっか……」

「でも、彼がオレの身長を抜かしてくれる保障はどこにもないし……」
「だよね……」

「我慢できなくて爆発したらどうしようとも思ってて……」
「うーん……」

 桜井先生は、難しい顔をして、うーんうーんと唸ったあげく……

「あ」

 いきなりポンと手を打った。

「あのさ、泉君って誕生日いつ?」
「え」
「それか高瀬君の誕生日か、二人の記念日か……近くに何かない?」

 いきなりなんなんだ。よく分からないけれども何とか答える。

「えーと、彼の誕生日が来月ですけど……」
「わー!グッドタイミング!それは一番いい!これは神様からのお告げだね!」
「え?」

 お告げ? なんだなんだ?
 きょとんとしているオレに、先生はビシッと指をさしてきた。

「プレゼントだよプレゼント!」
「え」

 プレゼント?

「ほら、前に泉君、自分が童貞なこと気にしてたよね?」
「え」

 見返すと、嬉しそうな瞳の桜井先生が、楽し気に言った。

「これはチャンスだよ!」
「え?」

「誕生日に、童貞卒業をプレゼント! これで決まり!」
「え、えええええっ」

 叫んだオレに、桜井先生は満足そうにうなずいた。



---


お読みくださりありがとうございました!
と、いうことで、乙女な桜井先生、乙女的発想。誕生日プレゼント大作戦!でございました。

そして、桜井先生「コンドームは絶対に必要」と教え子には偉そうにいっていますが、自分はあまりしません^^; そして指で慣らすこともしません^^; ダメじゃん!!
浩介氏のここら辺の諸々の知識は、大学時代の友人西崎情報によります。

ということで次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 16-1(諒視点)

2017年01月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 子供の頃、嫌なことがあると、いつも公園の滑り台の下のトンネルの中に隠れていた。しばらくそこで膝を抱えて待っていると、

「諒」

 彼が必ず迎えにきてくれた。優しく声をかけてくれて、温かいぬくもりで包んでくれた。いつも一緒にいて、いつも守ってくれた。


 あれから何年経っただろう……

「ずっと、ずっと、お前のことが好きだった」

 柔らかい唇の感触が残る中、あの頃と変わらない温かさで、ぎゅううっと抱きしめられて、気が遠くなった。

「これからもずっとそばにいて、ずっとずっと守ってやるからな?」
「………」

 涙が溢れて止まらない。ずっとずっと欲しかった言葉。

「優ちゃん……」

 今はもう、狭すぎて身動きするのが大変なトンネルの中で、オレ達はぎゅううっと抱きしめ合った。


***

「……で? 昨日はあのあとどうした?」
「どうしたって……」

 翌日、久しぶりに部活に行くことにしたら、侑奈が一緒に行こうと誘ってくれた。駅までの徒歩15分の間、侑奈が興味深々に昨日のことを聞いてきたので正直に話す。

「うちでおしゃべりしてたら、泉のバイトの時間になっちゃって……」
「で?」
「それだけ」
「はああ?! 夜は?!」
「おやすみってメールした」
「…………」

 はああああっと大きくため息をついた侑奈……

「せっかく両想いになったっていうのに、おしゃべりしてただけなんて……あ、キスくらいはしたよね?」
「え」

 動揺して声がひっくり返ってしまうと、侑奈は「あ、そう。それはしたんだ」と納得したようにうなずいた。 

「手の早いことで有名な高瀬諒君も、本命さんには手を出せないってこと?」
「………。出せないというか……出してもらえないというか……」
「え」

 きょとん、とした顔で侑奈は立ち止まり、「え?え?」と言いながら口に手を当てた。

「あの……念のため確認なんだけど」
「うん」
「諒ってもしかして……ネコ希望なの?」
「ネコ?」

 猫? なんのこと?

 首を傾げたオレの腕に、侑奈の指が突き刺さる。

「抱かれたいってことだよ」
「え」

 それ、ネコっていうの?

 言うと、侑奈はものすごい呆れた顔をして、

「女役がネコ、男役がタチ。そんなの常識でしょ?何で知らないの?」
「…………」

 絶対常識ではないと思う……

「受けと攻め、とも言うけど。ってそんなことはどうでもいいや」
「………」
「ネコ、受け、希望ってことね?」
「………」

 否定も肯定もしないでいたら、侑奈は、ふーん……と肯いてからまた歩きだした。おれも慌てて横に並ぶ。
 しばらくの沈黙のあと、侑奈はとんっとオレの腕を叩くと、

「ねえ……そのこと、泉にちゃんと言った?」
「えええ?! 言うって……っ」

 そんなこと、あえてわざわざ言う話?!

