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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 15-1(浩介視点)

2017年01月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 交通事故にあって、しばらく部活を休んでいた高瀬諒君が、ようやく部活に出てきた。

(何かあったな……)

 しかも、良いことが。

 本人は、普通にふるまっているつもりかもしれないけれど、明らかに醸し出す雰囲気が変わっていた。もう一人の顧問の田中早苗先生も「高瀬君、吹っ切れた感じがしますね」と言っていたし、帰る頃には他の部員もそんなことを話しはじめていた。

 みんなが話している過程と結論はこんな感じ。

1.高瀬君は半年前、相澤侑奈と付き合うことになり、ぴたりと女遊びをやめた。でも、交際半年で破局。どうやら交通事故もそのことが絡んでいるようだ。

2.その後、高瀬君は人が変わったかのようにやさぐれてしまい、部活も休んでいた。でも、夏休みに入って4日目の今日、相澤侑奈と一緒に登校してきた(侑奈も吹奏楽部の練習があるのだ)。

3.雰囲気も明るく柔らかくなったし、これは復縁したのでは!?


 そこで、お調子者の新キャプテンが、みんなを代表して「彼女とヨリ戻したのか?」と聞いていた。でも、高瀬君はにっこりと「友達に戻ったんだよ」と否定。

「じゃ、女食いの高瀬復活か?!」
「おこぼれくれー!」
「一緒にナンパいこー!」

 みんながこぞって言ったけれど、高瀬君は「もう女は懲り懲り」とニコニコ。そのあまりにも幸せそうな笑顔にみんな毒気を抜かれてしまっていた。


 高瀬君は部活中も、時折おれの方を何か言いたげに見てくれていた。でも、まわりに人がいすぎて結局何も話せず……。でも、その視線だけで充分伝わってきた。

(泉君と上手くいったんだ……)

 ほっと体の力が抜ける。ああ、良かった……。


***


 その週末、ライトと相澤侑奈に誘われて、慶と一緒に、ある地域のお祭りに行った。
 そこで、二人が所属する日本語ボランティア教室が、カバブの屋台を出店し、宣伝チラシの配布を行うという。そのお祭りが行われる公園では、他にも色々な団体が屋台を出したり、ステージ発表をしたりするそうで、相当の人出が期待できるそうだ。

 この教室は、おれが所属している国際ボランティア団体傘下の教室の一つであり、日本語に不自由な子供向けの学習塾のようなことを行っている。

 元々おれは、大学の時に友人に誘われて、大学のボランティアサークルに参加していたのだけれども、そのサークルがこの国際ボランティア団体に加盟していた関係で、大学卒業後は、直でその団体の日本支部のメンバーになった。仕事があるため、学生の頃のように実働部隊としてあまり参加できない分、学生の頃にはできなかったこと(ケンカで補導されたライトを迎えに行った、なんていうのはその極端な例だ)をしている……と思う。


「あ、浩介センセー! と、慶くーん!」

 そのイベントの行われている公園の一角。テントの下でカバブに入れるための肉を焼いているライトが元気に手を振ってきた。

「慶くんも食べてー!」
「おー」

 慶も肉の焼ける良い匂いに嬉しそうに手を振り返している。そんな慶を見られることが、おれは何よりも嬉しい。
 慶は朝ごはんもちゃんと食べたのに、公園の入り口近くで地元野球チームの子供達が売っていたホットドックも食べていた。でも全然足りないらしい。昔と変わらず慶は細いくせによく食べる。この美貌の維持にはそれだけのカロリーが必要なんだろうか…… 

 そんなことを思いながら、カバブを一つずつ注文し、どこかに座ろうと席を探していたところで、

「あ、桜井先生」
「あああ!!」

 簡易テーブル席でカバブを食べている泉優真君と高瀬諒君に出くわした。思わず、といった感じで叫んでしまった高瀬君に、泉君がツッコミをいれている。

「なんだよ、諒。その、あああ!って」
「あ……ううん、なんでも……ない」

 おれと慶が付き合っている、と話してから、慶とはじめて会うので、おもわず出てしまった叫びかもしれない。でも泉君は何の反応もないところを見ると、高瀬君、泉君には話していないようだ。……まあおれも、二人のことは慶には話していないけど。

「もしかして先生たち席探してる? ここどうぞ?」
「お。ありがとー」

 事情を知らない泉君と慶が、さっさと相席を決めて座ってしまった。
 おれも横に座りつつ、苦笑しながら高瀬君を見ると、高瀬君は恥ずかしそうにカバブの続きを食べ始めた。

(……違う子みたいだ)

 今まで学校で見てきたクールな高瀬君。病院で内心を吐露してくれた苦しそうな高瀬君。そのどちらでもない、可愛らしい男の子。

(少し幼くなった……かな)

 こんな素直な様子を見せてくれるなんて。やっぱり泉君への想いが通じたんだ。そうに違いない。

(良かった………)

 思わずニコニコしながら、二人の様子を見てしまっていたら、カバブを持ってきてくれたライトがつっこんできた。

「浩介先生、ヘラヘラしてるけどどうしたの~?」
「そ、そんなことないよっ。お、美味しそうっ」
「でしょでしょ? オレもここで食べる~」

 ライトは気にした様子もなく、トレイをテーブルに置くと、

「これから休憩なんだ~。慶君、イス半分こしよ~」
「あ? ああ、いいぞ。ここ座れ」

 慶はうなずくと、当然のようにオレのイスに移ってきた。半分で座るので、必然的に体が密着することになる。教え子の前でちょっと気恥ずかしいっ

「もーオレと半分こって言ったのにー慶君と浩介先生、あいかわらず仲良いよねー」
「親友だからな」
「いいなーうらやましー」
「………」

 ライトと慶のやり取りに何だかいたたまれない気持ちになっていたところで、今度は侑奈がやってきた。

「私もここで食べていい? 1時間休憩なの」
「おお!ユーナちゃん! 是非是非、オレとイス半分こ……」
「泉、ここどいて」

 侑奈は、当然のように泉君のことを少し小突いてどかせ、自分がその席に座った。そして泉君は、

「……諒、ちょっとずれろ」
「う……うん」

 うつむいたまま、座っている位置を少し動いた高瀬君の隣にすとんと座り、カバブの続きを食べ始めた。2人とも何事もなかったかのように無言。……でも。

(二人とも、顔赤い……)

