娘の制作するオペラ『ラ・ボエーム』の公演が10日後に迫った。鬼才岩田達宗氏の演出も最後の追い込みに入ったようであるが、道具つくりなど裏方の準備も毎日おおわらわだ。
何せ金のない連中が金食い虫と言われるオペラを公演しようというのだから、衣裳から大道具・小道具までほとんど手作りだ。古い毛布を引っ張り出したり、祖父のマントを見つけ出したりして衣類をそろえる。我が家の音楽室と駐車場は道具つくりの仕事場となっている。
椅子やテーブル類も喫茶店などから借り集めているようだが、合わせると相当の量になる。毎日の練習場にそれを運ぶにはトラックがいる。トラック代に金をかけないため、名古屋の知人が貸してくれる2トン車を名古屋まで借りに行った。
毎日その2トン車に道具類を積んで練習場に出かける。しかもそれを運転するのは出演歌手のO氏だ。氏は大型二種の運転免許を持ち、しかも手先も器用なので道具つくりの先頭に立つ。使用するローソクから燭台、楽器の類まで彼が作った。しかも名古屋から2トン車を運転してきて、毎日自分たちの作った道具類を運んで、着いた練習場で厳しい岩田演出を受けながら歌っているようだ。
涙が出るような話だ。しかし、真の芸術の制作なんてこんなことかもしれない。いつかきっと大輪の花を咲かせるに違いない。