駒ヶ岳の中腹にある「ゆぽぽ山荘」(わらび座の山荘)は、高さ20~30メートルに及ぶブナの林に囲まれている。その一室に座るだけで、ブナの緑をいっぱい吸うことができる。しかも山荘の周囲には、あらゆる山菜が生えている。王様と言われるシドケ、女王と呼ばれるヒデコに始まり、ホンナ、アイコ、ミズ、わらび、ぜんまい、タケノコ(根まがりだけ)に至るまで、植えられまた自生している。
だから、夕食も朝食も数種類の山菜料理が並ぶ。出かけるわれわれを見送りに玄関を出たご主人夫妻が、「今あなた方が食べた山菜はこれですよ」と、玄関脇から山荘を取り巻く草むらの中の山菜を、一本いっぽん説明してくれる。
今回の目玉は「タケノコ」であった。タケノコと言っても、南の方で食べる太いタケノコではなく、細い笹のタケノコだ。これを焼いて、「着物を脱がすように」皮を剥ぎ取り、中の柔らかいところを味噌で食べる。あくもなく、新鮮な香りが口中に広がる。
今が旬で、その日に採ったという山のように積まれた細いタケノコを見せてもらった。
山荘を囲むブナも美しかったが、翌日乳頭温泉に向かうブナ林の美しさは格別であった。広葉樹の中でも、ブナの葉は特によく太陽の光を通すようで、一定の間隔をとって生える林の中に太陽の光が満ちる。しかもそれが、“緑の木漏れ日”となってゆらゆらとゆれる。
この美しさはブナ林に特有ではないか?
針葉樹は光を通さず、杉の林のように「昼なお暗き」様相を呈すが、ブナはまったく対称的である。ここでもまた、ブナの緑をいっぱいに吸った。