翌朝、静かな夜明け時、窓の外は一面の雪景色だった。雪は音もなく相変わらず降り続いている。3月中旬とは思えない冷え込みだ。凍てつく大気が張り詰める中で、新雪をまとった大地が徐々に目覚めていく。5時に起きようと思っていたのだが、いつの間にか6時近くまでウトウトしてしまったようだ。ぼくは理津子を起こさないように寝袋から抜け出すと、ドアを開けて車の外に出た。駐車場に降り積もった雪の上に、ぼくの足跡が黒く残されていく。ファーストトラックだ。レストハウスの自動販売機で缶コーヒーを買うとぼくは車に戻った。ドアを開けると、理津子はもう起きだしていて身支度を整えていた。理津子が作ってきてくれたおにぎりで朝食をすませると、それからヒロコさんが今晩の宿泊を予約してくれたホテルに向かった。スキー場から3分のそのホテルは貸切露天風呂とバイキングの食事が自慢の宿だった。早朝の到着にもかかわらず、ドアマンが荷物の積み下ろしを手伝ってくれる。ぼくらは、目の前の駐車場に車を置くと荷物を預かってもらって更衣室でスキーウエアーに着替えた。待ち合わせの時間まで結構時間が余っていたので、ぼくらはホテルのロビーで適当に時間をつぶすことにした。とりあえず、フロントで仮チェックインをして、露天風呂を適当な時間に予約した。それから草津スキー場のリフト割引券をフロントでゲットした。ついでに、「私をスキーに連れてって2007製作委員会」あてにかかってきた電話をぼくの携帯に転送してくれるように依頼した。朝の忙しい時間にもかかわらず、フロントの男性は丁寧にご対応してくれた。驚いたのは、サントリーからジュースやビール、発泡酒、カクテルなど段ボールのケースで2つ、製作委員会あてに届いていたことだ。たしかに、サントリーにはスポンサー募集要項を入れたCDを送った。しかし、宿泊先の連絡はしていないし、もちろん、サントリーからはなんの連絡も来ていない。ひょっとしたら、メンバーの誰かが強力なコネを使ってサントリーに支援を依頼したのかもしれない。
それからホテルのロビーでまったりしていると、ぼくの携帯に最初はイズミさんから、つぎにルソーくんから、そしてヒロコさんから連絡が入った。こんな山奥でも、感度良好で携帯電話の電波がキャッチできるのが嬉しい。電話の内容は、いずれも、道路は順調で待ち合わせ時間までに到着予定とのことだ。
時計を見たら9時前だった。そろそろ、音楽の森のヘリポートまで行こうとしたその時だった。ぼくの携帯がなった。着信を見ると知らない番号だった。
「もしもし?」
「ヤノさんですか?」
「いえ。・・・いや、そうです。」
電話の向こうから若い女性の声が聞こえた。そうだった。ぼくはネット上では、みんなから<ヤノ>と呼ばれてたのだった。だから、あわてて応答する。
「ヤノさんのホームページにのっていた連絡先のホテルに電話したら、そちらの携帯の番号を教えてくれたんですけど・・・。今日、草津スキー場でシナリオ発表会をやるんですよね?」
「ええ、やります。」
「私も参加していいですか?」
「どうぞ。歓迎します。」
「宿は泊まれます?」
話を聞くと、彼女はこの週末に志賀高原にスキーに行くつもりでいたらしいが、皇太子ご一家が静養のため奥志賀に滞在中とのことでそっち方面はいろいろな交通規制がされていることと、いっしょに行く予定の友達が急に行かれなくなったので滑る仲間を探していたらしい。ネットでいろいろ調べているうちに、ぼくらのシナリオ発表会を記載したホームページにたどり着いたとのこと。できれば、イベントを手伝ってみたいと彼女は言う。そして、彼女とは、発表会会場の天狗山ゲレンデで落ち合うことになった。彼女は、これから埼玉のアパートをでて、特急電車で高崎を経由してこっちに来るそうだ。皇太子ご一家の旅行の影響がどの程度のものか予測がつかないが、普通なら上野から3時間で草津まで来れるはずだ。だから、15時にスタートする発表会には十分に間に合うはずだ。
