業務改善で現場の負担が激減、残業は1時間未満に
日経メディカル 2016年6月17日 日経ヘルスケアon the web
◆米病院の「カイゼン」目の当たりに
福岡県飯塚市の企業立病院、(株)麻生・飯塚病院(一般978床、精神138床)の看護師は1000人を超える大所帯。しかし約5年前は、看護師たちが人手不足や疲労感を口々に訴え、残業も減らなかったそうです。ES(従業員満足)の評価も院内で看護部が最も低いありさまで、看護師が増えても1人の看護師の受け持ち患者数は6~7人で変わりませんでした。
それに対して現在、同院の患者の受け持ち人数は平均3~4人。残業がほとんど発生しない部署もあります。これらの成果は、特任副院長で医療連携本部長の須藤久美子氏が発案し、2010年度から導入を進めてきた「セル看護提供方式」の定着によるところが大きいそうです。
セル看護とは、看護師のスタッフステーションでの業務を減らし、可能な限りベッドサイドで看護記録の参照や記入、カンファレンスなどの業務を行うことで、看護ケアに専念できるようにする体制のことを指します。「セル」という名称は、製造業の生産方式の一つである「セル生産方式」に由来し、1人または小集団が製品の組み立てから検査までを一貫して担います。
改善の契機の一つには、米国の病院の視察がありました。2009年、米国ワシントン州シアトルのバージニアメイソン病院を訪問。同院は2000年代初頭から日本のトヨタ自動車の「カイゼン」を取り入れ、患者の待ち時間や移動距離を短くするなど、患者満足度や医療の質の向上に成果を上げた急性期病院として知られます。
この視察が一つのヒントになり、「なるべく患者のそばにいる」というセル看護のコンセプトが見えてきました。「いつも患者の近くにいれば、状態や気持ちの変化なども気づきやすい。看護師の作業動線という観点からも、スタッフステーションとの行き来が減り、『ムリ・ムダ・ムラ』が解消できると考えた」と須藤氏。トヨタのカイゼンが米国の病院を経由して、日本の病院に逆輸入されたということでしょうか。
◆ナースコールや転倒・転落が減少
カートの活用といった改善が病棟ごとに進んできた頃から、セル看護は定着し始めました。必要な検査機器や医療材料などをカートに整理しておくことで、スタッフステーションに取りに行かずに作業できます。またノートパソコンを置き、患者情報や過去のカンファレンス記録などもその場で参照できます。新しい病棟では病室の周囲に収納庫を設け、医療材料などをすぐ補充できるようにするなど、動線を短くするための工夫も施しました。
その結果、ナースコールの回数は年を追うごとに減少。患者の転倒・転落件数も激減しました。常に看護師が患者の近くにいることで、これらの回数が減ったのは明白でした。
さらに同時期に看護師の作業の標準化を進めたことで、現場の負担感が大幅に軽減。看護管理師長で導入当時の南2A病棟の看護師長である倉智恵美子氏は、「平均残業時間は1時間未満」と語ります。看護師の離職率にも好影響を及ぼし、ここ数年は常勤で8%前後、新卒で1%前後と、全国平均の常勤10.8%、新卒7.5%よりも低い水準です(日本看護協会「2015年病院看護実態調査」)。特筆すべきは2012年度で、新卒看護師は1年間の退職者が88人中ゼロと「新卒ナースの離職ゼロ」を初めて達成しました。
事故防止や残業減少にとどまらず、離職防止にもつながった業務改善の詳細は、日経ヘルスケア6月号で。