- 複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別(一部)の要素だけを理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ、と想定する考え方
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還元主義の歴史は古く、古代ギリシャまで遡ることもできる。
否定的に語られる還元主義だが、近代科学の発展にそれなりに寄与した面もある。
近年では還元主義の難点を認識する人は増え、科学の領域でも「複雑系の科学」が生まれ、また「創発」など様々な概念を用いて、ものごとを理解しようという試みが続けられている。
尚、還元とは何を意味しているのか、何が何に還元されようとしているのかが曖昧なまま用いられることがある。
還元主義に陥っていることが端的に表れている表現として「.....にすぎない」や「...にしかすぎない」というものがある。
還元主義に関してしばしば問題となるのが、この「~にしかすぎない主義(nothing but ...ism)」 とでも呼んだほうがよいような極端な主張である。
心の哲学における還元主義(Reductionism)とは、心的なものの存在は物理的なものの存在に還元できるという唯物論的な考え方 ... 還元主義な方法では現象的意識やクオリアは説明できず、心身問題は解決できないとする立場が二元論や中立一元論である。
概説
心の哲学における還元主義(Reductionism)とは、心的なものの存在は物理的なものの存在に還元できるという唯物論的な考え方であり、心脳同一説及びトークン同一説を前提とした機能主義や表象主義がその立場である。
還元主義な方法では現象的意識やクオリアは説明できず、心身問題は解決できないとする立場が二元論や中立一元論である。
なお唯物論であっても消去主義はクオリアを消去しようとする立場なので還元主義とはいえない(ただし後述する「定義的還元」に該当する可能性がある)。
また心理学的な行動主義やブラックボックス機能主義は、クオリアの存在論的身分を棚上げするので還元主義には該当しない。
スティーブン・ホーストは自然科学における還元の限界が心の哲学の議論にも適用できるのではないかと主張している。
デイヴィッド・チャーマーズは『意識する心』で、意識が物理的な用語で説明されることを望むのは自然だが、意識が還元的な説明の網から逃れると主張した。
ジェリー・フォーダーは心理学と心の哲学を神経科学から切り離そうと試み、これら中位レベルの分野をスペシャル・サイエンスと呼んだ。
還元の種類
ジョン・サールは還元主義を巡る議論は混乱しているという。そして「還元」には五つの異なった意味があると見て、以下のように分類する。
1、存在論的還元
これはある種の対象が別の種類の対象以外の何ものでもないことが示されうるという形態の還元である。例えば椅子などの物質的対象は、一般に分子の集合以外の何ものでもないことが示された。
2、属性の存在論的還元
これは存在論的還元の一形態であり、属性に関わるものである。たとえば、熱とは分子の運動エネルギー以外の何ものでもない。「熱」や「光」はものの属性についての理論上の用語であるが、そのような属性を「他の現象に」還元することは、しばしば理論的還元の結果である。
3、理論的還元
これは理論と理論の関係であり、還元される理論の法則は還元する理論の法則から演繹されうる。
つまり、還元される理論は還元する理論の特別なケース以外の何ものでもないことを証明するものである。気体の法則を統計熱力学の法則に還元するというようなものである。
4、論理的・定義的還元
これは語や文の間の関係である。ある種の存在者を指示する語は、他の種類の存在者を指示する語に翻訳されるというもので、例えば数についての文は集合についての文へと翻訳可能である。
したがって語や文に指示されていて、それに対応する存在者は、「存在論的に」還元可能なのである。
5、因果的還元
これは、それぞれ因果力をもつ二つの種類のものの関係であり、この場合、還元される存在物の存在だけでなく、その因果力も還元する方の現象の因果力によって全て説明されうる。
例えば個体は他の物体によって透過されることはなく、圧力に対して抵抗を示している。しかしその因果的力は、格子構造にある分子の振動運動の有する因果力によって因果的に説明されうるのだ。
ジョン・サール自身は、心と脳の関係については因果的還元の一種だという見解である。
意識は物質的なものに還元不可能に見えるものの、それは認識論的問題であって、存在論的問題ではないとし、心的な特徴は神経生理学的プロセスによって因果的に引き起こされているという。
しかし、一般的に因果的還元は必然的に存在論的還元へたどりつくが、意識の場合は(現代の脳科学では)存在論的還元を遂行することができない、と考える。