何度か触れたが、娘は昭和音大の声楽家を出て、オペラに出演したりアンサンブルを組んでアリアを歌ったりしてきたが、最近は、自分が歌うことより「オペラってこんなに素敵なの」「この素晴らしい声を聞いて・・・」と、オペラの普及活動に力を入れてきたようだ。
オペラの素晴らしさを知ってもらうには、それにふさわしい“素晴らしい声”をそろえなければならない。しかもソプラノからバスまで揃わなければオペラの一場面も実演できない。ただ、既に名声を博した第一線級の歌手は、ギャラが高くて手が届かない。
ところが一方には、素晴らしい才能を持ち、訓練も十分につんで、舞台に立つ機会をひたすら待っている人たちもいる。
娘は一年近くをかけて、そのような歌手5人を集めたようだ。そして、自ら設立した「Miagolatori(ミャゴラトーリ)」という変な名前のオペラ集団の第1回公演として、コンサートを開いた(6月23日、中目黒GTプラザホール)。何とか成功させてあげたいと思い、私もワイフも、これまでの長い(年だけは人に負けないくらい生きてきたので)付き合いの中で音楽や芝居に関心のある人に呼びかけた。といっても、せいぜい百数十名の会場だが、おかげで椅子を継ぎ足すほどたくさんの方々に来ていただいた。
結果は、皆さんに大変喜んでいただいた。「よかった!」と言ってくれる皆さんの顔に、単なるお世辞でないものを感じた。私自身も久しぶりに興奮するほどオペラのアリアと名場面を楽しんだ。そして来客に喜んでもらったとすれば、何が満足を与えたのかを考えた。
5人の歌手は未だ30歳前後で、ほとんど無名の新進歌手だ。しかしいずれも、決して既存の歌手に負けない力(というより素質)を持っていると思った。何よりも歌うことが好きで、真面目に全力を挙げて(この“手を抜かない”ということがなかなか出来ない素晴らしいことなのだ!)歌っていた。
その真面目さと誠実さが、何よりも聴衆の心を打ったのではないか? 手前味噌だが、娘の進行と解説も良かったと思う。ポイントを得た解説で“オペラの楽しさ”を引き出し、プロというより“初々しさ”があって、聴衆と一体になれたのではないか?
ものごとの普及、というのは意外にその辺にツボがあるのかも知れない。