おとこ どこへ向かうのか おとこ どこへ向かうのか/神戸新聞の連載から
「男が駄目になった」「男が男らしくなくなった」と男も女も嘆く今の日本。あれこれ言われるが、崩れていくものと、変わらないもの。そのすき間から、新しい生き方が見えてくる。一筋の光が差す方向へ歩み始めた男たちの姿をたどる。
バックナンバー
(8)地元がいい最高の仲間とともに (2010/01/09)
(7)欲しいもの遠のく車へのあこがれ (2010/01/08)
(6)4児のパパ苦労も喜びも人数分 (2010/01/07)
(5)2次元の恋夫でも父親でもなく (2010/01/06)
(4)パートナー納得して踏み出したい (2010/01/05)
(3)背中で語るもどかしさの先に (2010/01/04)
(2)薄まる境界いいと思うから着る (2010/01/03)
(1)人前で泣く流していい涙がある (2010/01/01) |
●(1)人前で泣く流していい涙がある 神戸新聞 (2010/01/01)
神戸のホテル。結婚披露宴は、最高の瞬間を迎えようとしていた。
新婦が両親への手紙を読み始めた。すすり泣きがさざ波のように広がる。そこへ、むせび泣く声が。
新郎だった。
「まただ」。披露宴を担当する女性は胸の中でつぶやく。新婦はニコニコしているのに、新郎が感極まって泣く。ここ数年、見慣れた光景になりつつある。
泣きすぎじゃない? そう思うときもある。でも、多くの場合、新郎を見る目は温かい。
「人前では泣かないと思われている男性の涙がより感動を演出する」
子どものころ、父親がよく言っていた。
「男は人前で泣いたらあかん」。その影響もあったのだろう。「泣くことは恥だ」。公務員佐野健一(36)=仮名=は、そう信じていた。
結婚式はもちろん、長女の誕生に立ち会ったときも、泣きたい気持ちをぐっとこらえていた。周りの目を気にして。
心のブレーキが外れたのは、4年前。何気なく見た韓流ドラマだった。
純愛もの。妻は夢中だった。主人公の男優が泣く場面がやたらに多い。気が付けば、涙がほおを伝っていた。焦った。妻の表情を目で探った。「分かるよ」。ティッシュを差し出してくれた。
泣いた後、気持ちが軽くなる。今は同じドラマを見て、妻より号泣するときがある。職場の歓送迎会では、苦労を共にした後輩と涙を流した。上司はまゆをひそめたが、同僚の女性は「熱い人ね」とほほ笑んだ。
相手をおもんぱかるよりも、泣きたいときに、泣く。今はそう思う。
努力、忍耐、情熱…。涙はその結果でもある。
山内拓也(45)は、神戸で中学校の教師になって20年になる。
昨年夏。10年間、監督を続ける軟式野球部が初めて全国大会に出た。
予選の決勝戦。終盤に逆転すると、部員たちが泣き始めた。もらい泣きしそうになるのをこらえた。終了後、みんなの前で大泣きした。
全国大会は、開会式でいきなり涙が出た。天を仰いだ。4年前、胃がんの手術を受けた。大病を克服してつかんだ夢に胸が熱くなった。
熱血漢である。練習に集中しない部員は容赦なくしかる。「今泣くとこちゃうやろ」。努力不足や失敗で流す涙は許さない。家でも、息子たちに同じような言葉で諭す。
「うれし涙を流せる人間は一握りやで。みんなで一緒に流そうや」
口癖だった。生徒たちとかなえた。同じ涙を分かち合えたとき、距離はぐんと縮まる。
「流していい涙と、そうでない涙がある」。その言葉には、何の飾りもなかった。ここぞというときに流す。涙は男にとっても「武器」なのかもしれない。(敬称略)
●(2)薄まる境界いいと思うから着る 神戸新聞 (2010/01/03)
待ち合わせた駅で、約束の相手は女子大生に溶け込んでいた。
よく見ると、体のラインが丸みに欠ける。やはり、男だ。
田中俊之(22)。神戸大学の4回生。タイツの足首から下を切り取った形の「レギンス」を、ショートパンツの下にはいている。襟ぐりの広いTシャツ、ジャケットの上からショールを羽織る。
脚をすっきり見せることができる「レギンス」は、もともと、女性がスカートや長めのシャツに合わせて着こなす商品だったが、最近は男性にも浸透している。
「普段から女性ものをよく着ていますよ」。穏やかに、俊之は口を開いた。失礼とは思いつつ、聞いてみた。
〈女装とどこが違うの?〉
「女の子が着ているからではなく」。俊之は、目をそらさずに言った。「いいと思うものを採り入れているだけ。色、柄、種類も豊富だし、ラインやかたちとかが好きかな」
・・・
●(3)背中で語るもどかしさの先に 神戸新聞 (2010/01/04)
児玉雅史(39)は、自宅で見たパソコンの画面に目を疑った。
「会社に行きたくない」。部下の20代男性が書き込んだインターネットのサイトに、自分への不満がつづられていた。
雅史は、兵庫県内の大手企業で、若手社員の教育を担当している。彼を呼んだ。
「直接言えよ」「違います。僕じゃありません」。最後は謝ったが、話はかみ合わなかった。
毎年新人を迎え、社員の変化を感じてきた。だが、面と向かってではなく、携帯電話やメールで伝える「ゆとり世代」のつかみどころのなさは、「異変」ともいえた。
彼のネットでの“主張”は数年間続いていた。「直接話すのは嫌だが、見ていてほしいのか」。心根はそう読める。
「苦労知らず」「マニュアルに頼りすぎ」。30代後半から40代前半の世代は、若いころ、上司世代から「新人類」と呼ばれた。その彼らが今、若者との付き合い方に悩み、もがく。
別の大手企業で採用を担当する藤本春樹(42)もその1人だ。
内定者との懇談会。日本酒を飲んで盛り上がる女性たちと対照的に、男性たちは宴席の隅で静かにウーロン茶をすすっていた。こちらから手を差し伸べなければ、輪に加わろうとしない。
・・・
(4)パートナー納得して踏み出したい
神戸新聞 (2010/01/05)
実家に帰ると、テーブルの上に「自己紹介書」が置かれていた。
「また見合い話か」。平井和宏(41)の顔が曇った。「会ってみるだけでいいのよ」。世話を焼く近所のおばさんが、屈託ない顔で反応を探る。
これで何度目だろう。理由は分かっている。公務員で、次男。親との同居なし、介護なし。安定感のある男性が人気だ。不安な世の中から守ってほしい女性が多いのか。
それなりに出会いと別れはあった。
・・・・
連載は続く |