不登校の中学生が抱える罪悪感
現在学校に行っていない「不登校」状態の中学生3人に、ふだんどんな風に過ごしているのか、いま抱えている悩みなどを聞いてみました。
「学校を思い出すとちょっと罪悪感が浮かびます。学校に来た時でも教室に寄るのがちょっと億劫になったり、部活に普通に行こうと思っても勝手に空いた部屋にこっそり入って、引きこもったりして怒られましたけれど。みんな学校に行って勉強をちゃんとしているのに、私だけやらないとみんながどういう目で見るのかな、とか。私みたいな中学生がいてもいいのかなと思ったりします。」(ゆりなさん)
ゆりなさんが学校に行かないことを受け入れているというお母さんは、ゆりなさんが抱いている罪悪感についてどう感じているのでしょうか?
「1人であの子が出かけることもあるんですけど、帰宅する友だちと遭遇しちゃって隠れたとか、そういうのを聞いたりすると、そういう思いはまだあるんだな、と感じますね。身内とか近しい人たちからも、レッテルじゃないですけど色々言われますので、社会性が育たないとか、耐性がないんだねとか言われて、スクールカウンセラーの方にも学校は行っておいた方がいいのよ、って言われたり。そういうこと言われてしまうとちょっと気弱になってしまいます」(ゆりなさんのお母さん)
気弱になることがあるというゆりなさんのお母さん。ゆりなさん自身も将来のことを考えると不安になることがあるといいます。
「自立とかいつかしなきゃいけないとなると、自分で考えて行動とか、そういうのができるようになりたいです。社会は協調性とかないと、この先ちょっとうまくいかないのかもしれないし。あんまり私は集団に馴染めないからそういうのが不安になってきました」(ゆりなさん)
塾での厳しい宿題と学校でのいじめなどが重なり、5年生の時から学校に行かなくなった中学2年生のあおいくんや、小学3年生頃から学校に行くのがつらくなり、中学2年生からほとんど行かなくなった中学3年生のななこさんも、ゆりなさんと同じような気持ちになると話してくれました。
「僕はもう、友だちとかに会っても、『僕は不登校だから』って言えるようになったんですけど。その前はやっぱりすごい罪悪感があって、隠れたいとか家を出たくないとか、結構ありました。僕は本当にお父さんに申し訳なくて、生きていることがつらかった時期がありました。お父さんも怖くって、ひどい日は下敷きを机にバンっていって、下敷きが砕けるまでずっと怒ってて。それを見ているしかなかったです。今となっては、もうだいぶ家でも何でもやらせてくれるんですけど、初期は本当にひどかったですね。どうやったら死ねるのかなとか、そういうことばかり思ってました」(あおいくん)
「友だちと遭遇したりすると、隠れたくなる気持ちもすごくわかるし、あそこにいるから逃げようかなみたいな時もあるので、すごくわかります。学校には今のところ、復帰の予定はないですけれど、家でも勉強したり、将来なりたい夢があるので、それに向かって勉強をしたりしています。一応フリースクールに行きますということになっているんですけど、あんまり最近は行けてなくて、という感じです」(ななこさん)
「尾木ママ」として親しまれている教育評論家の尾木直樹さんは、不登校中の子どもがおかれる環境についてこう話します。
「登校しなきゃいけないという登校圧力、登校するのが普通の子だという、社会的な常識みたいなのが渦巻いていたでしょ。そういう中では多様ではないんです、子どもたちは。学校に行かなかったらダメみたいな、二者択一なの。だから、しんどい思いをしちゃうんだと思う」(尾木さん)
「好きなこと」が原動力に
不登校であることから抱く罪悪感と、ゆりなさんが話してくれた、もう1つの悩みである「将来への不安」。そんな悩みを軽くすることができるかもしれない経験を重ねてきたのが、みきさんです。
現在、社会人のみきさんは小2から中3までほとんど学校に行かず、自宅を拠点としたホームエデュケーションというスタイルでいろんな学びを得ていました。短大を卒業して、今はアルバイトとボランティアを掛け持ちして忙しい日々を送っています。高校1年生から始めたもんじゃ焼き屋のアルバイトでは店長を任されています。
今は日々、明るく元気に過ごしているみきさんですが、中学・高校を通して、ほぼ8年間学校には行きませんでした。みきさんが学校に行かなくなったのは小学2年生の9月1日。学校に行こうとランドセルを背負って立とうとしたら動けなくなってしまったのです。
「学校に行かなきゃいけないけど行ってない自分を毎日毎日責め続けて、毎日泣いて泣いて。みんなは学校に行けているのに自分は学校に行かないで家で何もしないで泣いてばっかりで、何してるんだろう自分、みたいな」(みきさん)
母のみずえさんは、みきさんを最初は何とか学校に行かせようとしました。しかし、学校に行かせようとするとみきさんはますます不安定に。悩んだみずえさんがインターネットで見つけたのが、ホームエデュケーションというものでした。
