岩中祥史氏の書いた『名古屋学』(新潮文庫)という面白い本がある。その本の裏表紙には、名古屋人のことが次のように書かれてある。
「ブス、ケチ、見栄っぱり、味オンチ・・・さんざんバカにされつつ、巨人を倒した中日ドラゴンズに熱狂する名古屋人。派手な冠婚葬祭に備えて、いじましい倹約精神を貫く名古屋人。味噌カツ、きしめん、ういろう・・・お世辞にも美味しいとはいえない料理を次々と発明する名古屋人。『名古屋五輪がダメなら、次は万博だぎゃあ』――決してめげない名古屋人。」
これはかなり思い切った表現である。岩中氏は名古屋ご出身で、現在「大(でゃあ)ナゴヤ人元気会」の事務局長をなさっているようであるから、言いたい放題書いたのであろうが、よそ者がこんなことを書くとナゴヤ人に袋叩きに遭うのかもしれない。
日ごろ溜め込んで結婚式のときにすべて吐き出すのは、はたしてケチか? 日ごろも溜め込み結婚式もケチる奴もたくさんいる。ド派手結婚式を「見栄っぱり」と見るか「気風(きっぷ)がいい」とみるかもむつしい。
いわんやブスについては、思っても口に出してはいけないと思っている。だって東京にも大阪にも、美人もいるがブスも多い。名古屋だけに限らない。
ところで「きしめん」であるが・・・。
今度の名古屋行で、「きしめん」と「ひつまぶし」だけは食べようと言うのがワイフ、娘とも一致した見解であった。したがって12時21分に名古屋に到着するや、錦3丁目の「総本家えびすや本店」に直行、3人それぞれ「えび天きしめん」、「あなご天きしめん」などを迷うことなく注文した。この店を選んだのに特に他意はなく、宿泊するホテルトラスティ名古屋栄に近く、かつガイドブックに載っていたからだ。
そして、期待通り3人とも大満足した。本当に美味しかったのだ。特に溜まり醤油のだし汁は東京人に合うのではないか。
むしろ「・・・俺たちは味オンチなのか?・・・」が気になった。「本当は岩中氏の言うように美味しくなく、それを器を大きくはみ出るような天ぷらで覆い隠しているのではないか?」とも思った。
しかし、そう疑うこともあるまい。ナゴヤ人よ、確かにおいしゅうございましたよ。