思いがけずも地元のおばあちゃんから、そのハズバンドが造ったと言うテュバを頂き(もちろん私は、「要らない」と言うおばあちゃんに相応のお代を払ったが)、そのネイティヴな味に満足した。私は出来ることならおばあちゃんの家を訪ね、「ハズバンドがヤシ酒を造る」ところを見たかったが、それを手にしたのは旅の最終日四日目で、とてもその余裕はなかった。
トラベルジャーナル社の『ワールド・カルチャーガイドミクロネシア』に、ヤシ酒の造り方が書かれてあるので、いくつか引用させていただく。
「ヤシの実がなる花穂を切り落とし、そこから垂れる液汁を
集めて醗酵させただけである」しかし「液汁がよく出るよ
う、一日に二、三回木に登り、花穂の切り口をナイフで切り
落とす作業がいる」
「・・・一度切った花穂からは一ケ月か二ヶ月間液汁が出る。
それをヤシの器(核皮)やガラス瓶で集める。(中略)常温
で半日も放置すれば、白濁してドブロクのような酒になる。
(中略)醗酵し出来上がったヤシ酒は、アルコール含有量4
~7パーセントと、ビール程度」(同書126頁)
酒は「糖を酵母の力で発酵(アルコールと炭酸ガスに分解)させる」と出来る。要するに、ヤシの実をつける茎から出る液汁を溜めて、その中の果糖に自然の酵母が働きかけて酒となるのであろう。日本酒の製造過程のように、培養酵母を加えて酒母(酒のもと)を作ったり、酵母の働きが落ちないように三段仕込みをしたり、厄介なことはしない代りにアルコール度はせいぜい数パーセントだ。しかし立派な酒である。むしろ南国らしい野性味がいい。
簡単な造りとはいえ、液汁を溜める容器にヤシの核皮を使い、それは洗わないというから、そこにはヤシ酒を造り続けた酵母がたくさん住み着いているはずだ。それがより早い醗酵を促すのだ。自然の理(経験?)に適った造りだ。
気になったことは、同書にも「ヤシ酒はまだ細々と作られているが、そのうち『幻の島酒』として高価になってしまうかもしれない」と書かれてあることだ。「おばあちゃんのハズバンドが造ったテュバ」に比べ、「四川ラーメン」の白っぽいテュバは、もう一つコクがなかった。本物はどんどん姿を消していくのかもしれない。
最も自然が残っている筈のグアム・・・、その島をつつむエレジー・・・