ホームエデュケーションとは自宅を拠点として学ぶ方法。学校でする勉強を保護者が代わりに教えるのではなく、子ども自身の好奇心を軸にさまざまな体験を通して学ぶことが多く、方法は家庭ごとに異なります。
みきさんの転機となったのは、ホームエデュケーションの団体の会報で母親のみずえさんが見つけた、犬のボランティアの記事。もともと犬が大好きだったみきさんは、母の勧めに応じて、捨て犬を保護するボランティアに通い始めました。
朝、電車で向かい、70頭の犬の散歩、食事、掃除などの世話を夕方までやります。それぞれの犬の特徴を覚えて、任されることが増えると、どんどん楽しくなっていきました。
好きなことと出会って取り組むうちに、自信がついてきたみきさん。家で泣いていた日々から一転、さまざまなことに挑戦できるようになってきました。英語のミュージカルに挑戦したり、そのために英語を勉強し始めたり。高校は自分のペースで学べる通信制高校を選択。さらに世界をもっと知りたいと英語を学べる短大に入学しました。
「学校に行かなくても大丈夫だよって本当に言ってあげたいです。学校に行ってなくても、世界は本当に無限にあるし、自分が知らない世界なんかたくさんあるじゃないですか。もし行きたくない、行かないことを決めるんだったら、他のことに目を向けてみてほしい。それだけがすべてじゃないということを伝えたいです」(みきさん)
大学4年生のもえさんも「好きなこと」が原動力になりました。
もえさんもみきさんと同じホームエデュケーションを経験。小学2年生から自宅を拠点として学んできました。19歳で通信制高校に入学。今はアルバイトをしながら大学に通う4年生です。
「一番のきっかけは通信制高校の先生から『白衣が似合いそう』『薬剤師とかいいんじゃない』と言われたことです。医療系の職も今の自分の立場でありなんだと。そこで思い出したのが『鋼の錬金術師』という漫画です。主人公の義足を整備している女の子に憧れがあって、そういう仕事って現実にないのかなと思って探したのが今、目指している義肢装具士という職業」(もえさん)
今、もえさんは夢に近づくための学校に通っています。
「一般的な科目は全然できないんですけど。今は自分が目指す職業のために必要なことが明確になっているから、どんなに難しいことでも、専門的なことでも覚えられるし、理解しようと努力することができます」(もえさん)
先輩たちの経験談を聞いたあおいくんは、将来について感じることがあったようです。
「やっぱり夢があるってすごいんだなと思いました。確かに好きなことって自分から率先して勉強できるし、やる気ががぜん違うので、好きなものを学習した方が将来のためになるのかなというのは思いました」(あおいくん)
不登校は充電期間 無駄ではない
好きなことを見つけ、それを軸に学んでいた先輩たち。でも、好きなことなんて見つからない、そんな気力もない、という人もいるかもしれません。実は先輩たちも、そんな時期を経験しています。
福祉について学んでいる専門学校2年生のたくみさんは、中学生の時、友だちからのしつこいからかいが数年間も続いたことをきっかけに、学校に行かなくなりました。
その後、フリースクールに通って元気を取り戻したたくみくんは、2016年の夏、学校に行くのがつらい子どもたちに向けた動画をフリースクールの仲間たちと製作。ニュースや新聞でも取り上げられ、注目を集めました。
「私個人の考えとしては、不登校は充電期間の1つかなと考えていて。休んでいいんだというメッセージを親御さんにわかってほしい。親御さんの理解がなければ家にいることができないし、泣きつくこともできない、相談することもできない。唯一の拠り所で、味方であってほしい存在だからこそ、そこに理解をしてもらうことが、不登校を無駄なものにしない第一歩かなという風には思ってます」(たくみくん)
「充電期間」とたくみくんが呼ぶ「休む時間」の大切さを、実は国も認めています。
教育機会確保法第13条には「個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ」と明記されていて、小・中学校は出席日数に関わらず卒業できるのが通例。高校受験も不登校が不利にならないよう各都道府県で配慮がされています。
あおいくんも、たくみくんの話を聞いて「休むこと」の経験を語ってくれました。
「最初は親に一切理解してもらえなくて、『給食を食べにお昼に学校行きなさい』、『我が家の恥だ』とか言われたりした。お父さんもあの頃はつらかったんでしょうし、お互い理解ができないと本当に辛いんだなと思いました。本当、無理矢理行かされていたら私は今ここにいないと思うんです」(あおいくん)
不登校の子どもが持つ罪悪感や将来への不安。そんな子どもたちの気持ちを親がしっかりと受け止める。そして、学校に行かない時間をどうとらえ、どう過ごすのかが、その後に子どもたちが歩んでいく道のヒントになるのかもしれません。
「学校に行かない」という選択
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