岩波書店「世界」6月号に大山小夜氏(金城学院大学講師)の玉稿「多重債務者への『不寛容』が強まってはいないか」が掲載されている。
「武富士問題を契機として、消費者金融業界やそれを取り巻く司法、行政、立法、報道などのあり方に関する検討や調査がさかんに行われている一方、多重債務者自身の置かれている状況に目が向けられることは、ほとんどない。
多重債務に陥り破産を申し立てた一人の男性のケースを、彼の生活世界や主観的認識に寄り添いながら記述し、さらにそれを統計資料などを通じて現在のマクロな社会状況に位置づけながら、多重債務問題の解決の意義を示す。」(HPの紹介記事より引用。)http://www.iwanami.co.jp/sekai/
貸金業者との関係についての債務者の認識が、「友人」に始まり、「招かれざる客」、「交渉相手」、「関係を絶つべき対象」、最終的には「戦略を立てて対策を講じるべき他者」と変遷すると捉えているのは実に興味深い。
また、貸金業者の広告が「自らを報道批判の対象から気を配るべきスポンサーに変え」ており、「プロの貸し手への寛容な態度が広がると、ひいては、多くがプロの貸し手から借り入れている多重債務者への不寛容をもたらす」として、多重債務の原因を「債務者と業者との対面的な相互関係に着目」して再検討すべきと結んでいるが、慧眼といえよう。