夕食後ウオーキングで街外れのたんぼ道や堤防沿いの道を歩く。
信号はないし、車に出会うことも殆どない。
同じような考えの人はいるようで、毎日ほぼ同じような顔ぶれに出会う。
明るければ「こんにちは」暗くなれば「今晩は」とお互いに声を掛け合うようになった。
10年以上前に、配偶者と毎日歩いた時期があったが、最近は私ひとりが多い。
配偶者は膝が痛いのどこがどうの、挙げ句は面白いテレビがあるから、等と言いながら家の周辺を30分程度歩いてお茶を濁している。
10年ほど前に田んぼのコースを歩いている頃、ほぼ毎日同じような場所ですれ違う人達のなかで、一組の老夫婦がいた。
丁寧にかつ親しげに挨拶をする夫婦だった。
特に男性の方は、被っている野球帽を取って頭を下げる念入りなもので、私もつい帽子を取るべきかとおどおどしたりしたものだ。
そんな夫婦に出会わなくなって久しかったのであるが、先日一人の男性と田んぼですれ違うとき、帽子を取って挨拶するあの仕草に出会ったのだ。
よく見ると、随分とお年は召したようだが、まさしくあの頃の男性だった。
ペアーで歩く姿しか見慣れていなかったので、奥さんのことが少し気になった。
相手も同じように私の一人歩きに気づいたかな、などと思ったりした。
辺りには、夕闇がせまっていた。
グランドのナイターの灯りがついて、仕事帰りの若者が草野球を始めていた。
グランドの向こうに、おりから雲間を抜け出た一際鮮明な、まん丸い月が顔を出していた。
月の明かりとナイターの照明に浮かび上がった楠木の枝で、蝉が忙しげに鳴いていた。
昔から蝉は夜も鳴いていたのだろうか。
「節電の 猛暑に蝉も 貰い鳴き」
なかなかいいぞと、手帳に書き留める。
涼しい風が吹いてきた。