「小泉改革の医療崩壊再来」と危機感

2015年11月07日 08時44分45秒 | 医科・歯科・介護
横倉日医会長
“実調”踏まえマイナス改定をけん制、財政審に注文

m3.com 2015年11月5日 (木) 配信 成相通子(編集部)

 日本医師会の横倉義武会長は11月5日の記者会見で、財務省の財政制度等審議会財政制度分科会における「診療報酬本体のマイナス改定」の議論について、「マイナス改定ならば、小泉改革時代の医療崩壊のような状況になってしまう」と危機感を示し、2016年度の診療報酬はプラス改定が必要と訴えた(『「診療報酬の増額、とんでもない議論」財政審』を参照)。
 横倉会長は、11月4日に中央社会保険医療協議会で公表された「医療経済実態調査」で、病院の赤字幅が1.4ポイント増加し、診療所の院長給与も下がっていたことを指摘(『病院は1.4ポイント赤字増、診療所は黒字維持』を参照)。「病院、診療所のいずれも厳しい結果であることが示された。今回の医療経済実態調査の結果を鑑みれば、さらなるマイナス改定を行えば、地域医療の崩壊をもたらす」との見方を示し、財政審での議論にくぎを刺した。
 医療経済実態調査で、診療所の調査結果の解釈については、損益率の下げ幅が小さく利益率は安定しているとの見方も出ていたが、横倉氏は「もっと上がってもいいと思っていた。消費増税分を初診料や再診料で引き上げているはず。それでも下がったというのは十分な(診療報酬による増税分の)手当てをしていなかったのではないか」と指摘し、院長給与の引き下げを「重く捉えるべき」と主張した。
 財政審議会では、分科会長の吉川洋氏(東京大学大学院経済学研究科教授)の「財政が厳しい中、診療報酬を増やすのはとんでもない議論」という趣旨の発言があったが、横倉氏は、「大都市で医療が十分に提供されているところにいると分からないと思うが、そうでない所の人々の思いを理解した上で審議してほしい」と注文。薬価の引き下げは横倉氏もある程度妥当との見方を示しつつ、診療報酬本体の引き下げについては、「医療技術は進歩している。それに対応ししっかり手当てしないと国民が求める医療ができない」と強調した。
■国家財政許す中でプラス改定を
 横倉氏は、具体的に必要なプラス幅については、「大きなプラス改定で国家財政が破たんしても困るので、国家財政許す中で(プラス改定が必要)。大幅プラスの意味ではない」と説明。ただし、マイナス改定を行えば、「小泉改革時代の医療崩壊の再来」があると懸念を訴えた。
 「小泉改革の再来」による一番の懸念は「地方の医療機関の問題」で、横倉氏は、「県庁所在地から1時間超える距離の所にある診療所の後継者が減ってきている。診療所が減っていると、住みにくくなり、地域の過疎化も進む」と指摘。また、医療従事者の比率が高い地方では、医療従事者の手当を増やせば、経済成長や地方創生の貢献にもつながると強調した。
■調剤報酬の引き下げ論は慎重
 診療報酬本体のうち、現行で医科1、歯科1.1、調剤0.3前後とする配分についての質問に対し、横倉氏は「長年の慣習で大幅に崩すのは医療界全体の問題になる」と慎重な考えを示した一方で、「今年は(薬歴未記載の問題など)色々な報道があった。別の形にしたいという思いもある」と、調剤報酬の在り方については今後の議論が必要との認識を示した。
 財政審で「調剤報酬を半分にする」との発言があったことについては、「的確な技術が発揮できるような状況のためには必要な技術料を付けないといけない。一律に半分に下げるのはいかがなものか」(横倉会長)と否定的な見方を示した。

川島なお美と北斗晶

2015年11月07日 08時40分11秒 | 医科・歯科・介護
こんなに違った医師の説明
日経メディカル 2015年11月5日 記者の眼/内山郁子
 1年ほど前から、「闘病ブログ」というジャンルのブログを読み始めた。大半が、治らない病を抱えた患者本人によるもので、かかっている病の多くは癌だ。その闘病ブログにここ数日、必ずと言っていいほど登場する2人がいた。女優の川島なお美さんと、元女子プロレスラーの北斗晶さんだ。川島さんは癌のため亡くなり、北斗さんは癌の手術を受けた。