 う、初々しい……

 見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
 そんなことを知らないライトがギャーギャーがなり立てている。

「もうっユーナちゃんまでーっ。オレとイス半分こしてくれる子はいないのー?!」
「うるさいよ。……あ、マリサ、おいでー!」

 侑奈が手招きした先に、この日本語ボランティア教室に参加している女の子がいた。黒目がちな大きな目が可愛らしい子だ。お母さんがインドネシアの人らしい。

「マリサも食べるー?」
「ううん。さっき、食べた」
「じゃ、ジュース飲む?」
「うん」
「ここで待ってて」

 侑奈がさっと立ち上がって、ジュースを買いに行くと、マリサはそちらの方をジッと見たまま立ち尽くしてしまった。大人の男2人と、高校生男子3人のテーブルに座って待つのは抵抗があるのだろう。

「マリサ……」
 座って待ってれば、と声をかけようとした時だった。


「あー、マリサちゃんだー」
「あっホントだーマリサちゃんだー」

 マリサと同じ小学校一年生かもう少し上くらいの女の子2人がマリサに声をかけた。

「………っ」

 ビクッと怯えるように震えたマリサ……
 それにも構わないように、少女たちはトゲトゲしい言葉を投げかけてきた。


「マリサちゃん、まだ日本にいるの?」
「ママの国に帰るんじゃなかったの?」




---


お読みくださりありがとうございました!
って、中途半端なところですが、長くなるのでここで切ります。
この二回ほどものすっごい真面目な話でございます…
でもこの「嘘の嘘の、嘘」で書きたかった主題の一つです。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。


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(BL小説)風のゆくえには~R18・受攻変更?!

2017年01月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ R18・読切


浩介先生27才のお誕生日(2001年9月10日)の前日のお話です。

(長編『嘘の嘘の、嘘』と時期がかぶっているため、嘘嘘のネタバレしてます)


桜井浩介:高校教師。身長177cm
渋谷慶:研修医。超美形。天使のような外見を裏切る男らしい性格。浩介の高校時代からの親友兼恋人。身長164cm。


7月上旬、教え子の男子生徒を庇って交通事故にあい、肋骨を骨折した浩介。
その教え子から「自分は彼よりも背が高いから抱いてもらえない……」と悩みを打ち明けられ、「身長差は関係ない。自分達は両方してる」とついつい嘘をついてしまいました。(本当は、浩介×慶で固定です)

真面目な浩介先生、嘘をついたことがどうにもこうにも気になってしまい……
で、「そうだ!嘘を本当にすればいいんだ!」と思いついちゃいました。

かーらーのー、以下、浩介視点。単なる下ネタ。


----



 誕生日前日の夜、仕事終わりの慶がオレのアパートに来てくれた。明日の月曜日、オレは仕事だけど、慶は夕方まで休みなので、泊まってくれるという。

「で? 誕生日プレゼント決めたか?」
「うん」

 食事が終わり、慶が買ってきてくれた誕生日ケーキを食べながら、毎年恒例の会話をする。今回は付き合いはじめてからちょうど10回目の誕生日だ。

「慶が欲しい」
「…………。だからお前、それ毎年言うけど……」

「あ、ちがくて。本当に慶が欲しいの」
「………………は?」

 綺麗な眉をひそめた慶。ああ、その額に口づけたい。けど、話が進まなくなるから我慢我慢……

「あのね、前に話したお友達に片思いしてた男の子がね、晴れて両想いになったんだって」
「おお!そりゃ良かったな!……って、それで……」
「それでー……」

 最後の一口のケーキを口の中に放り込み、コーヒーを飲み干す。

「その子ね、相手の子より自分の方が背が高いから、抱いてもらえないって悩んでて……」
「…………」

「それでつい、身長差は関係ないよ、おれは両方してるよって言っちゃって……」
「…………え」

 慶のフォークを持つ手が空中で止まってしまった。

 え、もしかして怒った……?

「あの……慶」
「お前……自分の生徒に言って大丈夫なのか?」
「あ」

 それか。そうか。そういえばそうだった。

「ごめん……慶のことも言っちゃった……」
「え」

 は? という顔をした慶にブンブン手を振る。

「でもでも、信頼できる子だし、話したのはお互い様というか……」
「…………」
「………勝手にごめんなさい」

 頭を下げると、慶は「いや、それは別にいいんだけど」と言ってフォークを皿の上に置いた。

「じゃ、欲しいって……」
「あ……、うん。嘘ついてるの嫌だなって思って。だったらホントにそういうことにすればいいんじゃないかなって……」
「………………」

 慶は、ものすごく真面目な顔でおれを見返してきた。

「体調はどうなんだ?」
「え、あ、肋骨のこと?」
「痛みは?」
「大丈夫だよ。もう、二ヶ月だよ?」

 主治医の先生からは、少し前から軽度な運動はしてもいいと言われている。なのに、過保護な慶は、いくら大丈夫だといっても、この二ヶ月の間、一度もやらせてくれなかった。(まあ、抜きあいっこはしたけど……)
 夏の旅行も、大丈夫っていったのに、キャンセルするし、ホント過保護……。それだけ心配してくれてるってことだけど………

「だから、お願い」
「……………」
「今日は慶がしてくれませんか?」

 言うと、慶は真面目な顔を崩さず、残りのケーキを食べきってから、コーヒーカップに手を伸ばした。

「…………慶?」
「…………あー……」
「?」

 飲み終わってしまうのがもったいないかのように、慶はカップに口をつけては離し、を繰り返してから、ボソッと言った。

「おれ、自信ないんだよなー……」
「? 何が?」

「するのが」

 え?

