隣家の猫の死を報じた。ところが、我が家にも老齢な猫がいるのだ。
ムゼッタという、名前だけからすれば贅沢すぎる名前の猫だ。(ご承知のとおり、オペラ「ボエーム」の主役の一人であるムゼッタを名づけられた猫である) しかしこの猫は「身体障害猫」である。生まれて間もなく交通事故に遭い(もちろん人間の起こした事故)、左足の第二関節以下が不自由で、ただ引きずって歩くだけだ。
動物病院に運ばれたその猫は、やがて処分されることになっていたが、それを見るに忍びず、そこにアルバイトとして勤めていた娘が引き取ってきたのだ。今から17年前(1992年)のことと記憶している。
猫は一年で20歳となり、その後一年ごとに4歳年取ると聞いている。とすればムゼッタは84歳になるのではないか? 最近はヨボヨボ歩いて、見るからに心細い。
そのムゼッタに、これも年老いた(68歳か?)我がワイフが三度三度の餌をやり、身の回りの世話をする。断っておくが、ワイフは年老いたとはいえ未だ美しく、カルメン、ヴィオレッタとまでは行かなくとも、ムゼッタの相手としては引けを取らない。
ただ、双方とも老齢であることは確かである。
84歳の猫を介護する68歳の老人間・・・日本の世相の一端を示すこの「老々看護」は何時まで続くのであろうか?