「そんなの、泉は当然する側……」
「いーや。絶対、泉、諒はタチだと思ってると思うよ。あんだけ女喰いまくってたんだから」
「………え」

 そ、そうなの?

「それ、確認しなよ?」
「え、か、確認って……」

 ど、どうすれば……っ

 おろおろとしていたら、侑奈が急にクスクスと笑いだした。

「……どうかした?」
「いや、自分でもおかしいなあと思って」
「何が?」

 侑奈はフワッとした笑顔でオレを見上げると、

「元彼の恋愛相談に乗っている私の図、が」
「あ………ごめん」

 そうだった……考えてみたら侑奈とは昨日正式に別れたのに、こんな話……

「いやいや。面白いからいいの。っていうか、嬉しいくらいだよ」
「相澤……」
「あ、その相澤っていうの、侑奈に戻してくれない? ホントは相澤って呼ばれるの嫌だったんだよね」
「え」

 彼と同じこと言ってる。昨日彼にも「泉」と呼ばれるのが嫌だったと言われた。

「二人とも今まで何も言わなかったから……」

 小6の夏に彼への恋心を自覚したオレは、想いを押さえるために、彼を名字で呼ぶことにしたのだ。その言い訳を「ゆうまとゆうなで紛らわしいから」としたため、侑奈のことも相澤と呼ぶことにして……

「3人して本音隠してたから、こんなにこんがらがっちゃったんだよね私たち。もう、嘘はやめようね」
「侑奈……」

 うふふ、と笑った侑奈。

「あ、あとね……。最後に一つだけ教えて?」
「最後?」

 首をかしげると、侑奈は立ち止まり、ふっと真面目な顔をして言った。

「私としたあと、誰かとした?」
「え」

 侑奈はジッとこちらを見上げている。

「もしかして、あの髪の長い3年生としちゃった?」
「…………してないよ。誰ともしてない」

 質問の意図が分からないけれど、正直に答えると、侑奈は何だかすごく嬉しそうに笑った。なんだろう?

「どうして?」
「うん……。諒にとって、私は『最後の女』になれたんだなーと思って。特別な感じでちょっと嬉しい」
「……………」

 侑奈……侑奈のおかげでオレは壊れずにすんだ。侑奈が彼の代わりに包み込んでくれたから……だから……

「オレにとって、侑奈は昔からずっとずっと特別な女の子だよ」
「…………そっか」

 嬉しい。

 そういって、侑奈はくすぐったそうに微笑んだ。それは「女の子」として見せた最後の笑顔で……、この後、振り返った侑奈は「親友」の顔をしていた。


***

 夕方から侑奈のうちに集合して、3人で夏休みの宿題をして、夕飯を食べて、帰宅。そこまでは去年と同じ。

 でも、侑奈の家を出てからは、去年と違った。

(き、緊張する……)