「慶……」
「前にしたとき、お前スゲー痛がったし……」
「それは……」
「それにおれ、途中で萎えちゃったし」
「…………」

 それ、気にしてたんだ……

「でも慶、それ、8年も前の話だよ」
「あー……まあなあ……」

 うーんと唸った慶。

「でも、絶対、お前みたいに上手くできねえぞ?」
「……っっ」

 嬉しい発言に、鼻血が出そうになる。
 小首を傾げた慶を今すぐ押し倒したい。けど、今日は我慢我慢……

「………そんなこと言って、おれ達、慶が主導権握ってること多いじゃん。騎乗位の時なんか完全に慶でおれ何もさせてもらえないし」
「あー……」
「あの感じですればいいんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか?」
「あー……」

 慶は、あー、とか、うー、とか言った挙げ句、観念したようにうなずいた。

「………誕生日だしな」
「うん!」

 誕生日プレゼントは慶で、お願いしますっ!


***


 とは言ったものの……

 おれの方がものすごく不安だ。
 一応、この数日間、いつも使っているジェルを自分の指にまとわせて、自分でしてみたら、二本までは何とかなるようになった。けど、それ以上は怖くてできなくて……

「まあ……するの自体、久しぶりだからな。すぐ臨戦態勢だな」
「臨戦態勢……」

 確かに……
 少ししごいただけで、慶のものはすぐに力強く芯を持った。そこにジェルを塗りつけてあげる。……指二本の倍以上あるよな……ホントに入るのかな……

「正常位は体に負担かかるだろ。やっぱバックにするか」
「う………うん」

 覚悟を決めて枕を抱え込んでうつ伏せになる。と、

(うわわわわっっ)

 慶の細い指が、するりと中に進入してきた。探るように、中をえぐってくる。こ、これは……っ

「け……慶っ!?」
「あ、悪い。つい……」
「って!?」
「直腸診っていって、大腸ガンとか大腸ポリープとかを……」
「けーいー!!」

 なんでここで医者モード入ってんのーー!!

「真面目にやってよ!」
「あー、悪い悪い」

  あはは、と笑いながら、今度はたぶん指の数を増やして様子をみてる感じ……。そんな時間かけられても耐えられない。緊張度が上がるだけだ。

「慶……」

 さっさとやって、というのを遠回しにいうには何と言えばいいだろうか。

「あの……」
「まあ、やってみるか」
「…………」

 慶はあっさりというと、熱いものを入り口にあてがった。

「はじめが入ればあとは何とかなるだろ」
「う……うん」

 こういうとこ、ホント慶は男らしい………………、と!

「…………!!!!」

 うっと声が出そうになるのを何とかこらえる。8年前のあの異物感がよみがえってくる。

「……ちょ、浩介、力抜け」
「………う」

 そ、そんなこと言われても……っ

「息止めんな。吐け」
「…………」
 ふーふー、と息を吐き出しお腹から力を抜く。

 慶がぐりぐりと中に進入してきて……ぐっと奥まで入りきった感じがした。

 なんとか出来た………!?

「…………きっつ」
「…………」

 苦笑気味にいった慶。
 そして、しっかりと腰をおさえられ、ゆっくりと律動がはじまる。

「………っっ」

 声を上げないのがやっとだ。ものすごい異物感。こんなんで「一つになれた」なんて喜びを感じることなんてできるわけがない。

(早く終わって……っ)

 申し訳ないけど、そんなことを思ってしまう。

(この感じ、なんかに似てる……)

 なんだろう……、と思って、はっ!と気がついた。

(あれだ、あれ。胃カメラだ)

 数ヵ月前、実家でのストレスからか、胃痛がひどくて病院に行ったら、念のため胃カメラを飲まされたのだ。喉の部分のみ麻酔をしただけなので、カメラが自分の中に入っていく感じがありありと分かり……

(そっくりだ。早く抜いてくれ、終わってくれって感じが……)

 もしかしたら、正常位でして、慶の感じている顔を見ながらだったら、また違うのかもしれないけれど、バックだから何も分からない。
 異物感は確かに続いているので、8年前と違って萎えていないことは喜ぶべきなんだろう。でも、でも……

(早く終わって……)

 ほとんど泣きそうな気持ちでそう思っていたところ……

「浩…っ、ちょ、もう、我慢できねえ」
「…………っ」

 わずかな息づかいしかしていなかった慶が、突然、腰を押し付けるようにして言ってきた。

「…………うん。イって?」

 それは願ったり叶ったりだ!と思って言うと、慶は小さく「違うっ」と否定した。

(違うって、まだイかないの!?)

