木曜日に調子が悪いという84歳女性が受診した。ふだんは高血圧症で通院しているが、安定剤(エチゾラム=デパス)を自分で調節して飲んでいた。取りに来ている。
水曜日の午後に調子が悪いので受診したいと連絡が入っていた。心気的な訴えが多い方で、これまでの経過から緊急性はないだろうと思われたのと、翌日の受診としていた。
4月初めに受診した時に、息子と別居してから夕方になると寂しい、眠れないという訴えがあった。抗うつ剤というよりは、安定剤的な効果を期待してセルトラリン(ジェイゾロフト)25mgを処方していた。
珍しく息子さん(二男)が一緒に来ていた。前日の電話では心窩部痛があって、食欲低下していると訴えていた。受診時は特に腹痛もなく、食事摂取もできる。一人暮らしなので栄養が足りないという。ヘルパーさんが来るので、2食分は作ってもらえるが。
まず、一通りの検査をすることにした。癌検診までしたわけではなく、高血圧症通院で行う胸部X線・心電図・血液尿検査だが、異常はなかった。
息子さんだけ診察室に呼んで、事情を訊いた。長男夫婦が同居していたが、嫁姑の関係も悪く、また長男との関係も悪くて、家を出たそうだ。その後はほとんど寄り付かない。
それから、大学通学と就職で他県に行っていた二男が同居するようになった。その後、二男が結婚して夫婦で同居していたが、同居の継続が難しいと別居に至った。嫁姑というよりは、その二男との関係が悪いそうだ。
息子さんは穏やかな常識人に見える。何でも、この母親は自宅内では自分の使うものを身の回りに置いて、それに囲まれて生活している。掃除をしようとすると怒るそうだ。なにかと言い合うことがあったのだろうが、あまり具体的に母親の悪口は言わなかった。
この患者さんは、受診するたびに担当ケアマネジャーの悪口を言っていた(「使えない」、という)。いろいろなことが気に入らないらしい。近所や親戚との交流もないが、それでも週1回はデイサービスに行っている。
患者さん本人は入院を希望していたが、息子さんは入院の必要はないでしょうと言う。病院に迷惑をかけるから、ということだった。体調が悪いと、すぐに診てもらえるように救急車を呼ぼうとするので困るそうだ。
入院するほど悪いところはないと説明した。せっかく来たのだから点滴してほしいと言う。点滴は栄養はさほどないとお話して、栄養が足りないと言うならば、むしろ栄養剤(エンシュアリキッド)を飲む方がいいと勧めた。
次回予約日まで1日1缶で日数分を出した。セルトラリン内服で夜間はよく寝られるようになった、と言っていた。
年を取ってからは周囲に感謝して過ごすことが大切だ、と思わせる人ではある。呼べば一応息子が来て病院まで連れてきてくれるので、まだいいのではないか。