 3人でいるときは、まあまあ大丈夫だったのに、2人きりになった途端、手に汗かいてきて……

「なあ………」
「な、なに!?」
「………。なんでそんなびびってんだよ」
「びびってなんかないよっ」
「ふーん……」

 再びおとずれる気まずい沈黙……
 実は昨日も「おしゃべりしていた」と言っても、二人して上滑っていて、半分くらいは沈黙だったのだ……

「お前、女といる時いつもこんな感じなのか?」
「え?」
「ずーっと黙ーっててさ」
「………………」

 女といるときって………

「女といるときって………優真は女じゃないじゃん」
「…………。そうだけど」
「………………」

 再度おとずれた沈黙の中、ふいに脳内によみがえった今朝の侑奈の言葉……

『そのこと、泉にちゃんと言った?』
『それ、確認しなよ?』

 ちゃんと言う……確認……

「あの………優真」
「…………なんだよ」

 ふてくされたように返事をする彼。
 なんて思われるか怖い……けど……

「オレ、優真のこと女だと思ったことないよ?」
「は!? そんなの当たり前……っ」
「うん」

 彼のTシャツの裾をぎゅっと掴んで立ち止まると、彼が驚いたようにこちらを見返した。

「なんだよ……?」
「うん……」

 なんて言えばいいんだろう……

「あの……」
「だから、なんだ?」
「!」

 裾を掴んだ手を上からきゅっと握ってくれた。温かい、愛しいぬくもりに、胸がいっぱいになって泣きそうになる。

「あのね……」
「おお」

 見上げてくれる瞳をまっすぐに見返す。

「オレね……」

 愛しい愛しいあなたに、嘘のない本当の気持ちを告白する。

「優真に、抱かれたい」

 勇気を出して、そういったのだけれども……

「………………」
「………………」
 
 彼は沈黙したまま、まばたきだけをしていて………
 たっぷり一分くらいたってから、

「………………え?」

 ようやく、そう言った。


***


 それから………
 彼は、絵にかいたような動揺っぷりで、オレから飛び離れた。

「いや、あの……っ」

 顔、真っ赤だ。真っ赤なまま、捲し立てるように言う彼。

「そりゃ、それ、考えないこともないっていうか、すげー考えてたけど……っ」
「考えてた?」

 わ、嬉しい。そう思って一歩近づいたのに、

「いや、ちょっと待て。考えてはいたけど、なんていうか、その……っ」
「…………」

 ジリジリと後ずさっていく彼………

「ちょっと、待ってくれ」
「…………待つ?って?」

「あのー………、そうだな……高校卒業するまで……」
「えええええ!?」

 あと2年近くも!?

「いや、ほら、桜井先生も高校卒業してからだって言ってたし……」
「そうだけど……」
「その頃までには、オレ、お前より背高くなるように頑張るし」
「………………」

 それはオレも望んでいることだけど……。でも今、オレは185センチある。彼は174センチ。オレの父はオレと同じくらい背が高いし、母もわりと長身。でも、彼の父親は彼と同じくらいで、お母さんはわりと小柄。お兄さんも170ない。お姉さん達も小柄な方。そう考えても、もう少し近づくことはあっても、オレより高くなるのは、無理な気がする……。

「………。背は関係ないよ」
「いや、ある。オレは絶対にお前より高くなる。それでお前のこと守るって決めてる」
「…………優ちゃん」

 嬉しい。嬉しいけど……背が高くならないとダメなの?

「……諒」
「……うん」

 ぽんぽんと頭を撫でてくれた……けど、

「…………くそっ。撫でにくい」
「……っ」

 ボソッとつぶやいた言葉が聞こえてきて悲しくなってくる。

 やっぱり、背が高いとダメなんだ……


 

---


お読みくださりありがとうございました!
ちょっと話が前後してまして、前回のお話(浩介視点で、お祭りに行った時の話)の数日前のエピソードでした。次回がお祭りの話になるはず。

尻込みしている優ちゃん……。これはもう、諒君襲ってしまえ!!襲い受けだ!頑張れ!………と、いいたいところだけど、諒君わりと乙女なので……。同じく乙女な浩介先生のアドバイスを期待しております。

次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 15-2(浩介視点)

2017年01月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


「マリサちゃん、まだ日本にいるの?」
「ママの国に帰るんじゃなかったの?」
「なんでまだいるの?」
「早く帰ったら?」

 少女二人の言葉に、マリサはピキッと固まってしまった。

「ん? マリサ、夏休みだからママの実家に遊びにいくの?」

 ライトがさっとマリサの横に行って問いかけると、マリサが一人でいるものだと思っていたらしい少女二人はギョッとしたように、マリサとライトを見比べた。マリサは下を向いたまま、首を振っている。

「行かないってさ」
「あ、そう」
「ふーん……」

 後ずさりするようにこの場を立ち去ろうとする少女二人。
 そこにスーッと慶が近寄っていき、少ししゃがんで二人と目線を合わせた。

「君たち、この子と同じ学校の子?」
「え」
「う……うん」

 いきなり現れた超美形のお兄さんに、明らかに動揺した二人。かまわず淡々と問いかける慶。

「今夏休みだよね? どこか行く?」
「え……あの、北海道のおばあちゃんちに行く」
「ね」

 うなずきあっているところを見ると、どうやら姉妹のようだ。
 慶は「そっか」とうなずくと、確認するように、

「北海道のおばあちゃんちに『行く』んだ?」
「うん……」
「『行く』んだよね?『帰る』とは言わないよね?」
「………」

 気まずそうに下を向く二人……

「さっきの君たちの言い方……」
「………」

「変だよね?」
「……だって」

 お姉ちゃんと思われる方の子が口を尖らせた。

「ママがそう言ってたんだもん」
「……………」

 慶もおれも大きくため息をついてしまった。子供の常識は親の常識に添うものだ……

「君たち、何年生?」
「4年生」
「2年生」
「そっか……」

 慶は一度立ち上がり、あらためて身を屈めて二人と目線を合わせた。

「もう4年生と2年生なら」
「…………」
「ママの言うことが正しいとは限らないって知ってるよね?」
「え………」

 ぽかんとした顔をした姉妹に、無表情で慶は言う。

「もう自分で判断できるよね? たとえママが言ってたとしたって、それが合ってるのかどうか、それが言っていい言葉なのかどうか」
「…………」
「それを言われた子がどんな気持ちになるのかも、分かってるよね?」
「…………」

