旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

まぼろしのヤシ酒「テュバ」を追って(3)

2008-09-05 14:26:01 | 

 

 グアム3日目の午前のこと、ひと泳ぎして部屋に帰りシャワーを浴びていると、ホテルの制服を着たおばあちゃんが冷蔵庫のチェックに来た。私は作夜しまったテュバが見つかり「変なものがある」と捨てられては大変と、あわててバスタオルを腰に巻いて一物だけは隠し(おばあちゃんと雖も相手は女性、しかも人前にさらすほど立派な物でもないので)シャワー室を飛び出て、「これは苦労して手に入れたテュバというヤシ酒だ。捨てないでくれ」と告げた。

 
そのビンを手にして、しげしげと見つめたおばあちゃんが振り向いた。
「あんた方はテュバが好きか?」
「もちろん。グアムに来たらテュバを飲みたい。やっと見つけたのだ」
「そんなに好きなら持ってきてあげよう。私のハズバンドが造っているのだ」
「え? リアリー?」
 私は一瞬かしこまった。急いでシャツとズボンを身につけ「是非あなたのハズバンドのテュバを飲みたい」と告げた。(態度も言葉使いも急に丁寧になるところが嫌らしいと自ら反省しながら)
「明日の朝、9時に来るので持ってきてあげよう。本物のテュバは、ここにあるものとは
色も違う。飲んでみれば分かるがスィートだ」
と言いながら平然と部屋を出て行った。

 もちろん、おばあちゃんはテュバを持ってきてくれた。約束の9時はかなり回っていたが、大きなウーロン茶の容器にいっぱい詰めて。
 見ると、一昨夜飲んだものと色からして違う。ウーロン茶のような色をしてドロドロしており、よく見るとヤシの果肉か繊維のようなものが浮いている。
 どちらが本物か分からないが、デデド(タモンの隣村で恋人岬の在る町)に住むというこのおばあちゃんが直接手に提げて持ってきてくれたテュバを、私は本物に触れる感動を覚えながら飲んだ。そして残りを、エビアンの小容器に移して日本に持ち帰ったのである。(今なら検閲で不可能であるが)
                             


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