赤沼駐車場に着いて車から外に出てみると、うす雲の中に月明かりが見えた。お盆のこの時期だが、週のど真ん中ということもあり、駐車場はあっけないほどのガラガラ。
さすがに、1400m越えの高度。気温は15℃ぐらいだろうか。厚手の綿シャツを通して冷たい夜気が忍び寄ってくる。
早朝4時。あたりは、まだ暗い。やがて、意を決したように、駐車場から小田代遊歩道を目指して、一人のハイカーが懐中電灯の明かりを頼りに歩き始めた。
暗闇に浮かぶ遊歩道に踏み出せずにいたぼくは、彼に勇気付けられてあとに続いた。
小田代原は、戦場ヶ原の西側にあるひっそりとした草原だった。かつては、戦場ヶ原のように湿原だったのだが、乾燥化が進み草原へと変わったものらしい。戦場ヶ原とはミズナラの林で隔てられていた。北西辺のカラマツ林は樹齢200年を超えるらしい。そのカラマツを後ろに従えて、「貴婦人」と呼ばれるシラカバが中央にあり、撮影ポイントになっている。
すっかり明るくなった小田代原遊歩道をのんびりと歩いていくと、展望台に行き着いた。そこには朝霧に浮かぶ「貴婦人」を狙ったカメラマンが数人いた。展望台に着いたその時に、霧が晴れて草原に朝日が差し込んだ。この時を待ち望んでいたカメラマンたちが、いっせいにカメラのシャッターを切る。
片道5時間、構えて光待ち1時間。撮影時間たった5分程度。
「ウソだろう。たったあんだけかよ・・・」
展望台で立ち並ぶカメラマンの端で、カメラを構えていたぼくの隣に移動してきた男はそう言った。
赤沼駐車場から車道を経由してまっすぐにこの展望台に来たとすれば、途中、写真をとるようなものは何にもなかったのかもしれない。
朝霧が流れて行って貴婦人が姿を現したと同時に、カラマツの木々を金色に輝かせていた太陽は雲に隠れてしまったのだ。
こんなふうに、なかなか撮影条件がそろわないからこそ、貴婦人がいとおしく思えてくるのかもしれない。。
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