 慶に真っ直ぐ見つめられ二人が固まっている。ただでさえ美形の真顔は恐い。

(慶………)

 この場だけ空気が止まってしまったようだ………

 と、そこへ、侑奈が戻ってきた。

「どうかした?」
「ユーナちゃんっ」

 マリサが侑奈に抱きつく。するとスイッチが入ったかのように姉妹は「じゃあねっ」「ばいばいっ」と口ぐちに言いながら逃げるように走っていってしまった。

「なに……?」
 侑奈がきょとんとしながらマリサと一緒に一つの椅子に座る。

「何かあったの?」
「あー……」

 聞かれた泉君が何か答えようとしたところで、突然、ライトがケタケタと笑いだした。

「慶君変わらないねーっ」
「何が?」

 慶もきょとんとしながら、おれの横に腰かける。ライトは笑いながら言葉を継いだ。

「オレが中1の時もさ、オレに『日本から出てけ』とか言ってきた奴らに、『お前ら両親とも東京出身か?そうじゃないなら東京から出てけ!お前らが言ってるのはそういうことだ!』とかキレたよねー」
「そんなことあったっけ?」

 慶は首をかしげている。ライトは嬉しそうにうなずきながら、

「それから喧嘩のやり方も教えてくれたよね。拳の親指は中に入れるんじゃなくて外から他の指を押さえるみたいに握れとか、蹴りは素早く離せとか、顔は痕が残るから腹を狙えとか……」
「何それ……」

 泉君と高瀬君のビックリした顔に慶は頬をかいているだけなので、おれが注釈をいれてあげる。

「この人ね、こんな外見なのに、喧嘩ものすごく強いんだよ」
「こんな外見って、どうせチビだよっ」
「痛い痛い」

 横からゲシゲシ蹴られるのを何とか手で止めながら話し続ける。

「高校の時、おれの目の前で人が吹っ飛んだことあるからね」
「えええっ」
「すごかったんだよ。飛び蹴りが見事に決まって……」

 言うと、慶ははて?と首をかしげた。

「そんなことあったか?」
「なんで忘れてんの?!」

 この人、ホントに覚えてないんだよなあ……

 でも、泉君とライトは「わー」と尊敬の眼差しで慶を見ると、

「すげーっオレも教えてほしいっ!」
「飛び蹴りみたいっ!」

 わーわー盛り上がりはじめたけれど、侑奈が「ちょっと待って!」と手をパタパタしたので言葉を止めた。

「どした?」
「としたじゃないよ。話が読めない。マリサがあの子達に何か嫌なこと言われたってこと?」
「…………」

 そうだった。侑奈はジュースを買いにいっていて見ていないんだ。

「大丈夫? マリサ」
「うん」

 心配げに侑奈に聞かれたマリサは、こっくりとうなずくと、

「お兄さん達が守ってくれた」

 そう言ってにっこり笑ってくれた。


***


「あー、いいなあ……マリサ」

 迎えにきた母親に連れられて帰って行くマリサの後ろ姿を見ながら、ライトがボソッと呟いた。

「マリサのママ、マリサによく似た美人のママで」

「何言ってんだよ」
「何言ってんの?」

 泉君と侑奈が一斉にツッコむ。

「ライトのママだってすごい美人じゃん」
「そうだよ。マリサのママとはタイプ違うけど」
「しかも若いし」
「そうそう。とてもこんな大きな息子がいるとは思えない」

 二人が口々に言うと、高瀬君が隣の泉君にコソッと聞いた。

「なんで二人ともライトのママのこと知ってるの?」
「なんでって、お前が事故にあった日のバスケの試合にきてただろ」
「え」
「その後、一回夕食一緒に……あ、お前、誘ったのに来なかったもんな」
「え、えええ?!」

