「長野日報」2008年8月29日付
「マツタケ生産振興全国交流長野大会」に行ってきた。大会の様子は「まつたけ十字軍」ブログをご覧ください。
さて、全国のマツタケ生産量は、戦前10,000t以上あったものが戦後半減し、昨年(2007年)はたった51t、実に200分の1以下にまで落ち込んでしまっている。対して、外国産まつたけの輸入量は昨年が1,554tと、国産の実に30倍にものぼる。それでも輸入量も2,000年の3,452tをピークに減少傾向にあり、消費量も2,000年の3,633tから2,007年には1,605tと半減している。国産のあまりの高額さと外国産の品質の悪さに国民のまつたけ離れが進んでいるのだ。「まつたけ」に秋の到来を感じる日本人の豊かな感性、文化が失われつつあるのではないだろうか。
下のグラフは、1989年ー2007年の全国と上位ベスト5県のマツタケ生産量の推移である。林野庁の特用林産品統計から作成したもので、お役所が把握できていない自家消費分や闇取引分(別に「自由経済」だから“闇”とするのは適切ではないが)は含まれていないが、大まかな実体をつかむには今のところこのデータしかない。
全国はもちろん、かつてのマツタケ王国広島県の落ち込みようは目を覆うばかりである。
京都も1980年代ころから激減し長期低迷に入っている。よく「丹波まつたけ」と言われるが、京都と丹波山地を共有する兵庫県の生産量は、意外にも1992年を最後に圏外に去っている。
岩泉ブランドが有名になった岩手県も、1991年に5位に顔を出した後は5年間低迷が続き、1997年、突如として4位に浮上しているがその後は漸減傾向にある。
長野県もゆっくりと漸減傾向にあるとはいえ、コンスタントにベスト5を維持し続け、ここ2年はトップの座についている。もっとも、長野のトップも他県の自滅傾向によるものではあるが。全国的に激減する中での長野の健闘は、継続的な生産者の努力、「森林税」や各種助成事業など県を挙げての努力の賜物であろう。もちろん、かつては西日本に多かった上位県に比べて高冷地が多く、地球温暖化やマツクイムシの拡大などの環境変化を受けにくいといった条件に恵まれた面もあるだろう。岩手や北海道(北海道ですよ!)ではマツクイムシ被害はまだないと聞くし、長野でも問題となり始めている鹿の食害などの獣害も北日本ではまだ少ないようだ。
このままでは10年後には、マツタケは長野や東北のごく一部と北海道だけの特産物になっているかもしれない。しかももはや庶民の口には国産まつたけは入らないようになっているだろう。
こうした情況を見るにつけ、マツタケの復活・増産はもはや農林業の問題であるだけではなく、むしろ環境問題としての色合いが濃くなってきていることを、あらためて思い知らされる。生産者もそのことを十分認識して、単に山作りの技術的問題や利益だけを考えていたのでは早晩行き詰るであろうことを認識しなければならない。
「マツタケ生産者の全国大会」に参加してまず感じたのは、この意識の差であった。「とにかく自分の山(入札含めて)の生産量を上げて儲けたい」方々と、環境や文化の視点で問題意識を持った、あるいは持ち始め環境団体や市民ボランティアとの協働を模索している方々との格差が開いてきているのを感じた。
この「大会」は前回開催が10年前の1998年、岩手で行われたそうだ。次回がまた10年後では遅すぎる気がする。ただし、問題意識が栽培技術にのみ終始するのであれば何回開いても事態は改善しないだろう。