「能見君と由紀ハッスルしている」
平田寿美子が嫉妬心を込めて冷やかした。
2人が熱くなっていることは、気の緩みであろう酒の席だと顕著になった。
神田駅前の「飲み安」の2階カウンターは、立ち飲み席でありながら、寿司屋にあるような分厚い真目板であった。
「わたし、日本酒の飲みぷりのよい男に弱いのよね」木村由紀は能見甲子郎の脇にべったりという様相を呈していた。
恋人同士の森田健と大住睦子は、パチンコへ行くから出て行こうとする。
寿美子は社内ではお姉さん株で、面倒見もいい。
2人が金を置いて出て行こうとすると睦子の背中を押しながら「今日は私のおごりだよ。パチンコのデートもいいわね」と笑顔で送り出す。
「先輩、すいません」と睦子が頭を下げた。
オカッパの髪なので若く見えたが、睦子は28歳であった。
純吉も由紀と2人でどこかへ行きたかったが、今夜は平田のあ姉さんが解放してくれそうにない。
「あれ、結論出た。どうするのさ」突然、寿美子が純と由紀の間に割り込んできた。
ブラウス越しに、豊かな乳房の感触が純の腕に伝わってきた。
向かい側の席で能見甲子郎がニヤニヤしている。
純吉は救いを求めるように能見を一瞥する。
だが、能見はとぼけるように、爪楊枝を口にくわえて天井を仰いだ。
口は禍のもとだと純吉は悔いる。
「能見、嫁さんにするなら平田さんだよ。とても良い世話女房になるぜ。俺、入社した時、直ぐに彼女に惚れたな。いわば平田さんの隠れファンなんだ」
純吉は神田のガード下のスナック「テキサス」で口を滑らせてしまったのだ。
今春、由紀が入社して来なければ、6歳年上の姉さん女房と純は結ばれていたかもしれないのだ。
東和商事のマドンナ寿美子は、美貌であったが色気を感じさせない女であった。
「純ちゃんが私のこと思っていてくれたのね。知らなかった。灯台もと暗しなのね」能見から伝え聞いたことに寿美子は胸を躍らせた。
能見は先輩の太田一郎にも純吉が寿美子に惚れていることをしゃべていた。
「そうなのか。佐藤君も来年は30歳だ。結婚すべきだな。佐藤君と平田さんは相性がいいかもしれんな」と仲を取り持つ気持ちになった。
「もしも」と人は考えてしまうが、流れた川は戻りようがない。
だが、「逆流だってあるかもしれない」と考えるのは、精神的によくはありません。
「佐藤君、平田さんと結婚したらどうかな」太田は三越前の喫茶店に2人を呼んで尋ねたのである。
「私、6歳上だよ」と平田寿美子は腰が引けていた。
「年なんて関係ないと思うな。2人の気持ち次第だ。そうでしょ?」太田は促す。
「私ね。真剣に考えたら、昨夜寝られなくなってしまったよ」千葉の女は気取らないし、情が深い。
太田はそのように思い込んでいた。
「ねえ!純ちゃんどうするのさ?」
寿美子は酒が回り、圧倒されるほど艶然とした瞳となっていた。
「私帰るわ」と由紀は気をきかせるようにハンドバックを手にし、席を離れようとする。
「そう、あんたもう帰りな。純ちゃんに私話があるの」美しい瞳が由紀を見据える。
由紀は10人並みの容貌で、愛敬のある表情を崩さなかった。
前髪に少女のような印象をとどめていた。
寿美子は丸みを持った顔を強調するように、髪をアップにしており、耳には真珠のイヤリングをしていた。
「純ちゃん、私の神楽坂のアパートに寄らない。2人きりではないの。能見君も来て、明日は休みだもの、うちで飲み直そうよ」
寿美子は上機嫌でみんなの飲み代を1人で払った。
「由紀ちゃんも呼ぶか」と能見が言う。
寿美子は一瞬、不機嫌な表情をしたが、気を取り直して「能見君が呼びたいのなら、呼びなよ」と能見に微笑みかけた。
「能見君は、由紀を好きなの?」と問いかけた。
「性格がいい子ですからね」と能見は曖昧に答えた。
神田駅東口のガードしたで、3人はタクシーに乗った。
由紀は寿美子のアパートの傍の叔母の家の別棟の部屋に間借りをしていた。
その棟に3部屋あり女子大生が2人下宿していた。
この日、寿美子は異常に酒に酔ってしまった。
由紀を能見を迎えに行ってから、寿美子の様子が変な風になってしまった。
純吉は2人切りになったことを悔いた。
「純ちゃん!女の私に結論を出させるの?6歳年上だもの、私から結婚してなんて言えるもんか!」艶然とした瞳に涙を浮かべていた。
女の涙に純吉は弱かった。
「あなたが、望むなら」純吉は、その言葉が自分の口から出ようとは信じられなかった。
「純ちゃん。いいんだよ。あんた本気でないね」
寿美子は、コップにウイスキーをドクドクを注ぐと、それを一気飲みとした。
「純ちゃんは、由紀のこと好きなんだろ。でも由紀は能見君に惚れている。私も実は能見君に惚れているのさ。でも、何か変んんだ。太田さんに純ちゃんとの結婚を勧められて、純ちゃんのことも、とっても強く意識しはじめている。寝床の中でずっと純ちゃんのことを考えてね。なんだか嬉しいような、もったいないような。とっても複雑な気持ちになってきた。あとは純ちゃん次第なんだよ」
ここまで言うと寿美子はガクンを首を垂れてしまった。
後は何度純吉が呼びかけても返事が返ってこなかった。