 うわ、もう無理だよ……っと、絶望的な気持ちになったところで、

「え?」

 急に体が楽になった。慶が引き抜いたのだ。でも、まだまだ戦闘態勢なのに……

「慶? どうし……」
「だから、我慢できねって」
「え?」

 次の瞬間、乱暴気味に枕を取られ、仰向けに寝かせられた。そしてその綺麗な顔が近づいてきて、おもむろに唇を重ねられる。

「!?」

 激しく吸い込まれ、息が苦しくなる。同時に下も温かい手で握られ、しごかれ、あっという間に固くなってしまった。

「け、慶……?」
「考えてみたら、二ヶ月以上ご無沙汰だった」
「え」
「お前が欲しくてケツの穴がウズウズして我慢できねえ」
「…………っ」

 わ、そんな、直接的な表現、珍し……っっ

「……っ」
 雑にジェルを塗られ、慶の入り口にあてがわれる。

「慶……っ」
「お前の、くれ」
「あ……、んんんんんっ」

 ズズズと入っていく感触。捕らえて離さない熱さ。慶の中が蠢いていて………

「慶……慶っ」
「病人は動くな。じっとしてろ」
「もう病人じゃ……、んんんっ」

 あとはもう、何も考えられなかった。
 慶の中は熱くてきつくて、慶の白い喉が、息づかいが色っぽくて、快楽の頂点に確実に連れていってくれて……

「慶、イっちゃう……っ」
「待て……っあとちょっと……っ」
「ん……あっ」

 抜ける寸前まて腰をあげてから、グッと深く押し入れられる、というのを何度もされ、もう限界が……っ

「慶……っ」
 握っていた手に更に力を入れて、その愛おしい瞳を見上げると、 

「浩介」
「………っ」
 ふっと優しく名前を呼ばれ、心臓が鷲掴みされたようになる。

「慶……」

 ああ、おれは愛されてる。
 そして、何よりもこの人を愛してる。

「慶……っ」
「ん」

 身を起こし、抱きしめる。抱きしめられる。キスをする。全てが繋がる。一つになる……。

「大好き慶」
「……ん」

 このままずっと、一つでいたい。ずっとずっと、一つでいたい……。
 

***
 

「あ、しまった。今日はおれがするんだった」

 終わってから、狭いお風呂に無理やり一緒に入っている最中に、慶が今更なことを言い出した。

「もう一回するか?」
「…………う」

 もう勘弁願いたい………

 そう思っていたら、慶がケケケと笑った。

「もう二度とごめんだって顔してる」
「え?! そ、そんなことは……っ」

「じゃあ、するか?」
「…………」

 黙ってしまったら、慶はくくくと笑って、オレの頬にチュッとキスしてくれた。

「誕生日おめでとう」
「え」

「12時過ぎた」
「あ、ホントだ」

 デジタル時計が0時を過ぎたことを示している。

「プレゼントは……」
「もう充分です……」
「そうか」

 慶は引き続き、くくくと笑い続けている。

 愛する方法なんてどっちでもいい。こうして、一緒にいて、笑ってくれていれば、もう充分だよ。

「慶。来年も再来年も、ずっとずっと一緒にいてね?」
「当たり前だ」

 にっと笑って、今度は唇にキスをくれた慶。

 あなたがいてくれれば他には何もいらない。



---


お読みくださりありがとうございました!

ちなみに、この誕生日の一年後が「その瞳に1」になります。
ということは、「来年」は一緒にいますが「再来年」は別々ですな……

あ、さらにちなみに。8年前に慶が萎えちゃったという話は、2015年5月に書いた「受攻試行・慶視点」「受攻試行・浩介視点」になります。初めての挿入!編です。浩介が大学1年なのでまだ身長が176センチです。


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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 14-5(泉視点)

2017年01月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 頭の中が真っ白になるとは、こういうことをいうのだと思った。
 
「優真……優ちゃん……大好き、大好きだよ……」

 襖の向こうの諒の声……
 夢にまで見たセリフ……

 頭の中が真っ白だ。


「ちゃんと聞いてた? 泉」
 襖が開き、聞こえてきた侑奈の声にも、頭と体が固まっていて反応できなかった。

「大丈夫? 泉優真君?」
「え…………」

 見返すと、侑奈の後ろで諒は真っ青な顔で立ち尽くしていて……

 なんなんだ。どういうことだ、これは……

 思わず呟いてしまう。

「これ、ドッキリとか……?」
「んなわけないでしょ。馬鹿じゃないの」

 呆れたように侑奈は言うと、

「泉、靴、ベランダだから。ちょっときて」
「え」

 オレの腕を掴んで、そのまま台所にあるベランダ側の窓の前まで引っ張ってきた。

「ねえ、泉」
 小さい、真剣な声で侑奈が言う。

「私、泉が誰のこと好きなのか、気がついちゃったよ?」
「え……」

 息を飲み込む。

 それは………、それは…… 

「泉。もう、嘘はやめて」

 侑奈の茶色の瞳。穢れのない真っ直ぐな光が眩しいほど輝いている。

「私のせいで両想いのあんた達がくっつかないのはごめんだからね?」
「………え」

 ニッと笑った侑奈。
 それは今年の正月にオレが言ったセリフだ。

『オレのせいで両想いのお前らがくっつかないのはごめんだぞ』

 あの時、オレが侑奈を好きだから、侑奈に手を出すわけにはいかないって、諒が言って……

「両想いって……」

 誰と、誰が…………

 ゴクンと自分が唾を飲み込む音が耳に響いた………、その時。

 バタンッ

 玄関が閉まった音が聞こえてきた。途端に侑奈が「あああ!」と叫んだ。

「諒が逃げた!」
「え?」

 逃げた?

 侑奈は「まったくもー!」と怒りながらベランダに出る窓を開けると、

「ほら、さっさと追いかけて!」
「わっ」

 ベランダに隠してあったオレの靴を突きつけてきた。

「もう、嘘はおしまい」
「……ユーナ」

 ふっと優しく笑った侑奈。

「諒のこと、お願いね」
「……………」

 その微笑みは今までみた中で一番柔らかくて。まるで、女神のようで。

「それでまた、仲良し3人組に戻ろうね?」
「……………」

 仲良し3人組………戻れるのか……?

