⑴ 若年層の自殺者数および自殺死亡率の推移
年間自殺者数の直近のピークである平成21年に比べて、30年における若年層の自殺者数は20歳代で38.2%、30歳代では46.2%の減少となった。
この間20歳代の人口は13.2%、30歳代の人口は18.1%の減少となっている(人口推計)。
人口の増減の効果を排した自殺死亡率の低下割合でみると、20歳代で29.1%、30歳代で32.6%の低下となっており、40歳代以上と比べ低下幅が小さくなっている(例えば、40歳代では42.3%の、50歳代では42.4%の低下)。
⑵ 原因・動機の推移からみる若年層の傾向
自殺にはさまざまな危機経路があるが、年代の違いにより危機経路も異なっていると考えられる。
ここでは、若年層における原因・動機の件数及び割合を他の年代と比較する中で、若年層の特徴を分析する。
まず、40歳以上の自殺における原因・動機別件数の推移を見ていく。
件数の推移で見ると、この間すべての原因・動機で減少している。
なお40歳以上の自殺者は平成21年の23,757人から30年の15,307人まで35.6%減少しており、また、40歳以上でかつ1つ以上の原因・動機が特定されている自殺者数は21年の17,751人から30年の11,451人まで35.5%減少している。
すなわち、全自殺者の減少の割合と、原因・動機が特定されている自殺者の減少の割合はほぼ同じである。
●自殺対策の基本的な枠組みと若者の自殺対策の取組
原因・動機の変化を確認するため、原因・動機別の計上件数を、原因・動機が特定された者の数で割った比率の推移をみる。
なお、原因・動機は自殺者一人につき3つまで計上可能としているため、比率の合計は100%にはならない。
40歳以上では、平成21年から26年にかけて経済・生活問題の割合が顕著に下がった。
この間の経済的状態の改善が影響しているとみられる。
代わって、健康問題、勤務問題が計上される割合がわずかに上昇した。
その他の要因はおおむね横ばいである。
●若年層の自殺をめぐる状況
10歳代では、健康問題の比率が減少傾向を見せており、家庭問題の比率は近年微増の傾向を示している。
最多の件数を占める学校問題が計上される比率は、年による変動がやや大きいが、おおむね横ばいかやや増加の推移を示している。
20歳代においては、健康問題の計上比率が低下しているのが目につく。
また、勤務問題が計上される割合が40歳以上より顕著に上昇している。
経済・生活問題は40歳以上の傾向と異なりほぼ横ばいとなっている。
30歳代においては、40歳以上と異なって健康問題の比率が減少しており、勤務問題の比率が増加し
ているが、いずれも20歳代ほど顕著ではない。
また、経済・生活問題の比率は平成26年までは減少していたが、その後は増加傾向にある。
全体的に、20歳代に比べて40歳以上の推移に近づく。
以上をまとめると、若年層においては、10歳代では健康問題の改善が自殺者数の減少に寄与しているが、家庭問題、学校問題で計上比率の増加が見られる。
20歳代・30歳代では、総じて40歳以上より勤務問題の重要性が大きくなっていることがみてとれる。
自殺者数の減少に寄与しているのは健康問題の改善によるところが大きく、経済・生活問題の寄与は相対的に小さいことがわかる。
なお、健康問題の減少に寄与しているのは主に「うつ病」、「統合失調症」の減少である。
平成21年と30年とで比較すると、うつ病は20歳代で816件から339件、30歳代では1,236件から538件に、統合失調症は20歳代で235件から105件、30歳代で360件から193件にそれぞれ減少している。
20歳代、30歳代の勤務問題については、すべての項目(仕事の失敗、職場環境の変化、職場の人間関係、仕事疲れ、その他勤務問題)において割合の上昇がみられるが、特に20歳代における「仕事の失敗」、「職場の人間関係」が寄与するところが大きかった。
以下、若年層を就業状況によって分類した上で自殺の傾向をみていく。
⑶ 就業状況別にみる若年層の自殺の状況
まず、平成30年における若年層の自殺者について、20歳未満、20歳代、30歳代に分け、就業状況別の自殺者数を整理する。
20歳未満では男女とも学生・生徒等が最も多い。
また、全年齢でみると、自殺者の半数以上は無職者が占めるが、20歳代・30歳代の男性では、有職者の数が無職者の数の2倍前後と多い。
20歳代の女性では有職者と無職者の数がほぼ同等となっており、30歳代の女性では無職者の方が多く、有職者の数の約1.5倍程度となっている。
●自殺対策の基本的な枠組みと若者の自殺対策の取組
また、同じく平成30年における自殺者について、年代別・就業状況別に、「同居人あり」「同居人なし」の数を整理する。
特に、男性では、20歳未満の学生・生徒等で、女性では、20歳未満の無職者及び学生・生徒等で、「同居人あり」の割合が高い。
逆に、「同居人なし」の割合が比較的高いのは、男性では、20歳代の有職者及び学生・生徒等や、30歳代の有職者、女性では、20歳代の有職者及び学生・生徒等、等となっている。
