7月に倦怠感などで受診した58歳男性は、右肺癌・多発性肝転移・多発性骨転移・多発性脳梗塞(トルソー症候群)と診断された。
一時的に呼吸器科外来に来ている先生の専門病院に転院したが、緩和的放射線療法を受けて、その後は緩和ケア(BSC)のみの方針となって当院に戻ってきた。
疼痛に対するオピオイドの調整もあるが、病棟としては夜間せん妄(裸になってしまう)の方が問題で、抗精神薬の調整も必要だった。
患者さんは、一人暮らしで独身だった。親兄弟もいないので、血縁者の中ではいとこがキーパーソンになっている。今後のことを話し合う必要があり、ちょっと遠方になるが、いとこさんに来てもらった。
患者さんよりは年上のいとこで、脳梗塞後遺症で聞き取りにくいというほどではないが、話しにくいのだという。ひとりでは病院に来れないので、その弟さんが付いてきていた。
治療については、放射線療法を受けたので本格的な治療かと思われていたらしいが、緩和的なものとお話した。初診の時からやせが著明で、ADLも低下している。食事摂取も難しくなっていた。専門病院で癌化学療法は断念されていることも伝えた。
半年もつとは思えない。数か月というところだろう。DPC病院なので、地域包括ケア病棟を使用するとしても、入院期間としては3か月弱になる。在宅療養は不可能で、入院生活を継続するしかない。
今から療養型病床のある病院と交渉するのも、現実的には難しい。当院での入院期間内に亡くなる可能性も高く、最期まで当院入院で経過をみることになるとお話した。いとこさんからは、それでお願いしたいと言われた。
そうめったに病院に来れないので、全部決めておく必要があった。しだいに病状が悪化して、亡くなった時はどうするかという話もした。すぐに病院に来れないかもしれないというので、その場合は次の日まで病院で待つこともできると伝えた。DNARの書類を作成した。
近くに家族がいれば、病状が変化した時に病院に来てもらうが、何度も呼ばれるのも負担になる。電話で連絡はするが、実際に病院に来てもらうのは、いよいよの時だけにすることになった。まず間に合わないので、その際は病院の方で看取ってから到着を待つことになった。
葬儀などについても話し合っていてもらうことにした。患者さんの自宅は持ち家だそうで、葬儀は当地で行うことになるという。外出・外泊して自宅の整理をする余裕はもうない。
患者さんには、「長くかかるので、当分は入院を続けることになった」、と伝えてから帰ってもらうことにした。