9日(金)。昨夕、初台の新国立劇場でワーグナーの楽劇「さまよえるオランダ人」を観ました新国立劇場入り口のロビーには、「さまよえるオランダ人」に因んだ生け花(船の舵を配したデザイン)が飾られていました。いいですね、こういう演出も
キャストはオランダ人にエフゲニー・ニキティン、ダーラントにディオゲネス・ランデス、その娘ゼンタにジェニファー・ウィルソン、エリックにトミスラフ・ムツェック、マリーに竹本節子ほかで、トマーシュ・ネトピル指揮東京交響楽団がバックを務めました。演出はマティアス・フォン・シュテークマンです 彼の演出で観るのは今回が2回目です。ストーリーは・・・・・
悪魔の呪いを受けて永遠に海をさまよい続けるオランダ人船長は、7年に1度だけ上陸が許されています。彼は永遠の愛を捧げる乙女に出会った時、呪いから解放される運命にあります。ノルウェー船の船長ダーラントの娘ゼンタに出会い、求婚します。ゼンタは永遠の貞節をオランダ人に誓います。ゼンタを愛するエリックは彼女の心変わりを責め、それを聞いたオランダ人は絶望し出航を命じます。ゼンタは彼を追って海中に身を投じ、彼女の永遠の愛によりオランダ人は呪いから救われます。ワーグナーの「愛による救済」という生涯のテーマを描いた楽劇です
ネトピルのタクトで序曲が始まります。この間、幕は閉まったままで何の演出もありません。したがって聴衆は演奏に集中することを余儀なくされます。2009年からプラハ国立歌劇場音楽監督を務めるネトピルは若々しく溌剌とした指揮でいいのですが、ワーグナーの楽劇の序曲としては迫力不足を感じます
幕が開き、ダーラントとオランダ人の掛け合いが始まりますが、バスとバスバリトンとの歌のやり取りのせいか、重い感じがします。これは歌手のせいではないでしょうが、どうも盛り上がりに欠け、聴いていて音楽に乗りきれません
第2幕にゼンタ役のウィリソンが登場してやっと明るさが出てきました。前回新国立オペラで観た「オランダ人」のゼンタより体格的にも恵まれていてよく通るソプラノです 演出も、第1幕を観ていた時は「シュテークマンの演出って、前回こんなんだったかな?」と違和感があったのですが、第2幕になって思い出してきました
第3幕は力強い「水夫の合唱」が聴きものです 新国立劇場の合唱団は毎回舞台に出演する約40名の契約メンバーと、オファーがあった時に出演する70~80名の登録メンバーがいて、演目によって出演する人数が変わるそうです。「水夫の合唱」の男性合唱のみならず、女性合唱も素晴らしいものがあります 第3幕に至ってやっと、オランダ人役のニキティン、ダーラント役のランデスの歌がしっくりと入ってくるようになりました
ワーグナーは主著「オペラとドラマ」(1851年)で、音楽を女性に、詩を男性に見立て、両者の生殖によって「未来のドラマ」としての楽劇が誕生するという独自の芸術論を展開しました。この「オランダ人」もその果実の一つなのでしょう
閑話休題
今日9日はモーツアルトの「ピアノ協奏曲第21番ハ長調K467」が完成した日です。1785年3月9日のことでした。この曲は「第20番二短調K466」の1か月後にウィーンで完成しました。「20番二短調」のデモ―ニシュな曲想を”陰”あるいは”暗”とすれば、「21番ハ長調」の明るい曲想は”陽”あるいは”明”と言えるでしょう
第2楽章「アンダンテ」は1967年のスウェーデン映画「短くも美しく燃え」に使われたことで知られています。ゲザ・アンダがピアノを弾いています。残念ながら私は観ていませんが。また、1985年の映画OO7シリーズ「美しき獲者たち」でも使われていました。こちらは観ました。どこまでも美しくカンタービレに溢れた名曲です