平田寿美子が嫉妬心を込めて冷やかした。
2人が熱くなっていることは、気の緩みであろう酒の席だと顕著になった。
神田駅前の「飲み安」の2階カウンターは、立ち飲み席でありながら、寿司屋にあるような分厚い真目板であった。
「わたし、日本酒の飲みぷりのよい男に弱いのよね」木村由紀は能見甲子郎の脇にべったりという様相を呈していた。
恋人同士の森田健と大住睦子は、パチンコへ行くから出て行こうとする。
寿美子は社内ではお姉さん株で、面倒見もいい。
2人が金を置いて出て行こうとすると睦子の背中を押しながら「今日は私のおごりだよ。パチンコのデートもいいわね」と笑顔で送り出す。
「先輩、すいません」と睦子が頭を下げた。
オカッパの髪なので若く見えたが、睦子は28歳であった。
純吉も由紀と2人でどこかへ行きたかったが、今夜は平田のあ姉さんが解放してくれそうにない。
「あれ、結論出た。どうするのさ」突然、寿美子が純と由紀の間に割り込んできた。
ブラウス越しに、豊かな乳房の感触が純の腕に伝わってきた。
向かい側の席で能見甲子郎がニヤニヤしている。
純吉は救いを求めるように能見を一瞥する。
だが、能見はとぼけるように、爪楊枝を口にくわえて天井を仰いだ。
口は禍のもとだと純吉は悔いる。
「能見、嫁さんにするなら平田さんだよ。とても良い世話女房になるぜ。俺、入社した時、直ぐに彼女に惚れたな。いわば平田さんの隠れファンなんだ」
純吉は神田のガード下のスナック「テキサス」で口を滑らせてしまったのだ。
今春、由紀が入社して来なければ、6歳年上の姉さん女房と純は結ばれていたかもしれないのだ。
東和商事のマドンナ寿美子は、美貌であったが色気を感じさせない女であった。
「純ちゃんが私のこと思っていてくれたのね。知らなかった。灯台もと暗しなのね」能見から伝え聞いたことに寿美子は胸を躍らせた。
能見は先輩の太田一郎にも純吉が寿美子に惚れていることをしゃべていた。
「そうなのか。佐藤君も来年は30歳だ。結婚すべきだな。佐藤君と平田さんは相性がいいかもしれんな」と仲を取り持つ気持ちになった。
「もしも」と人は考えてしまうが、流れた川は戻りようがない。
だが、「逆流だってあるかもしれない」と考えるのは、精神的によくはありません。
「佐藤君、平田さんと結婚したらどうかな」太田は三越前の喫茶店に2人を呼んで尋ねたのである。
「私、6歳上だよ」と平田寿美子は腰が引けていた。
「年なんて関係ないと思うな。2人の気持ち次第だ。そうでしょ?」太田は促す。
「私ね。真剣に考えたら、昨夜寝られなくなってしまったよ」千葉の女は気取らないし、情が深い。
太田はそのように思い込んでいた。
「ねえ!純ちゃんどうするのさ?」
寿美子は酒が回り、圧倒されるほど艶然とした瞳となっていた。
「私帰るわ」と由紀は気をきかせるようにハンドバックを手にし、席を離れようとする。
「そう、あんたもう帰りな。純ちゃんに私話があるの」美しい瞳が由紀を見据える。
由紀は10人並みの容貌で、愛敬のある表情を崩さなかった。
前髪に少女のような印象をとどめていた。
寿美子は丸みを持った顔を強調するように、髪をアップにしており、耳には真珠のイヤリングをしていた。
「純ちゃん、私の神楽坂のアパートに寄らない。2人きりではないの。能見君も来て、明日は休みだもの、うちで飲み直そうよ」
寿美子は上機嫌でみんなの飲み代を1人で払った。
「由紀ちゃんも呼ぶか」と能見が言う。
寿美子は一瞬、不機嫌な表情をしたが、気を取り直して「能見君が呼びたいのなら、呼びなよ」と能見に微笑みかけた。
「能見君は、由紀を好きなの?」と問いかけた。
「性格がいい子ですからね」と能見は曖昧に答えた。
神田駅東口のガードしたで、3人はタクシーに乗った。
由紀は寿美子のアパートの傍の叔母の家の別棟の部屋に間借りをしていた。
その棟に3部屋あり女子大生が2人下宿していた。
この日、寿美子は異常に酒に酔ってしまった。
由紀を能見を迎えに行ってから、寿美子の様子が変な風になってしまった。
純吉は2人切りになったことを悔いた。
「純ちゃん!女の私に結論を出させるの?6歳年上だもの、私から結婚してなんて言えるもんか!」艶然とした瞳に涙を浮かべていた。
女の涙に純吉は弱かった。
「あなたが、望むなら」純吉は、その言葉が自分の口から出ようとは信じられなかった。
「純ちゃん。いいんだよ。あんた本気でないね」
寿美子は、コップにウイスキーをドクドクを注ぐと、それを一気飲みとした。
「純ちゃんは、由紀のこと好きなんだろ。でも由紀は能見君に惚れている。私も実は能見君に惚れているのさ。でも、何か変んんだ。太田さんに純ちゃんとの結婚を勧められて、純ちゃんのことも、とっても強く意識しはじめている。寝床の中でずっと純ちゃんのことを考えてね。なんだか嬉しいような、もったいないような。とっても複雑な気持ちになってきた。あとは純ちゃん次第なんだよ」
ここまで言うと寿美子はガクンを首を垂れてしまった。
後は何度純吉が呼びかけても返事が返ってこなかった。