「途中、気をつけてね」
「はーい。ありがとうございます」
こうして、自称「聖心のユミ」ちゃんは電話を切った。ネットで調べて行き着いたと言う割には、ぼくらの事を良く知っていて、しかも、恐らく本名ではない「ユミちゃん」を名乗っているので、彼女は2チャンネラーに違いないと思う。いったい、2chの愛好家はこの日本に何人いるんだろう。ぼくは電話を切ると、一応、理津子に「聖心のユミ」ちゃんが飛び入り参加することを伝えた。女性の部屋が2人から3人に増員するが、とくに問題はなさそうだった。ヒロコさんにもメールして人数の増加を教える。すでにJR長野原草津口に到着していたヒロコさんからすぐ来た返事は
<聞くまでもないでしょ。盛り上がる方、優先だ>かくして、ユミちゃんは発表会に参加することになった。
それからホテルのロビーでまったりしていると、ぼくの携帯に最初はイズミさんから、つぎにルソーくんから、そしてヒロコさんから連絡が入った。こんな山奥でも、感度良好で携帯電話の電波がキャッチできるのが嬉しい。電話の内容は、いずれも、道路は順調で待ち合わせ時間までに到着予定とのことだ。
時計を見たら9時前だった。そろそろ、音楽の森のヘリポートまで行こうとしたその時だった。ぼくの携帯がなった。着信を見ると知らない番号だった。
「もしもし?」
「ヤノさんですか?」
「いえ。・・・いや、そうです。」
電話の向こうから若い女性の声が聞こえた。そうだった。ぼくはネット上では、みんなから<ヤノ>と呼ばれてたのだった。だから、あわてて応答する。
「ヤノさんのホームページにのっていた連絡先のホテルに電話したら、そちらの携帯の番号を教えてくれたんですけど・・・。今日、草津スキー場でシナリオ発表会をやるんですよね?」
「ええ、やります。」
「私も参加していいですか?」
「どうぞ。歓迎します。」
「宿は泊まれます?」
話を聞くと、彼女はこの週末に志賀高原にスキーに行くつもりでいたらしいが、皇太子ご一家が静養のため奥志賀に滞在中とのことでそっち方面はいろいろな交通規制がされていることと、いっしょに行く予定の友達が急に行かれなくなったので滑る仲間を探していたらしい。ネットでいろいろ調べているうちに、ぼくらのシナリオ発表会を記載したホームページにたどり着いたとのこと。できれば、イベントを手伝ってみたいと彼女は言う。そして、彼女とは、発表会会場の天狗山ゲレンデで落ち合うことになった。彼女は、これから埼玉のアパートをでて、特急電車で高崎を経由してこっちに来るそうだ。皇太子ご一家の旅行の影響がどの程度のものか予測がつかないが、普通なら上野から3時間で草津まで来れるはずだ。だから、15時にスタートする発表会には十分に間に合うはずだ。
「途中、気をつけてね」
「はーい。ありがとうございます」
こうして、自称「聖心のユミ」ちゃんは電話を切った。ネットで調べて行き着いたと言う割には、ぼくらの事を良く知っていて、しかも、恐らく本名ではない「ユミちゃん」を名乗っているので、彼女は2チャンネラーに違いないと思う。いったい、2chの愛好家はこの日本に何人いるんだろう。ぼくは電話を切ると、一応、理津子に「聖心のユミ」ちゃんが飛び入り参加することを伝えた。女性の部屋が2人から3人に増員するが、とくに問題はなさそうだった。ヒロコさんにもメールして人数の増加を教える。すでにJR長野原草津口に到着していたヒロコさんからすぐ来た返事は
<聞くまでもないでしょ。盛り上がる方、優先だ>かくして、ユミちゃんは発表会に参加することになった。