「修羅場の経営学」
黒岩一美著 経営者新書
幻冬舎 740円+税
今年のテーマの一つが企業再生。
年初から民事再生法、会社更生法などの法律本やターンアラウンドやリスケなどの書籍を読み進めています。
中には、米国風、MBA風の美しくスマートな企業再生、事業再生を紹介した書籍もあり、新規起業と同じような綺麗な世界を語っています。
でも、何か違う・・・。
不渡でも出そうものなら債権者が押し寄せ、経営者は夜逃げ、家族崩壊・・・、債権者集会では怒号が飛び交い、怪しい人物が徘徊、まさにこの世の地獄の様相を呈していく・・・。
わたしの古い友人も親から継いだ事業に失敗、夜逃げ、一家離散といった悲しい現実に直面しました。
そんな中、書店で見つけた一冊「修羅場の経営学」。
著者は、一般社団法人中小企業支援協会の理事長。
1969年生まれ。工業高校卒業後、数々のアルバイトを経て会社を設立。
年少15億円規模の企業に育て上げるも行き詰まり、その苦悩の中で努力を重ね続けた苦労人。
まさに経営の修羅場の中でキャリアを積み重ねた人物。
同書の中にある事例やケースも著者が体験、体感、経験したリアル感が読者に伝わってきます。
著者も同書の中で批判を恐れずに指摘しているのが、会社の倒産を嗅ぎ付けて現れる怪しい人物。
ブローカーや整理屋は理解できるとしても、一見味方に見えて実は悪質な銀行や金融機関、リース会社、ノンバンク、弁護士、管財人、経営コンサルタント・・・。
それぞれの機関や人間がビジネスとして会社の破綻をとらえていると指摘します。
そして、最大にして最後の敵は、経営者自分自身であると喝破。
心理学、大脳生理学の世界から、異常時に置かれた人間の謎の行動を解き明かします。
事業を経営されている方には、必読の部分だと思います。
この本の中で強く惹かれたのが第4章の「修羅場を経験した会社ほど強くなれる」。
経営学や理論、理屈ではなく、著者の経験に基づく経験則は説得力があります。
見出しから一部を抜粋させていただきます。
「社員が幸せを感じない会社は儲からない」
「部下の不満を受け止める仕組みが必要だ」
「女性を責任あるポジジョンに登用する」
「成果主義は不正をうむ」
「昇給より職場環境の充実を図る」
「失敗は自分の中にしか存在しない」
「熱意を失うことを恐れよ」
「人間が不完全だから、正しい選択に意味がある」
「足るを知るということ」
修羅場を経験し、厳しい現実を多々見てきた著者が、語る言葉・・・。
それが「愛と勇気と思いやり」。
手垢のついた言葉も、修羅場の数々を白日のもとにさらした後に出てくると、それは真実となるのではないでしょうか。
そして、著者は最終章で中小企業の未来は明るいことを指摘して筆をおきます。
綺麗な経営理論や横文字だらけのコンサルティング論が、経営だと思っているのは大きな間違い・・・。
実務、実践(実戦)、実学こそが経営であるということを改めて教えてくれる一冊です。