スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡八十三&著者

2024-10-12 19:11:55 | 哲学
 書簡八十二に対してスピノザは短めの返信を送っています。それが書簡八十三で,1676年7月15日付になっています。遺稿集Opera Posthumaに掲載されました。
                            
 返信ですから当然ながら内容はチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausの質問に対する解答です。スピノザがいっていることは主に次のふたつです。
 ひとつは,延長Extensioの概念notioから事物の多様性が演繹的に証明されることはないということです。事物,この場合は延長の様態modiですから物体corpusですが,物体の多様性を演繹的に証明するためには単に延長の概念があればよいわけではありません。よってデカルトRené Descartesが物質を単に延長とだけ定義しているのは誤りだとスピノザはいっています。そこから物体の多様性を演繹的に導出するためには,延長を属性attributumとして,しかも永遠aeternumで無限なinfinitum属性として定義する必要があります。デカルトは物体的実体substantia corporeaを神Deusとは別の実体と定義し,スピノザは延長の属性Extensionis attributumを神の無限に多くのinfinita属性のひとつとして定義したわけですが,デカルトのような方法では物体の多様性を演繹的に証明することはできないのであって,スピノザのような方法を採用する必要があるのです。
 もうひとつは,ある事物の定義Definitioからひとつの特質proprietasだけが導かれるというチルンハウスの見解は,理性の有entia rationisの場合には当て嵌まるとしても,実在的有entia realiaの場合には当て嵌まらず,実在的有である事物の定義から,複数の特質が導かれることもあるということです。たとえば神を絶対に無限な実体と定義すれば,この定義から神が自己原因causa suiであることや神が必然的にnecessario存在するということ,あるいは神が唯一で不変であるということなど,神についての多くの特質が導かれることになります。こうしたことがすべての実在的有の定義に妥当することになるのです。

 吉田はこのような事情を考慮して,『レンブラントの生涯と時代The life and times of Rembrandt』は職業作家が手の込んだフィクションとして世に問うた作品であって,歴史資料として勘違いされたのだといっています。
 僕はこの見解に同意しません。この本の中にはフィクションが多く含まれていることは事実だと思いますが,ヘンドリックHendrik Wilem van Loonが何らかの資料に当たっているのは間違いないと僕には思えます。なのでこの本の中には,資料としての価値がある部分が,断片的には含まれていると思います。というのも,吉田がいうように,この本が職業作家が書いたフィクションであるとすれば,その内容があまりに不自然であるからです。いい換えれば僕は,文学評論という立場から,この本の内容のすべてがフィクションであるというのは無理があると考えるのです。なぜ僕がそのように解するのかということはこれから説明していきますが,その前にいっておかなければならないことがあります。
 まず,ヘンドリックがいっているように,仮にこの本がファン・ローンJoanis van Loonが書いたものをヘンドリック自身が全訳したものであったとしても,この中にはフィクションが含まれていると考えなければなりません。先ほどもいったように,僕は文学評論の観点からこの著作物が完全なフィクションであるというのは無理があるといっているわけですから,そのことは著者がファン・ローンであろうとヘンドリックであろうと変わるところはないからです。一方で,この本を純粋な史実と解するのも無理があるのであって,このこともまた著者がだれであろうと同じです。なのでここでは『レンブラントの生涯と時代』の著者が,ファン・ローンであるかヘンドリックであるかということは問いません。どちらであったとしても結論は同じであって,資料としての価値がまったくないということはないのです。ただひとつ確実なのは,ヘンドリックが職業作家として『レンブラントの生涯と時代』を書いたとした場合は,おそらくファン・ローンが書いたものを何らかの仕方で参照したのであって,したがって著者がどちらの場合であったとしても,ファン・ローンが何も書き残していなかったということはあり得ません。

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