若年層の自殺者はこの間39.7%減少している。
無職者が大きく減少しており、有職者はそれに比べると減少率が小さく、学生・生徒等の減少率はさらに小さい。
この間、失業率の低下などに伴って無職者自体が減少しているため、件数だけではなく自殺死亡率を概算してみる。
その際、分母としては総務省「労働力調査」を用いた。
異なる統計を用いて計算しているため、自殺死亡率の値は参考値であることに注意されたい。
まず、平成21年から30年の総計で算出した就業状況別・年代別の自殺者数
以下のとおりである。
これをみると、無職者、特に男性の無職者が非常に高い自殺死亡率を示すことがわかる。
また、男性の無職者の自殺死亡率は年齢が高くなるほどに高くなる傾向にある。
女性の無職者は、女性の中では自殺死亡率が高いが、男性ほど高くなく、年齢による変化もほとんど認められない。
10歳代において、自殺者数は少ないものの、無職者がもっとも高い自殺死亡率を示している。
次に高くなるのは有職者であり、学生・生徒等は、自殺者数は多いものの、相対的には自殺リスクが低いことがわかる。15~19歳の無職者及び有職者の自殺リスクにも注意を払っていく必要があると考えられる。
次に、近年の傾向の変化をみるために、就業形態ごとの自殺死亡率の推移をみていく。
ただし、平成23年は労働力調査のデータが欠損しているため算出していない。
有職者の自殺死亡率推移
有職者の自殺死亡率推移をみると(全体的に低下しているが、15~19歳では、平成21~29年までは毎年の変動が大きいもののおおむね横ばいの状況で推移しているが、30年は男女計で20を超える高い率となっている。
若年層全体でみたときに、21年から30年にかけての自殺死亡率の減少率は約22%となっている。
無職者の自殺死亡率推移
次に無職者の推移をみると、15~24歳では毎年の変動が大きいが、おおむね横ばいで推移している。
若年層全体の低下率は約24%と、有職者のそれとほぼ等しい。
15~19歳の自殺死亡率が有職者、無職者ともに減少していないことからは、学校問題に留まらない生きづらさが解決されずに存在していることが示唆され、その背景は多様であることが推察される。
15~19歳の自殺死亡率を減少させるためには、ひとつのわかりやすい原因があるとは考えずに、より手厚い対応が求められる。
⑴ 有職者の自殺者数の推移
有職者の自殺者数の推移を20歳代、30歳代、全年齢でそれぞれ見てみると、平成21年以降いずれも減少している。
ただし、30歳代では全年齢での減少と同程度の割合(36.1%)で減少しているのに対し、20歳代では25.1%の減少に留まっている。
⑵ 有職者における原因・動機の計上比率
以下では、平成21年から30年までの10年分の合計の数値により、原因・動機(細分類)別の計上件数を、原因・動機が特定された自殺者の数で割った比率をみる。
原因・動機を細分類でみていく際には、大分類「その他」の中の細分類「その他」を除いている。
男性有職者における原因・動機の比率を見ていくと、10歳代では精神疾患を原因・動機とするものが相対的に低く、「職場の人間関係(15.8%)」をはじめとする勤務問題及び男女問題が多くの割合を占める。
20歳代では「仕事疲れ(14.49%)」が「うつ病(14.46%)」をわずかに上回ってもっとも多い割合を占めている。
また、「職場の人間関係」や「仕事の失敗」など勤務問題が目立つ結果となっている。
30歳代では、勤務問題等の比率が比較的高いものの、「うつ病」や、家庭問題の「夫婦関係の不和」の比率がこれを上回るなど、10歳代、20歳代とは異なった原因・動機の傾向が見られる。
なお、10歳代と30歳代では、際だって多くはないものの、「生活苦」が9、10番目に多い原因・動機として挙げられている。
女性有職者における原因・動機の計上比率を見ていくと、男性に比べてうつ病等の精神疾患の比率が高く、また人間関係を原因・動機とする比率が高い。
「負債」のような経済・生活問題の比率は小さい。
うつ病等の精神疾患のほか、10歳代、20歳代では「その他交際をめぐる悩み」、「失恋」、「職場の人間関係」などが上位を占める。
人間関係ではない勤務問題としては、「仕事疲れ」などが挙げられている。
30歳代では、男性同様「夫婦関係の不和」が「うつ病」に次いで挙げられている。
他に、うつ病以外の精神疾患の他、「職場の人間関係」、「失恋」、「その他交際をめぐる悩み」、「不倫の悩み」など人間関係に関する悩みが多く計上されている。
このように勤務問題の占める割合が男性に比べて低い背景には、女性有職者に短時間労働者が多い傾向にあることが考えられる。
フルタイムの有職者どうしで男女を比較した統計はないため、数字を読み解く上では注意が必要である。
⑶ 有職者における勤務問題の計上比率勤務問題の計上比率について、さらに15~39歳までを5歳ごとに分けて傾向をみると、男性有職者では「職場環境の変化」を除くすべての分類で、総じて若い年代ほど原因・動機として挙げられる比率が高いことがわかる。