「あ、違うね」
 侑奈はいたずらそうに言った。

「戻るんじゃなくて、新しい形の仲良し3人組に、なろう?」
「新しい形……?」

 それは………
 言いかけたけれど、遮られた。

「まあ、その話は今度でいいから!」
 再び靴をぐいっと胸のあたりに押しつけられる。

「今はとにかく、諒を追いかけることが先!」

 侑奈の目が真っ直ぐにオレを見上げてくる。

「諒を……抱きしめてあげて」
「………………」

 その綺麗な瞳にコックリとうなずき、靴を受けとる。

 小学5年生で出会った時にオレは思った。侑奈は救いの女神だと。
 だから、女神の言うことは絶対だ。

 諒を抱きしめよう。


***



 外に出ると、ムワッと息苦しくなるほどの暑さが襲ってきた。とりあえず、家に向かって歩いていたのだけれども、

(………もしかして)

 直感、みたいなものが働いて、いつも遊んでいた公園の中に入ってみる。
 夏休みだというのに人っ子一人いないのは、この暑さで遊具が熱くなっていて危険なため、使用禁止の張り紙がされているからだろう。

(………あ)

 上が滑り台になっていて、下はトンネルのようになっている遊具の中に、人影が見えた気がして近づいていく。
 小学生の頃の記憶がよみがえってくる。二人でくっついて座って、雨の音を聞いていた幸せな時間………

「…………諒」
 トンネルの中をのぞきこむと、案の定、諒が膝を抱えて座りこんでいた。………狭そうだ。

「………。暑くないのか?」
「…………」

「ああ、日陰になってるから中は案外涼しいんだな。上の滑り台はメチャメチャ熱くなってるけど」
「…………」

 言いながら、諒の隣に座りこむ。当たり前だけど、狭い。

「お前……変わんないな」
 諒は小学校の時、嫌がらせをしてくるクラスメートから逃げてきては、ここでこうして隠れるように座っていた。オレが迎えに行くまでずっと座っていた。

「………変わったよ」
 ポツン、と言う諒。膝に顔を埋めたままなので、どんな表情をしているかは見えないけれど、きっとあの頃みたいな泣きそうな面をしているんだろう。

 やっぱり、お前は何も変わってないよ、諒。
 
「諒」
「……っ」

 膝を抱えている腕を掴むと、諒はビクッと震えて、振りはらおうとした。でも、強く掴み続けてやる。

「逃げるな」
「だって……っ」

 ようやく顔をあげこちらをみた諒。唇をかみしめて眉を寄せて……、ほら、泣きそうだ。

「だって、泉、オレ……っ」
「とりあえず、泉、は、やめろ」
「え」

 ますます眉を寄せた諒の眉間を指でグリグリしてやる。

「本当は、泉って呼ばれるのずっと嫌だったんだよ、オレ」
「え………」

 ポカン、とした諒の頬に、眉間から指を滑らせる。

「あのさ……」
「…………」

 ポカンとし続けている諒の頬をきゅっきゅっと覆う。

「オレ、お前に聞きたいことも言いたいことも色々あるんだけど……」
「………っ」

 再び逃げようとするように身じろぎをした諒。でも、逃がさない。引き続き、右手は腕を掴み、左手は頬を囲んだまま、もう一歩、顔を近づける。

「諒」
「………」

 諒が震えるように小さく首を振る。

「優真、オレ……」
「待てって」

 優真、と呼んでくれたことに嬉しくなりつつも、言葉を遮る。

「一つ、先に言わせてくれ」
「………何?」

 怯えるような目を向けてきた諒の唇を、そっと指でなぞる。

「優ちゃ……?」
「諒」

 そして、そっと唇を合わせる。
 触れるだけ、の、キス。でも前みたいにかすめるだけじゃなくて、ちゃんと、触れるキス。

「ゆ……」
「諒」

 そして、抱き寄せる。狭いトンネルの中、なんとかぎゅっとその愛しい頭をかき抱く。

「ずっと、ずっと、お前のことが好きだった」

 抱きしめた腕に力をこめる。

「これからもずっとそばにいて、ずっとずっと守ってやるからな?」

 息をつめたような気配のあと、腕の中の諒は静かに涙を流しはじめた。



---


お読みくださりありがとうございました!
ようやくここまで辿りついた……
次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 14-4(泉視点)

2017年01月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 自分でも歪んでいると思う。 
 親友の諒と侑奈がしている最中の音を、隣の部屋で盗み聞き……

「ユウ……」
「あ………んんっ」

 諒の侑奈を優しく呼ぶ声と侑奈の喘ぎ声に興奮しながら、自慰行為をする。それが今のオレの唯一の発散方法。

(………諒)

 心の中でその名を呼ぶ。目をつむり、聞こえてくる「ユウ……」という言葉を「ユウマ」の「ユウ」に置き換えて、自分が呼ばれている錯覚に陥りながら、諒に攻めたてられるところを想像して、自らの手で自らを慰める。

 家で一人でするときは、諒のオレを頼りきった瞳を思い浮かべて、自分が諒を抱くイメージを持つんだけど、この場にいると、侑奈にシンクロしてしまうのか、自分が抱かれているような気持ちになることが多い。

 どちらであっても、諒を欲しいと思う気持ちに変わりはなく……、そして、どちらであっても、果てた後には虚しさが襲ってくる。

 こんな歪んだことを続けていていいはずがない。分かってはいても、どうしようもなかった。小学生の頃から抱き続けている思いは、醜い劣情となってオレを苦しめる。


***


 二人が付き合いはじめて5ヶ月たち……

 周りから見たら、オレはお似合いカップルの「お邪魔虫」でしかない。だから、二人とは距離を置くべきなんじゃないか、と思いはじめていた。 

 それなのに、諒はオレの気も知らないで、オレに抱きついてきながら、

「どうして、今のままじゃいけないなんて言うの?」

 なんて、小学生に戻ったような口調で言う。
 抱きしめ返したい気持ちをおさえて、ゆっくり頭を撫でてやる。頭を撫でるのはすごく、すごく、久しぶりで……

「お前……バカ?」
「うん……」

 さらにぎゅうっと強く抱きついてくる諒……
 幸福感で気が遠くなりそうになったけれど……

 翌日の夜、諒が侑奈を抱きしめているところを目撃してしまい、一人暗い穴の中にゆっくり落ちていくような感覚に囚われて、立ちすくんでしまった。

(やっぱり、今のままではダメだ……)

