取締役会設置会社以外の株式会社にあっては,取締役は,各自代表権を有し(会社法第349条第1項本文),各自業務を執行する(会社法第348条第1項)のが原則である。ただし,取締役の中から代表取締役を定めることができ(会社法第349条第3項),この場合代表取締役以外の取締役は,株式会社を代表しない(会社法第349条第1項ただし書)し,また定款の別段の定めによって,業務を執行しない取締役を定めることができる(会社法第348条第1項本文)。
取締役会設置会社以外の株式会社において,定款の別段の定めによって,業務を執行しない取締役を定めている例は,それほど多くはないと思われるが,その他の要件を満たせば,社外取締役として,会社法第427条の適用を受けることができるので,責任限定契約を締結しようとする場合には,定款の別段の定めを検討すべきであるといえる。
もっとも,社外取締役の定義は,次のとおりであるから,取締役会設置会社以外の株式会社においては,定款の別段の定め(業務を執行しない取締役に関する定め)がない場合の取締役であっても,現に業務を執行していない限り,社外取締役の要件を満たす場合があることになる。
会社法
第2条第15号 社外取締役
株式会社の取締役であって,当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第363条第1項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく,かつ,過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないものをいう。
ところで,取締役会設置会社においては,取締役は,その属性により,次の4種類に分類される。
① 代表取締役
② 業務執行取締役(会社法第363条第1項第2号)
③ ①②以外の取締役であって,社外取締役の要件を満たさないもの
④ ①②以外の取締役であって,社外取締役の要件を満たすもの
そして,取締役会設置会社以外の株式会社においては,取締役は,その属性により,次の6種類に分類される。
① 代表取締役
② 業務執行権を有する取締役(代表取締役以外の取締役であって,定款の別段の定めにより業務を執行しない取締役と定められているもの以外の取締役をいう。以下同じ。)であって,現に業務を執行しているもの
③ 業務執行権を有する取締役であって,現に業務を執行していないもので,社外取締役の要件を満たさないもの
④ 業務執行権を有する取締役であって,現に業務を執行していないもので,社外取締役の要件を満たすもの
⑤ 定款の別段の定めにより業務を執行しない取締役と定められているものであって,社外取締役の要件を満たさないもの
⑥ 定款の別段の定めにより業務を執行しない取締役と定められているものであって,社外取締役の要件を満たすもの
取締役会設置会社以外の株式会社において,各自代表であれば,取締役は,①のみであり,取締役の中から代表取締役を定める場合で,定款の別段の定めがなければ,①~④の取締役で構成されることになる。
取締役会設置会社以外の株式会社においても,代表取締役は,株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(会社法第349条第4項)から,定款の別段の定めにより業務を執行しない取締役と定めたものを代表取締役とすることはできず,また代表取締役が社外取締役の要件を満たすこともない。
会社法第2条第15号の定義からは,取締役会設置会社以外の株式会社においては,代表取締役であっても,「業務を執行した」に該当するまでは,社外取締役の要件を満たす場合があるように読めるが,背理であり,適切でない規定であるといえよう。