労働審判や雇用をめぐるあっせん、調停が増え続けている昨今、ブラック企業や非正規労働者の問題も噴出し、労働法をめぐる課題が山積しています。
工場法を出自とする労働基準法は、工場のラインをベースにした労働時間管理をベースとしており、いまや8割を超えるサービス業という業態には対応できない状況です。サービス残業問題や残業請求訴訟、管理職と労基法上の管理監督者のギャップなど、さまざまな混乱をきたしているので実情だと思います。
「社長は労働法をこう使え!
プロ弁護士が教えるモンスター社員・ぶら下がり社員へのリアルな対応事例」
向井蘭著 ダイヤモンド社 1600円+税
著者の向井さんは、労働法を専門とする弁護士。
同著によると、全国にいる3万人の弁護士のうち、労働法を専門とする経営者側の弁護士は100名。本当に希少な存在です。考えてみれば、不動産事件や会社法を巡る事件を扱えば多額の報酬を得られるものの、労働事件では数百万円程度のうちの数割の報酬しか得られない・・・であれば経済学的にも労働法を扱う弁護士が少ないことも頷けます。
しかも、生身の人間が対象ということになると、心理的なタフネスさも要求されることになり、社会的な正義感がなければやっていられないということだと思います。
また、労働訴訟や地労委などの判断は、ほとんどが弱者としての労働者側に有利なもの。経営者サイドの肩を持つということは大変少ない状況です。経営者サイドの弁護をして裁判に勝つ確率は低く、報酬も少ないということがいえるのです。
このあたりを背景を同書では丁寧に解説を加えるとともに、経営サイドとしての労働法との折り合いのつけ方を説明しています。
◆目次
第1章 社長のための労働法入門
第2章 社長なら知っておきたい労働法の新常識
第3章 もめる会社は決まっている
第4章 もめる社員も決まっている
第5章 トラブルがおきたらどうするか
第6章 そもそもトラブルをどう防ぐか
第7章 ぶら下がり社員、モンスター社員を解雇する方法
「裁判所は仕事の結果ではなく、プロセスを重視する」「裁判所は証言を重視しない」「正社員を解雇すると2000万円かかる」「成果をあげても勤怠不良は許されない」・・・など労働法適用、労働裁判を巡るリアルを実務家として分かりやすく解説しているのが同書の特長です。
人を雇用する立場の方には、一読をお勧めする一冊です。