昨日まで行われていた名人戦第4局は挑戦者の藤井聡太竜王が渡辺明名人をわずか69手で下しました。
将棋人口は500万から600万人程で日本の人口から見ると5%程度なので、大多数の方にも分かりやすく内容を伝えられればと思います。
相撲に例えてみましょう。後手番の渡辺名人が積極的に攻めていきました。鋭い立ち合いから突っ張って、良い形に持ち込もうとします。
対する藤井竜王も上手く下からあてがって後退しません。受けを苦にしないことも藤井竜王の強さです。強靭な足腰の持ち主ですね。
渡辺名人は居玉(玉が初形のまま)で攻めていったのですが、中盤の競り合いの末、攻撃を受け止められてしまうと、居玉は攻められやすいです。それが祟って渡辺名人に粘りがきかず、藤井竜王が上手を取って前進し始めると、土俵際の手前で投了しました。藤井竜王の見事な受けの技術が光った将棋になりました。
藤井竜王は子供の頃の作文で将棋の横綱になりたいと夢を描いていました。すでに藤井さんは年5場所以上優勝する強い横綱ですが、この幼い作文の横綱は明らかに名人を指しています。さすがの藤井聡太といえども、次の一局は平常心で戦えるかは分かりません。
対する渡辺名人は将棋人生の土俵際に追い詰められた気持ちなのかもしれません。渡辺さんは20才の若さで竜王となって以来、これまでずっとタイトルを保持してきました。羽生善治九段にしても竜王を獲得した翌年に谷川浩司十七世名人に敗れ無冠に転落しています。渡辺名人はそこにプライドを持っており、「渡辺九段」という初めての響きに耐え難いものがあると推測します。そして対藤井戦4勝19敗。誰が相手でも少なくとも互角には戦えた渡辺名人にとっても初めての経験です。このまま第5局であっさり決着が着けば、引退の二文字が頭をよぎっても不思議ではありません。
次の第5局は将棋史に残る一局になるかもしれません。藤井がこのまま押しきるか、渡辺が踏みとどまるか。お互い悔いの残らない将棋を指してくれればと思います。