秋田に来たついでに、秋田の酒について触れておこう。
酒どころといわれる秋田は、昔からよい酒をたくさん造ってきた。爛漫、両関、高清水、新政など昔から全国的に有名だ。そして最近は、中小の蔵が輝くような名酒を造っている。
私の好きな酒をいくつか挙げると・・・、日の丸醸造の「まんさくの花」、浅舞酒造の「天の戸」、齋弥酒造店の「由利正宗」など、いずれ劣らぬ旨さと個性を持っている。個性といえば、秋田に行って必ずといってよいほど飲むのが「飛良泉」だ。この山廃純米の燗酒は逸品だ。
八郎潟に行くたびに必ず寄る飲み屋に「真つり」という店がある。店主は包丁を振るい、寿司をにぎるが、店の名前が示すようにつり(釣り)の名人だ。自ら釣ってきた魚がカウンターに並ぶ。この店に行くと、黙って店主が出してくれる酒が「天の戸『美稲』」か「飛良泉『山廃純米』」だ。四合ビンのまま出てきたその酒を、私はその日の調子や肴に合わせて冷で飲んだり燗にして飲んだりする。
黙って出てくるのは酒だけではない。私はこの店に行って肴や料理を指示したことはない。前述の酒を飲んでいると、注文はしないが次々とタイミングよく刺身や酢の物や鍋が出てくる。ちょうど良い量の料理が少しずつ出てくるのである。私はその出されたものに不満を持ったことはない。
最後になって「大将・・・そろそろ引き上げるのでにぎってくれ」と寿司を頼むが、これもマグロとかイカとか指示したことはない。店主がこれぞと思う魚の寿司が四つ五つ出てくる。私はそれを食べて、これまた不満に思ったことは一度もない。私の好みと、その時々の欲する量など、完全に店主に握られている。
行きつけの飲み屋というのはこのようなものであろう。
秋田は酒どころであり、かつその酒にマッチした肴の宝庫である。