 この二人は本当にお似合いのカップルで。オレなんかが立ち入る隙はどこにもなくて。
 でも、これからも一緒にいたくて。
 だから……だから。



 タイミング良く、ライトが合コンに誘ってくれたので、二つ返事で行くと答えた。

 諒も侑奈も相当驚いていたけれど、オレが二人と一緒にいるためには、オレはオレで恋人を作ればいい。それしかない、と思った末での決断だった。


 ただ、その前に一つだけ、どうしても我が儘を許してほしい。


 せめて、初めてのキスは諒と………


 だから、合コンの日にちを設定するのに少し時間をもらった。チャンスは試験前、と思っていたからだ。

「オレが考える理想的なシチュエーションなんだけどさっ」

 試験勉強にかこつけて諒の部屋で二人きりになり、なるべくわざとらしくならないよう話を持っていって、それで……

「…………」

 ほんの少しだけ、唇と唇を合わせた。

 諒が驚いたように瞬きをしたので、すぐに離したけど、でも、出来た。ほんの少し触れただけなのに、震えるほど愛しい感触……

 しかも、あれだけ女遊びしているくせに、諒も唇にキスをするのは初めて、という、とんでもない事実まで知って……

(もう、充分だ)

 こんなに幸せなことはない。
 もう、先に進もう。この幸せな感触を胸に、先に進もう……



 そんなことを思っていたから、バチが当たったんだろうか。諒が交通事故にあってしまった。しかも、オレの目の前で……

 守るって約束したのに。いつでも助けるって誓ったのに……

「ごめんな、諒、ごめん。約束守れなくて、ごめん。助けてやれなくて、ごめん」

 気がついたら、倒れた諒を抱きしめて口走っていた。言葉が止まらなかった。

 やっぱりオレは他の奴と付き合うなんてできない。一生叶わない想いだってわかっているけれど、それでも諒のそばにいて、諒を守ることができればそれでいい。



 桜井先生のおかげで、諒は軽い打撲傷だけですんだ。
 それなのに一週間も学校を休んだ諒。毎日家に行ったけれど、会ってもらえず……
 ようやく出てきてからも、話しかけてもロクな返事もしないし、誘っても無視するし、こんな諒は初めてだった。

 その上、

「相澤とは別れる」

 突然の、侑奈とは別れるという宣言……

 意味が分からない。

 その後も、諒はオレと侑奈のことを無視し続けた。無視は辛い。こんな辛い日々は生まれて初めてだ。



***



 夏休みに入って3日目。
 最高気温35度以上になるという猛暑日の中、侑奈の家に呼びだされた。

「諒に本心を言わせるから、ここで隠れて聞いてて」

 侑奈はそう言って、オレをリビングの侑奈の部屋との仕切りの襖の前に座らせると、「靴はベランダに置いておくね」と言って出て行ってしまった。

(………本心?)
 侑奈の言っている意味がイマイチ分からない。分からないまま、しばらくしてから呼び鈴がなり、諒の低い声が聞こえてきた。

(……諒)
 ドキン、と正直に心臓が跳ね上がる。


 でも、この後、その数千倍の跳ね上がりの瞬間がおとずれる。

 聞こえてくる諒と侑奈の会話は、よくわからない内容だった。頭に疑問符がたくさんついたまま話は終わった。
 それから二人が抱き合うような音がして……、そして、はっきりと、襖の向こうから聞こえてきたのだ。


「優真、優真……優真、優ちゃん……」


 ……え?
 諒の声に耳を疑う。オレ、ついに幻聴が聞こえるようになったのか…?
 でも続いた言葉に、心臓が跳ね上がる。


「優真……優ちゃん……大好き、大好きだよ……」


 え………


 思わず立ち上がる。

 どういうことだ?
 どうしてオレの名前を呼んでいる? 大好き? 大好きって……


 呆然としている中、

「ちゃんと聞いてた? 泉」

 襖が開き、涼やかな声が聞こえてきた。

「大丈夫? 泉優真君?」
「え………」

 侑奈の声の方を見返すと、その後ろで諒が真っ青な顔をして立っていた。



---


お読みくださりありがとうございました!
今回めっちゃ「処理回」(^_^;)
さっさと終わらせたくて、猛スピードで泉君に振り返ってもらいました。

詳しくは、

「どうして、今のままじゃいけないなんて言うの?」の話がこちら→ 7(泉視点)
翌日の夜、諒が侑奈を抱きしめているところを目撃してしまい、の話がこちら→ 8-2(浩介視点)の終わりの方
「オレが考える理想的なシチュエーションなんだけどさっ」の話がこちら→ 11-2(諒視点)
交通事故の頃の話・「相澤とは別れる」の話がこちら→ 13-1(侑奈視点)
「大丈夫? 泉優真君?」で終わったのがこちら→ 13-3(侑奈視点)

ってとこですかね……。

次回は明後日更新予定です。ようやく甘々突入かなあ。ああ早く書きたい~~っ!どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 14-3(泉視点)

2017年01月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

 小6の夏休みの終わり頃、親友である諒への「好き」の気持ちに気がついてしまったオレ……。でも、まさかそんなこと言えるわけがない。
 まわりのみんなはオレが以前「ユーナのことが好き」と言ったのが続いていると思っているので、そこはあえて訂正しないことにした。侑奈も気にしていないようなのでちょうどいい。

 気持ちには大きな変化があったけれど、外見的にはそのままに〈仲良し三人組〉を続けていた。おれは諒と一緒にいられれば幸せだったし、侑奈と三人での落ち着いた時間もとても居心地が良かった。

 ただ、いくつか問題はあった。

 まず、オレの正直すぎる体だ。
 諒とくっつこうとすると、途端に反応してしまう。本当は今までみたいに頭を撫でまわしてギューッと抱きしめたい。けど、我慢我慢……とウズウズする手を握りしめる。その代わりにドーンと体当たりしたり、ごちんってオデコをぶつけあったり、そんな「普通の男子同士がすること」程度のスキンシップで何とか我慢するようにしていた。

 次に、諒と侑奈の関係が気になる。
 今までは三人では一緒にいても、諒と侑奈だけで話す、ということはあまりなかったのに、オレが諒の頭を撫でられなくなった代わりかのように、なぜか諒が侑奈の頭を撫でたり、妙に仲良さそうに話していたりすることがあって……

(まさか、諒、侑奈のこと好きなのか……?)