 うそ……あれ、ライトのママだったの? と、高瀬君が呆気に取られたようにいっている前で、ライトが再びはあっと息をついた。

「ね? 見えないでしょ? ママンだって思わないでしょ?」
「そりゃ思わない……」
「だよねー……」

 ライトのため息に、侑奈が「あ、そういうことか」と肯いた。

「ママと自分が親子に見えないのが嫌って話?」
「嫌っていうか……まあ、しょうがないことだとは思うけどさ~」

「まーそうなんだよね。私もお父さんと一緒にいても、父親だってまず思われないもん。ママがいたころは、3人でいたら親子だと思ってもらえたけど」
「……だよね」

 あーああ、と、またため息をつくライト……

「何かあった?」
「…………。何もないよ? ちょっと思っただけ」

 とても「何もない」ではない表情だけれども、それ以上踏み込ませない雰囲気のため、黙ってしまった。やはり、ライトとは一度ゆっくり話をしたい……

「まあ……世間の認識って幅が狭いからな」
「そうだね」

 間を埋めるように言ってくれた慶の言葉にうなずく。

「みんな世界観狭いよね………、?」

 その時、何か言いたげに高瀬君がこちらに視線を動かしたことに気がついた。

(…………あ、そうか)
 これはチャンスかもしれない。なるべく自然な形で言葉を続ける。

「個人の趣味嗜好もそうだよね。例えば……ぬいぐるみを好きな男の子だってたくさんいるのに、ある程度大きくなったら、それはオカシイことだと決めつけられて、取り上げられてしまったり……」
「…………」
「男の子は女の子を、女の子は男の子を好きにならないといけない、っていう『常識』を押し付けられたり」

 慶とくっついている膝がピクリと揺れた。一瞬その膝に手を置いてからすぐ離し、自分の頭にのせる。

「男の方が背が高くないといけない、とかもそうかも」
「あー、それね!」

 侑奈が、うんうんうなずく。

「私、わりと背高いから、周りの人に勝手にあの人はダメとかあの人は大丈夫とか言われるんですよ! 私的には私より低くても全然オッケーなのに」
「相澤さん、何センチ?」
「68です」
「………はち……」

 うっと胸を押さえた慶。ここにも身長にとらわれている人が一人……。(慶は164センチだ)

 侑奈は、うーん、とうなると、

「うち、お父さんよりママの方が10センチ以上背が高かったから余計にそう思うのかも」
「あ~なるほど。育った環境ってやつだね」

 うんうんうなずいていると、ライトがうひゃひゃひゃひゃといつものように笑いだした。

「そっかーユーナちゃん、背の高い男が好みなのかと思ったら違うんだ~良かった~」
「あ、好みの話になると話は別! 背が高い方が好み!」
「ええええっ結局そうなの~!?」

 大袈裟に騒ぎ立てるライトに、慶がボソッと聞く。

「ライト身長いくつになった?」
「こないだ測ってもらったら、74だった~」
「……ななじゅうよん……」

 うううっとさらに胸を押さえた慶。……かわいすぎる。

 子供たちは引き続き身長の話で盛り上がっている。

「ライト、74っておれと同じだぞ? もっと高いのかと思ってたのに」
「え、そう?」
「え、そんなことないんじゃない? むしろ泉の方が背高く見えるよ?」
「マジか」

 侑奈に言われて嬉しそうな声をあげている泉君。その横で複雑な顔をしている高瀬君……

 うーん………身長の件に関しては、やはり問題解決するには時間がかかりそうだ……


***

 休憩時間が終わった侑奈とライトが持ち場に戻った後、高瀬君と泉君と一緒にお祭りを見て回った。
 泉君と慶がなぜか射的にはまってしまい、まだやる!まだやる!と、何度も挑戦している間、

「先生……ちょっといいですか?」

 高瀬君がボソッというので、射的のテントから少し離れた木陰に移動した。

「えーと……」
「泉君と、上手くいったんだよね?」

 言いにくそうなのを引き継いで言うと、高瀬君はホッとしたように息をついだ。

「はい……それで、ご相談が……」
「相談?」

 首をかしげると、高瀬君はいたって真面目な顔をしたまま、ハッキリと、言った。

「抱かれる側の準備、みたいなのがあったら教えていただきたいんです」
「………………」

 あー……、それね……。

 さて、何から教えたらいいんだろうか……

 教師生活もうすぐ丸5年。家庭教師のアルバイトも含めたらもうすぐ丸9年。

 最難関の問題だ………




---


お読みくださりありがとうございました!
前半、真面目な話でm(_ _)m
多種多様なこの世の中、人種・性別・年の差・その他諸々色々な形があるということをみんなが分かってくれれば……と思うわけです。

前クールに「地味にスゴイ!」というドラマがありまして……
このドラマのすごくいいなーって思ったところが、主人公の同僚(男性)が、取引先の男性に片想いをしていて、で、そのうち自然と二人が付き合うことになってた、ってとこなんです。
一切、「特別なこと」としては描かれず、普通の男女間の恋愛のように、あれ?もしかして~?と職場のみんなもニヤニヤしてて……みたいな。
これが、理想の形だよな!って思うわけです。特別なことでもなんでもないっていうのが……

ということで、次回はこの続きを諒君視点で。すっかり小学生時代に戻ったようなかわいい諒君(*^-^)

次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 

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