北京オリンピックで国威発揚を狙う中国で、中国の圧制に抗議するチベット自治区の僧侶達の暴動が起こっていると伝えられている。各国で中国大使館にデモをかけたり、聖火リレーを妨害するといった「抗議行動」が行われている。
圧制が事実だとすれば、確かに中国のやり方は抗議を受けて当然だとは思う。しかしこれら一連の「報道」と「抗議行動」、そう単純には受け入れられない胡散臭さを感じるのだ。
そもそも中国にとって、超高地で資源や物資生産地としての魅力に乏しく、貧しいチベットを自分達の国の一部として抱えておくことに、デメリットこそあれメリットはあまりない。
ではなぜ中国はチベットを併合したのか。毛沢東の中国共産党と人民革命軍は、革命当初、ソ連型の盟主国家を中心とした社会主義共和国連邦樹立をモデルとして周辺の少数民族国家を併合していった経緯がある。さらに宗教を否定した毛沢東にとっては、典型的な仏教国家チベットを社会主義国家に転向させ、社会主義の優位を誇示したい意図もあったことだろう。
ソ連崩壊で破綻した「盟主革命論」とでも言うべきイデオロギーをいまだに克服し切れていない中国としては、今さら「ごめんなさい、私が間違ってました」とチベットを独立国家と認めるわけにもいかず、さりとて完全に中国の一部(一省)として漢民族が稼いだ国家の金をつぎ込むわけにも行かず、「自治区」などという中途半端な領区として持て余し状態におかざるをえないジレンマがある。
今回のチベット騒動は、そうしたジレンマを抱えながら北京五輪で国威発揚を行いたい中国の隙を上手くついた、米国(ブッシュ)を頂点とする「西側」同盟諸国の陰謀であるともとれる現象が見え隠れする。
あれほどテロ独裁国家イラクを激しく攻撃したブッシュが、今回の世界的ヒステリー状態といってもいいような騒動に、言葉を濁しているのはなぜなのか。資源も何もないチベットなどに、正直ブッシュは関わりたくないのだ。しかし、この機会を上手く利用すれば、イラクでの失敗から世界の目を少しでもそらせることができるし、自称はいざ知らず、実質は今や米に次ぐGNP世界2位にまで急膨張しようとする資本主義国家中国を、対立軸となる前に少しでも叩いておきたい。
だいたい、アングロサクソン中心の米国は、先住民に「自治区」を与えるどころか皆殺しにしてしまったではないか。日本人もアイヌ民族をほぼ絶滅させてしまった。それと比べれば、「自治区」を与えた中国はまだましなのだ。米国とその腰ぎんちゃく日本、中国は所詮、同じ穴のムジナなのだ。そして世界はまんまと乗せられた。
英国で行われた聖火リレー抗議デモに参加していた英政府要人の女史が、思わず発した言葉に彼らアングロサクソンの深層差別意識がはからずも表れていた。いわく、「チベット人の血で汚れた聖火を通すな」と。