 一瞬疑ったけれど、諒はオレが侑奈のことを好きだと思いこんでいる。諒の性格上、侑奈をオレから横取りすることはないと思う。だから大丈夫、大丈夫……と思う。


 最大の問題点は、身長、だ。

 中学に入ってすぐの身体測定の結果、諒は175センチ、オレは160センチ、だった。
 15センチだ。15センチも差がついてしまった……

 オレもそんなに低い方ではないけれど、諒の背の高さは学年でも目立つくらいで……

「4組の高瀬君って知ってる?!」
「知ってるー!あの背の高いカッコいい子でしょ!!」

 なんていう女子の会話もしょっちゅう聞こえてきていて……

(オレだけの諒だったのに……)

 あんなに可愛かったのに。いつもオレの腕の中で笑ってたのに……

 そう思う反面、今現在の、目を引くほどの良い男になった諒の姿に惚れ惚れするときもある。その諒が、オレの前でだけは昔みたいな頼り切った目をしてくれることにも、すごい優越感を感じていた。

 それでも、行き場のない思いは辛い。いくらそうやって諒のことを思っても、どこにも進めないのだ。
 それどころか、諒は、当たり前だけど、オレのことなんて何とも思っていないので、こっちの気も知らないで、平気でベタベタしてくる。それが腹立たしい。そんなの単なる八つ当たりなんだけど……


***


 一学期の期末テスト前、諒の部屋に勉強をしにいったら、諒がいきなりぎゅうっと抱きついてきた。昔みたいに……

 諒のことを好きだと自覚する前は、こうして不安げに諒が抱きついてきたら、ポンポンって背中や頭を撫でて落ちつかせてやっていた。そうしてやることで、諒のことを守れている!って実感できて嬉しかった。

 でも、今は、そんな余裕はない。こんなことされたら理性を保てる自信なんてない。

「具合悪いのか?」

 そう言って押しのけて、適当な理由をつけて部屋を出た。

 でも翌日も、諒はこっちの気も知らないで、オンブをねだるように背中から覆いかぶさってきて……

 もう、限界だと思った。

 くっつかれるのも限界だけれども、自分だけがこんな思いを抱いているということを思い知らされることも限界だ。だからわざと、冷たく突き放すように言った。

「もう中学生なんだから、昔みたいにべたべたくっついてくるなよ。もう小学生じゃないんだぞ、オレ達」

 諒はショックを受けたようだったけれど……構ってやることはできなかった。オレだってもう限界だ。


 それから数日後に一応仲直りはした。
 でも、諒は少し変わってしまった。薄い膜に覆われたというか……。こちらが突き放した結果だけど、やっぱり辛い。でも、これ以上は今までみたいにはできない……。


 それから数週間たってからのことだった。

「お隣の諒君、うちのクラスの川辺と付き合ってるってホント?」
「………え?」

 下の姉に言われてポカンとしてしまう。

「川辺って、女バスの三年の川辺先輩?」
「そうそう」
「付き合って……?」

 そんな話は聞いていない。聞いてないぞ……
 でも確かに、夏休み練習が始まって何日かたったころから、休み時間とかに二人でいるところを何回か見かけたような……

「ちょっと……諒に聞いてくる」
「え、優真?」

 姉に呼び止められるのも構わず家を飛び出して、すぐに隣の家のインターフォンを押した。でも誰も出てこなくて……

「まだ帰ってきてない、のか……」

 もう9時なのに……
 まさか、デート……?
 そんな話、聞いてない。聞いてない……。

 ブツブツ言いながら、門の前でウロウロウロウロしていたら、

「……泉?」
「!」

 諒の低く響く声が聞こえてきて飛び上がってしまった。

 諒は6年の2学期に、突然、オレと侑奈の呼び名を「優真」「侑奈」から「泉」「相澤」に変えると言い出した。「ゆうま、ゆうなって紛らわしいから」と今さらなことを理由にあげていたけれど、それなら、侑奈だけ「相澤」にしてオレは「優真」のままでいいじゃねーかよ、と思った。でも、そんなことを言うのも変なのでやめておいた。でもやっぱり言えばよかった。いまだに諒に「泉」と呼ばれるのには抵抗がある。今までにみたいにあの甘い声で「優真」って呼ばれたいと思ってしまう……って、もう声変わりしてあの可愛かった声は出ないから甘い声はありえないけど……

「どうかした? こんな時間に……」
「あ……いや、菜々子姉ちゃんが……」

 言いながら近寄っていって、ハッと足を止める。違和感のある匂い……

「菜々子お姉さんが?」
「あ……いや……」

 後ずさる。後ずさる……

「なんでもない。おやすみっ」
「泉?」

 呼び止められたのにも構わず家に飛び込む。そして大きく息を吐き出す。

(……香水の匂い、だった)

 姉たちの部屋から時々漂ってくるのに似た甘い匂い……

(匂いが付くくらい、女が近くにいたってことだ……)

