先日のNHK番組「あさイチ」に山田洋二監督が出て、キャスターの「80歳を過ぎてもますます盛んな制作意欲…、そのモチヴェーションは何処から生まれるのか?」という質問に山田氏はこんなことを言っていた。
「…作りたい材料は常に二つや三つは持っている。その中から一つ取り出すのだが、いい材料は時間が経つほどよくなる。悪い材料は時がたつほどダメになる」
「地下のセラーからワインを一本取りだす。飲んでみてまだ美味しくないものもあるが、時を経てじっくりと美味しくなったものもある。そのワインを飲むのだ」
ワインを例にとり上げたが、まさしく、ワインを含む酒も全く同じだ。いい酒は時をおくほど美味しくなる。まろやかになり味に豊かさが出てくる。質の悪い酒は時間が経つほどまずくなる。春に搾って夏を越せない酒もある。
酒は一般に寒つくりと言われ、冬から春にかけて造り夏は寝かせて、つまり熟成させて秋から市販するのだが、その夏も越せない酒では話にならない。そしていい酒は何年も寝かせるほどよくなる。エイジングという言葉がぴったりだ。
映画つくりも同じことのようだ。時の推移に耐える普遍性を持ったテーマでないといい映画は生まれないのだ。寅さん映画はじめ山田映画が、常に国民に広く愛されるのは、テーマが時代を越えた普遍性を持っているからだろう。
いくつも蓄えてある地下のワインセラーから、その質を湛(たた)えたワインを抜き出すところに、山田監督の類まれな才能があるのだろう。