火曜日に県・保健所から、新型コロナウイルス感染症の52歳女性の入院を依頼された。
ホテル療養をしていたが、咳が続いて病院でメディカルチェックをうけたところ、両側肺炎を認めたという。県内のホテル療養は県庁所在地のホテル3棟を借り上げている。
ホテル療養中に病状が悪化した時は、コロナの診療をしている県庁所在地の病院が輪番で入院を引き受けることになっていた。病状悪化は肺炎の悪化か血液凝固異常の併発で、当院はそれを引き受けられるような病院ではない(単純に距離もあるし)。
ただ、発熱はなく酸素飽和度の低下もないということだった。この患者さんは当市の隣町の山間に住んでいる。沖縄と北海道に出かけた後に発症していた。家族3人のコロナPCR検査は、当地域保健所の指示で当院で行っていた。県内の病棟逼迫もあり、引き受けることにした。
4月5日に発熱(微熱)・咳で発症して、発熱はすぐに治まったが、咳が続いていた。ホテル療養後の4月15日~19日ごろに咳がひどくなり、病院受診を希望したが、様子をみるようにいわれていた。
発熱や酸素飽和度の低下はなかったので、経過をみたのだろう。風邪薬をもらっていて、今日の治療薬で調べても出てこなかった。薬局に問い合わせると、市販薬ですと言われた。ホテルに医師は常勤していない。市販薬ならば処方箋なしで配ることができるのだった。(初めて知った)
その後症状は軽快した。4月23日には、自分でもうホテルを退所できると思っていたそうだ。一緒にホテルに入った家族2名はすでに退所していた。症状があるので、長く置かれたのだろう。
4月26日にやっと病院でメディカルチェックを受けることになった。胸部画像で両側肺炎を指摘されて、入院治療が必要とその病院の医師に言われた。
保健所からの情報だけで患者さんはやってきた。病院からの診療情報提書や画像はなかった。胸部画像がX線なのか、CTなのかもわからなかった。
当院では新型コロナの入院は胸部CTで評価することにしている。CTの結果は、両側下肺野にごくわずかなすりガラス陰影が描出された。
放射線技師さんから、よくこのわずかな陰影で肺炎と指摘しましたね、といわれた。確かに胸部単純X線では難しいだろう。患者さんに確認するとおそらくCTでの判断らしい。
血液検査はCRP0.0で、コロナ重症マーカーのLDH・血清フェリチン・Dダイマーは正常だった。
咳がひどくなって胸部痛(胸膜痛?筋肉痛?)もあった時期には、肺炎像がもっとあったのかもしれないが、確定はできない。少なくとも当院入院の段階でもう治療は要さない。
肺炎といってもごく軽度で治療は必要ないくらいです、と説明した。患者さんは肺炎で入院といわれてきたのでそんなはずはないと納得しなかった。
入院3日前には自分でももう家に帰れると思っていたくらいで治療が必要でしょうか、今現在の症状からみて治療が必要と感じますかと訊くと、必要ないと思うと答える。
ただ県庁所在地にあるそれなりの総合病院で入院が必要な肺炎といわれたから、と納得しなかった。入院した日は感染病棟の看護師に興奮して長い時間訴えていたそうだ。
翌水曜日はセカンドオピニオン希望ということで、県のコロナ本部に当院でのCT画像と血液検査結果を届けて判断してもらうことになった。画像転送のシステムが当院に入っていないので、病院事務の係長が県庁まで直接届けた。
その結果、当院の判断でよいということになった(県内で一番コロナを診ている病院の先生が判断したそうだ)。メディカルチェックをした病院は新型コロナを扱っていない病院なので、わずかな陰影でも驚いたのでしょうといっていた(と聞いた)。
すでに退院基準を満たしているので、帰りますかと訊くと、すぐ帰りたいと希望した。結局一泊二日感染病棟に入院しただけで退院となった。
咳がひどくなった時期に検査をしていれば、もう少しすりガラス陰影はあったのかもしれない。判断は疑問だが、先方の病院の方がはるかに病院としてのネームバリューはあるので仕方がないか。