東館山の山頂下に三好達治の詩碑があった。昨年秋の九州旅行の際、阿蘇の草千里で三好達治の「大阿蘇」を皆で朗読したが、今度は「雪」の詩碑に巡り会った。
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
詩集『測量船』に所収された有名な詩である。草千里ではちょうど雨に遭い、「雨はしょうしょうと降っている…」という「大阿蘇」の詩がピッタリであったが、雪国長野ではやはり「雪」であろう。時は真夏で雪の風情は味わえなかったが。
三好達治の詩碑に見入る
文学に触れたついでに蛇足を一つ。
前夜の懇親会で出身地別に自己紹介することになったが、北海道に始まりしんがりの九州で回ってきた私は、「九州も意外に情熱の土地柄ですよ」と、話題の朝ドラ『花子とアン』に触れた。ちょうど前々日、柳原白蓮(ドラマの蓮子)と宮崎龍介(ドラマの宮本龍一)が駆け落ちする場面があったからだ。
伊藤伝右衛門(ドラマの嘉納伝助)は白蓮のために別府に赤銅御殿と呼ぶ別荘を建てる。白蓮はそこから別府湾に浮かぶ漁火を見ながら、伝右衛門が自分の人格も歌も理解してくれないことに飽き足らない悶々とした心を歌に詠む。
和田津海(わだつみ)の沖に火もゆる火の国に
われあり誰(た)そや思われ人は
そこに現れたのが宮崎隆介であった。連ドラの主舞台は甲府と東京であるが、一方で筑豊の炭鉱王に金で買われ、そこから逃れようと、この若き左翼活動家の胸に飛び込む白蓮の情熱の舞台は、九州であったのだ。
旅には様々な思いが付きまとうものだ。
賀高原田の原湿原にて。白蓮を思わす花