 2015年9月24日に54歳の若さで亡くなった川島さんは、ご本人のブログ「『なおはん』のほっこり日和」によると、2013年8月に受けた人間ドックで肝内胆管に腫瘍が発見された。何軒もの病院を巡り、5カ月後の2014年1月、腹腔鏡下手術で肝内胆管癌を切除。その後もテレビや舞台への出演を、死の8日前まで続けた。

 48歳の北斗さんが罹患した癌は乳癌。2015年9月23日、ご本人のブログ「そこのけそこのけ鬼嫁が通る」で、2015年7月7日に乳癌と診断されたことと、9月24日に右乳房の全摘手術を受けることを告白した。

 川島さんと北斗さんはどちらも、自身のブログに、医師から癌を告げられた時の状況をつづっている。もちろん、患者視点からの記述であり、実際に医師が告げた言葉とは違うかもしれない。かかった癌の「猶予のなさ」も違う。言葉を受け取る側である、2人の性格的な違いもあるだろう。

 だが──。もし私なら、北斗さんの主治医のような医師から告知を受けたい、と思えてならないのだ。

「今は5年先、10年先、生きることを」
 毎年秋に、マンモグラフィーによる乳癌検診を受けていた北斗さん。右胸に痛みや外観上の変化を感じたため、秋まで待たずに検査を受けたところ、癌を告知された。セカンドオピニオンのため訪れた病院でも、乳癌との診断。主治医から、癌のステージなど詳細な説明とともに右乳房全摘出が必要だと告げられても、すぐには受け入れられなかった。すると、主治医はこう言ったという。以下、北斗さんの2015年9月23日付のブログより引用する。
「胸の事よりも今は5年先、10年先、生きることを考えましょう」

生きること。

こう言われた時に初めて、今の自分は命さえも危険な状態なんだと分かりました。
そういう病気なんだと。

それが癌なんだと…
 生きること、という言葉で、病気の重大性、治療の必要性が、見事に伝わったのだ。

 一方の川島さんの場合、毎年受けていた人間ドックで偶然、腫瘍の存在が分かったものの、血液検査(恐らく、腫瘍マーカーの検査値)には全く異常がなく、良性か悪性かは分からない状態だった。最終的には「覚悟を決めてお任せできるドクター」に出会え、腹腔鏡手術を受けたのだが、そこに至るまでの間に出会った医師との間にはこんなやり取りがあったという。以下、川島さんの2014年3月27日付のブログより引用する。
「とりあえず
切りましょう」

私「いいえ
良性かもしれないのに
外科手術はイヤです」

「ならば
抗がん剤で
小さくしましょう」

私「悪性と決まってないのに?
仕事が年末まであるので
それもできません」

「ならば
仕事休みやすいように
悪性の診断書を
書いてあげましょう」

は~~???
(病理検査もしてないのに!)

もう
ここには
任せられない!!
 繰り返しになるが、ブログに書かれた医師の言葉は、川島さんが受け取った言葉であり、実際に発せられた言葉やそこに込められたニュアンスはこの通りではなかったかもしれない。だが、なんとも歯がゆい、この「すれ違い」ぶりはどうだろう。

 もし悪性だったら、手術以外に確実な治療手段のない、時間的な猶予のない、肝内胆管癌。体の深い所にあるので、病理検査はおなかを切らないと行えない。「半年、1年、生きることを考えましょう」と、事の重大さを伝えることはできなかったのか──。

 私が読んでいる、普通の患者がつづった闘病ブログにも、実に様々な医師が登場する。北斗さんの主治医のような医師もいれば、川島さんが出会ったような医師もいる。悩みながら最善と思われる治療を提案する医師もいれば、「この治療をしないならこの病院では診られない」と突き放す医師、情報と資料を渡し「次までにどの治療にするか考えてきて」と告げる医師もいる。叱る医師、迎合する医師、寄り添う医師、希望の芽を摘む医師。医療者といえども、ピンピンころりと逝かない限り、人はいつか患者になる。そのとき、皆様はどんな医師に出会いたいだろうか。