木島典子と大宮公園駅で再会

2016年06月19日 09時50分39秒 | 創作欄
焼けぼっくいに火

真田一郎の運転する黒塗りの車が大宮競輪場の脇を通過するところであった。
利根輪太郎が「競輪場ですね。人が見えます。開催中ですね」と身を乗り出すようにした。
「競輪は難しい」と真田が言った。
やがて、車は大宮公園駅の前へ出た。
輪太郎は10年前、木島典子と大宮公園駅で再会したことを思いだした。
典子はそのころ同棲していた大木治に「財布忘れたんだ。届けてほしい。利根君が午後1時に大宮公園駅で待っているから」と電話で指示された。
典子は野田駅から大宮公園駅へ向かった。
大木は神保町の小さな出版社へ原稿を届けてから利根と大宮競輪場で合流することになっていた。
輪太郎は取手駅から柏駅を経て野田線で大宮公園駅へ向かっていた。
輪太郎は大宮公園駅で典子と再会するとは夢にも思っていなかった。
過去の苦い2人の関係がしこりとなって残っていたのだ。
輪太郎は、典子との再会は、大木によって意図されたものであることを見抜くことができなかった。
携帯電話のない時代であったので、大宮公園駅へ姿を見せなかった大木と連絡が取れなかったのだ。
「あの人のことだから、気まぐれを起こして姿を見せないのでしょ。これから利根さんどうします?」典子は微笑んだ。
「久しぶりにデートでもしますか?」と輪太郎は誘いをかけた。
典子への未練が断ちがたかった輪太郎は、その日の競輪を止め典子を連れ大宮の繁華街へ向かっていた。
結果として、焼けぼっくいに火が着いてしまったのだ。