書斎の本棚には、橘玲(たちばなあきら)さんの本が7冊並んでいます。
なぜかというと橘さんの本は、新書であっても立ち読み、流し読みでは理解できないため、購入しなければなりません(笑)。
最近では売れに売れた「上級国民/下級国民」があります。
当初は、金融や財テクで作家としてデビューした橘さんは、資本主義や格差社会にスポットを当てました。
そして、最近ではスピリチュアル、心理学の世界に関心を持たれているようです。
無理ゲー社会 才能のある者にとってはユートビア、それ以外にとってはディストピア
橘玲著 小学館新書 840円+税
「無理ゲー」とは、ゲームマニアの間で使われている「攻略が極めて困難なゲーム」のこと。
現代の社会を生き抜いていくことの難しさを、この一語で表しています。
給料が上がらない中、進学、結婚、子育て、介護、そして超高齢社会で増え続ける老人を支えなければならないという難題を突き付けられた若者たち・・・まさにディストピアです。
目次
はじめに 「苦しまずに自殺する権利」を求める若者たち
Part1 「自分らしく生きる」という呪い
Part2 知能格差社会
Part3 経済格差と性愛格差
Part4 ユートピアを探して
エピローグ 「評判格差社会」という無理ゲー
あとがき 才能のある者にとってはユートビア、それ以外にとってはディストピア
著者は言います。
「世界は、リベラル化、知識社会化、グローバル化の巨大な潮流のなかにある。」
→リベラルとは、「自分らしく生きる」ことを価値とする思想
「ヒトの脳に埋め込まれた欲望のプログラムは変わらない。」
「リベラルな社会を目指せば目指すほど生きづらさが増していく。」
「きらびやかな世界の中で、社会的、経済的に成功し、評判と性愛を獲得するという困難なゲーム(無理ゲー)をたった一人で攻略しなければならないというのが、リベラルな社会のルール」。
「わたしたちは、なんとかしてこの残酷な世界を生き延びていくほかはない。」
同書では、人間社会の残酷さ、経済格差、性愛格差を世界の学者の最新研究をベースにしてあぶりだしていきます。
そして、橘さんならではの言葉の切り口に思わず頷いてしまう自分がいます。
・自分探しという新たな世界宗教
・遺伝ガチャで人生が決まるのか?
・「神」になった「非モテ」のテロリスト
・「評判格差社会」という無理ゲー
「モテ」「非モテ」・・・嫌な言葉です。
「アルファ」と呼ばれるエリートの男性。
昔、日本のバブル期に「3高」と呼ばれた選良・・・「高収入」「高学歴」「高身長」・・・たぶんトップ5%にしか過ぎません。
そして、それらの限られたエリートを目指して、女性たちは、美を競い、結ばれることを目指す激烈な競争をする・・・。
動物としての本能・・・優秀な子孫を残し、DNAを繋いでいくため予め埋め込まれたプログラムなのでしょう。
著者は、そのあたりを冷静に、ロジカルに綴っていきます。
(「3低」「非モテ」の小職は、ずいぶん苦しみました・・・涙)
「モテ」ならいいのですが、大多数の「非モテ」の場合どうするのか?
以前であれば、コンプレックスや劣等感をバネにして努力を積み重ねるという精神論と行動論で立ち向かいました。
でも、経済停滞やコロナ禍などで絶望的な状況に置かれた若者たちは、あきらめモードや草食系に走る傾向にあるようです。
積極的消極主義なら、まだいいものの、場合によってはテロリスト化することもあると著者は指摘します。
同書では、秋葉原殺傷事件、相模原の障がい者福祉施設殺人事件、米国での絶望した若いテロリストによる無差別殺人などを取り上げています。
昨日、小田急線の車内で起こった包丁で多数を切りつけ放火しようとした犯人も同じような文脈の中にあるように思います。
現代の若者たちの置かれている悲惨な現状から始まる同書・・・人類はディストピアに向かっていくのではないか?と危惧させます。
しかし、著者は後半で、人類の未来、ユートピア論についてもキチンと言及しています。
「無理ゲー社会」でも、それを受け入れ、前向きに生きていく方法はきっとあります。
夏休みに、じっくりと腰を据えて読むには最適の一冊です。