四月三日(火)春の嵐。
いやはや、この時期に台風のような嵐がやってきた。何か、地球がおかしくなっているのではないかと思ってしまう。その昔、中国の杞の国の人が、空が落ちてくるのではないかと、心配のあまり夜も眠れなかったそうだ。正に、杞憂であってほしいものだ。
そんなわけで、どこにも出かけずに、夕方まで目一杯仕事をしていた。連載させて頂いている「実話時報」の、「回想は逆光の中にあり」の第三十四回をようやく脱稿した。今回のタイトルは、「マラケシュのホテルにて」と言うもの
過日、沖縄に行く際に、羽田で手荷物をチェックしたら、飛行機の中や、旅先のホテルで読む本を持ってくるのを忘れてしまった。仕方がないので空港の書店で買い求めたのが、浅田次郎の「つばさよつばさ」(小学館文庫)。JALの機内誌の「SKyward」に掲載されている同名のエッセイをまとめたものだ。これ以上旅の供にふさわしい本はないと嬉しくなった。
機中で、頁をめくってみると、「マラケシュのテラスにて」というタイトルが目に入った。読んでみると、モロッコのマラケシュのホテル、ラ・マモーイヤに泊まったことや、ヴェネツィアのホテル、ダニエリなどの事が書いてあった。その二つのホテルは、野村先生のお供をして、イタリアとモロッコに行った時に泊まったことのあるホテルだ。大好きな作家、浅田先生も、同じホテルに泊まったのかと思うと、嬉しくなった。だから、「時報」の連載にもそのことに触れて書かせて頂いた。
ラ・マモーイヤは、ヒッチコックの映画「知りすぎた男」の舞台にもなった伝統的な宮殿ホテルで十二ヘクタールにおよぶ広大な森と庭園の中にある。世界中のセレブが憧れる屈指のこの超高級ホテルには、一九二五年の開業以来、多くの著名人を虜にした。かのチャーチルは政界引退後、特にこのホテルを愛し、彼が泊まっていた部屋は今でもチャーチルスイートと命名され、その名残を留めている。窓越しには、標高四千メートルのアトラス山系の山々や延々と続くオリーブ畑が一望できる。
ヴェネツィアのダニエリは、アンジェリーナ・ジョリーの主演映画「ツーリスト」で、舞台になったホテルである。このホテルの屋上のテラスでサンセットの時にディナーをとる、と言うのがヴェネツィアの最高の贅沢なのである。今更ながら野村先生に感謝しなければ。