Sさんは、れっきとした日本人で日本の大手企業R社に勤めていたが、中国男性と結婚して現在上海に住んでいる。R社時代にいろいろとお世話になったこともあり、先年上海を訪ねた時も連絡を取ってお会いした。Sさんはご主人とともに一晩付き合ってくれて、美味しい上海料理や紹興酒をご馳走してくれた。
その後もメールのやり取りを通じ情報交換をしてきたが、Sさんはこの度仕事で来日、私に紹興酒の本と上海の雑誌2冊持って来てくれた。ところが忙しいSさんとはついに会う時間がなく、Sさんはそれらの本を私宛に送付して上海に帰ってしまった。
残念な思いを込めてお礼のメールを打ったのであるが、折り返し頂いたSさんからのメールには、思いがけない日本の情景が述べられていた。長く日本を離れて暮らす人が久しぶりに見た日本は、私が思っているより「良き時代の日本」であったようだ。
「久しぶりの日本は、バタバタしているうちに終わってしまいました。
仕事が終わった後の夜遅い時間に銀座の裏道を歩いて、明かりの落ちた小さな店のショーウィンドーを覗いたり、商店街やスーパーで日本の普通の食べ物を買ったりして、小さな楽しみを見つけて過ごした日本滞在でした。
久しぶりの日本は、礼儀正しい人たち、清潔な街と、中国とはまったく違う環境がとても新鮮で、きょろきょろしどうしでした。」
これらSさんのメールの情景は、私の方にこそ新鮮でついキョロキョロしてしまった。銀座裏の「明かりの落ちた小さな店」、商店街に並んでいる「日本の普通の食べ物」…、このような落ち着いた雰囲気を最近あまり考えたことがなかった。いわんや「礼儀正しい人たち」、「清潔な街」といわれて、本当にまだそのような日本が残っているのかと、思わず周囲を見回した。
殺伐とした事件、政官財の想像を絶する悪事、また容赦なき破壊が続く自然の猛威…、日本はどうなるのか、と思う毎日だ。
しかしその中で、大多数の人たちは真面目に、親切に、礼儀正しく生きている。いかなる自然の猛威を受けても「美しい街」の復興に一所懸命とり組んでいる…。
Sさんは、礼儀正しさや清潔な街に中国と違った環境を見つけて新鮮さを感じたのだろうが、このメールは「日本の良さを大切にする重要性」を改めて教えてくれた。