 頭の中が真っ白になって、この日は何も考えられなかった。


 それから数日間の記憶は曖昧だ。諒と川辺先輩が一緒にいる姿を目にしては、嫉妬心で頭が沸騰して倒れそうになったことだけは覚えている。

 でも、引退試合が終わって3年生が部活に出てこなくなってからすぐ、

「高瀬、川辺先輩と別れたの?」
「ああ、うん。まあ………」

 そう、諒が他の友達と話しているのを聞いてしまった。

(別れたんだ……)

 頬か緩んでしまう。そうかそうか……。
 親友の不幸を喜ぶなんてダメだ、と思いつつも、嬉しくてたまらない。

 ……と、思ったのもつかぬ間。

 諒が2年生の先輩と付き合っている、という噂が出た。しかも、二人……

(なんなんだそれはっ)

 今度は我慢できなくて、衝動的に諒に詰め寄ってしまった。でも諒は動じる様子もなく、

「どっちとも付き合ってないよ」

と、あっさりと言った。

 そうかそうか、と安心しつつも、でも火のないところに煙はたたないはず……と、念のため再確認。

「本当に、何も、ないのか?」

 そう、聞いてみたら………諒はケロリとして言った。

「1回しただけ」

 …………は?

「え? したって何を?」
「え?ああ、セックス」

「………」
「………」

「………」
「………痛っ」

 思わず叩いてしまった……。

「なんでぶつんだよー!?」
「…………羨ましいからだよっ!」

 怒鳴り返して、腹立たち紛れにもう1回叩いてやる。 

『ああいうの、ヤダ』
 昔、下ネタを言う同級に眉を寄せていた純真そのものの諒はどこにいったんだー!?


***

 その後も、諒の女遊びは続いた。

 正直、嫌だったけれど、でも、誰と付き合っていようと帰りは必ずオレと一緒だったし、それになにより、よくよく観察していたら、諒は別に誰のことも好きではなく、単なる性欲の処理のために付き合っているだけ、ということがわかったので………男の性だからしょうがない、と割り切ることにした。(女が変わる度に、今度の女は本気なんだろうか?とチェックは欠かさずするけど)


 でも、高校生になったら、その女遊びはますますひどくなってしまって………

「ありゃ病気だな」
「そのうち刺されたりしそうで怖いね」

 侑奈ともそんなことを時々話していた。

 侑奈が諒のことを好きだということには中一の途中くらいで気がついた。同じ人を好きになったということで、侑奈にはますます親近感がわいていた。

 諒は侑奈のことは〈仲良し三人組〉の1人として大事にしていて、これだけ女を食い散らかしているくせに、一番近くにいる侑奈には絶対に手を出さない。侑奈は、そのことで逆に女共の反感を買って嫌がらせをされたりしているけれど、

「馬鹿じゃないの?」

 その一言で片付けてしまっていた。そんな侑奈がすごく好きだと思う。誇らしい。羨ましい。
 侑奈がいてくれるから、オレもこの叶わない思いを抱え続けることができている。


 しかし、どうして諒はここまで女遊びをするんだろう? まるで何かから目を背けたいかのように……


 その、目を背けたい何か、が、侑奈なのではないか、と気が付いたのは、高1のクリスマスのことだった。

 2か月くらい前から、オレと諒のことを避けるようになった侑奈……
 それは、侑奈が諒に告白して振られたのが原因だったということをクリスマスの日に聞かされたわけだけれども……。

 仲直りをして、元の〈仲良し三人組〉に戻ってからも、何かモヤモヤしていた。諒の侑奈を見る目が熱っぽいというか……。

(いつからだ?)
 思い出そうとしても分からない。最近なような気もするし、ずっと前からだった気もする。

 もしかして、もしかして……という気持ちは、正月に侑奈の家に遊びに行った時に確信に変わった。

 オレがこたつでうたた寝してしまっていたところ、

「だからやめろって!」
「!」 

 諒の大声で目が覚めた。諒が侑奈に向かって怒鳴っている……? らしくない乱暴な口調……

「せっかく元の三人に戻れたのに、今さらかき乱すなよ! わかってんだろ? 泉はお前のことが好きなんだよ!」
「………」
「そんなお前にオレが手出すわけにいかないだろ!」
「諒……」

 愕然とする。小学生の時に蒔いた種が、いまだに諒の中で根付いていたということだ。

『諒の性格上、侑奈をオレから横取りすることはない』

 やっぱり、そうか。そうなんだ……だから諒は侑奈から目を背けるために女遊びに走って……

「オレは泉が大切なんだよ。泉を守るためなら何だってする。泉のためならどんな我慢でも……っ」
「なにそれ?」

 続けようとした諒の言葉を遮る。寝ていると思っていたらしい二人がギョッとしたようにこちらを見た。

「泉っいつから起きて……っ」
「ああ? たった今だよ。耳元で大声出されれば誰だって起きるだろ」

 あああ、と欠伸をしてから、諒を睨みつけてやる。

「お前、今、変なこと言ったな?」
「………え?」
「お前もユーナのこと好きなのに、オレに遠慮して我慢してるって? オレのせいで両想いのお前らがくっつかないのはごめんだぞ」

 侑奈が相手ならいい。侑奈だったら許せる。きっと諒は幸せになれる。

「お前らオレに遠慮せず付き合えよ」

 精一杯の強がりの笑顔で、オレはそう言い切ってやった。



---


お読みくださりありがとうございました!

明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年だけど何もせず通常運転~~と思っていたら、偶然にも!この14-3のラストが、2002年1月1日のお話でした。今からちょうど15年前!ってことは、泉達って今32才なんですねえ。

過去振り返りも次回で終わり。ようやく先に進みます。
すでに他の視点で書き済みの過去振り返ってもな~~と思いつつも、泉の気持ちを書かないことには、先にすすめないので、なるべくはしょりながら書いてみました。

ちなみに、侑奈と諒のこのあたりの視点はここらへんです↓↓

3-2(侑奈視点)5-2(諒視点)5-3(諒視点)

次回は明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします!

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