ソフトバンクの孫正義社長は8月、ビジョンファンドの資金の85%を企業80社以上に投資済みか、投資を決定していると説明した。バーンスタインのアナリストによると、ウィーカンパニーへの投資は20億ドルで、仮に同社が破綻してもビジョン・ファンド資金の2%が消えるにすぎない。
問題は、ウィーカンパニーが孫氏の投資命題を象徴していることだ。その命題は、ビジョン・ファンドが白羽の矢を立てて巨額を注ぎ込んだ有能な創業者が、業界の勝ち組になるという前提に立っている。
孫氏はソフトバンク自体からの投資を含め、ウィーカンパニーとその共同創業者アダム・ニューマン氏に約110億ドルを投資したが、同氏は先月CEO退任に追い込まれた。同氏は利益の出ない事業に投資して出資金を浪費し、同社株の株式価値は現在、孫氏の投資総額をおそらく下回っている。
ウィーカンパニーの失態は、ビジョン・ファンドが投資企業を過大評価しているのではないかとの疑問も生じさせる。ソフトバンクは今年実施したウィーカンパニーへの投資で、同社の純キャッシュを除く企業価値を470億ドル、昨年の売上高の25倍相当と評価した。その数カ月後、ウィーカンパニーの新規株式公開(IPO)計画は評価額を100億ドルまで切り下げたが、その評価額でさえ投資家からは鼻であしらわれた。この最新の投資にビジョン・ファンド自体は参加していないとはいえ、同ファンドは概ねソフトバンクの試算に基づいて企業価値を評価しているため、ファンドに出資するサウジアラビアなどは他企業の評価にも疑問を投げ掛ける可能性がある。
今回の一件により、ビジョン・ファンドの投資企業が将来実施するIPOに対しても、投資家は警戒を強めるだろう。孫氏はIPOによって投資収益を回収し、ファンドに出資してくれたサウジおよびアラブ首長国連邦に還元する必要がある。ファンドが投資して既に上場した6社のうち、5社の株価がここ3カ月で下落している。中でも目玉投資だった米配車大手ウーバー・テクノロジーズ(UBER.N)と職場向けメッセージアプリの米スラック・テクノロジーズ(WORK.N)は、上場以来29%と35%、それぞれ値を下げた。
やけどを負った投資家は今後、孫氏が投資する他の巨大な赤字新興企業の上場で大幅な価格切り下げを要求するか、もしくは上場
参加を見送るだろう。ビジョン・ファンドにとって最大のリスクは、ウィーカンパニーの失敗が一度限りの出来事に終わらず、潮流の始まりになることだ。
●背景となるニュース
*ロイターは4日、ソフトバンクグループが設立を目指すビジョン・ファンド第2弾による資金調達が難航していると報じた。
*孫氏の周辺からは第2弾の設立延期を促す声も出ており、ファンドの規模はソフトバンクが当初発表した1080億ドルを大きく下回る公算。
*ウィーカンパニーは9月30日、IPOの延期を申請した。その1週間前にはアダム・ニューマン氏がCEOを退任していた。
*ソフトバンク株は10月4日までの6カ月間で24%下落した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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