女性有職者においても概ね同様の傾向が見られており、総じて若い年代ほど勤務問題を原因・動機とした自殺の比率が高いことがわかる。
⑷ 有職者における「うつ病」とともに計上された原因・動機の比率
これまでみたように、原因・動機として「うつ病」が計上されることも多いが、経済・生活問題や家庭問題等、他の問題が深刻化する中で、これらと連鎖してうつ病を発症することも多いと考えられる。
そこで、自殺統計では、自殺者一人につき原因・動機を3つまで計上可能としていることから、「うつ病」が原因・動機として計上された自殺者について、他にどのような原因・動機が併せて計上されていたかをみてみる。
男性有職者においては、「うつ病」とともに、勤務問題が計上された割合が多く、20歳代では48.2%、30歳代では42.2%となっている。
30歳代になると家庭問題の割合も増える。
女性有職者においても、20歳代において「うつ病」とともに計上される原因・動機としては勤務問題29.8%ともっとも多く、次に男女問題が23.2%で続く。
30歳代では家庭問題が27.7%でもっとも多く、次に勤務問題が25.4%となる。
⑸ 労働者のストレスと事業所によるメンタルヘルス対策
平成29年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関する強いストレスが「ある」と答えた労働者の割合は、全体 で58.3%、20歳 未 満 で25.4%、20歳 代 で58.5%、30歳代で58.9%であった。
このうち、若年層有職者の強いストレスの内容としては、20歳未満では「仕事の失敗、責任の発生等」が72.3%と多くなっており、また、20歳代と30歳代では「仕事の質・量」が多く(20歳代で60.7%、30歳代で64.5%)、また20歳代では「仕事の失敗、責任の発生等」が46.0%と高くなっている。
ただし、若い世代は「相談できる人がいる」と答える割合も高く、20歳未満では96.1%、20歳代で95.5%、30歳代で91.6% が 相 談 相 手 を も ち、20歳 未 満 で68.9%、20歳代で86.8%、30歳代で87.0%が「実際に相談した」と答えた。相談相手としては、20歳未満、20歳代、30歳代いずれも「家族・友人」、「上司・同僚」の順に多かった。一方、メンタルヘルス対策に取り組んで
いる事業所の割合は58.4%に留まっており、取組内容としては、「労働者のストレスなどの状況について調査票を用いて調査(ストレスチェック)」(64.3%)、「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」(40.6%)、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」(39.4%)等となっている。
現状では、職場のストレス対策が労働者自身の個人的なつながりや結びつきによって立つ部分も大きいことがうかがえる。
⑹ 小括
ここまでのまとめとして、有職者の自殺の原因・動機としては勤務問題が多くみられるが、特に男性有職者においてそれが計上される割合が高い。
また、20歳代・30歳代ではうつ病、30歳代では夫婦関係の不和の割合が高い。
女性有職者においては、うつ病等の精神疾患の他、職場も含めてより幅広く人間関係の悩みが原因・動機となっている。
勤務問題は男女ともに総じて若い世代ほど原因・動機として計上される割合が高い。
うつ病とともに計上される原因・動機は勤務問題が多いが、30歳代女性有職者のみ家庭問題が勤務問題を回る。
有職者の自殺を減少させていくためには、特に社会人としての経験の少ない若い世代ほど勤務問題を原因・動機とする自殺の割合が高いことを広く社会的な共通理解とし、職場でのメンタルヘルス対策やハラスメント対策を一層推進していくことはもとより、職場の上司・同僚を含め、若年層有職者と日頃関わる人たちがその発するSOSを受け止めていく積み重ねが不可欠である。
また、有職者の自殺の原因・動機は、勤務問題にとどまらない範囲に及ぶものであることから、身近な人の
支えに加えて、様々な悩みを相談できる窓口の整備やその周知、窓口間の連携も重要と考えられる
⑵ 無職者における原因・動機の計上比率
男性無職者における原因・動機としては、10歳代では「うつ病」等の精神疾患を原因・動機とするものの割合が高く、次いで、「その他進路に関する悩み」、「入試に関する悩み」、「親子関係の不和」、「就職失敗」などが多く挙げられている。
20歳代、30歳代では「うつ病」、「統合失調症」に続いて、経済・生活問題が多い傾向にある。
20歳代無職者では「就職失敗」が多く、「失業」、「生活苦」などが挙げられる。
30歳代無職者でも同様の傾向が見られるが、「失業」、「生活苦」を動機とする比率が20歳代に比べて高くなる傾向がある。
有職者と比較すると、「統合失調症」、「その他の精神疾患」、「身体の病気」などの健康問題が多く計上されている傾向にある。
健康問題は無職状態の原因である可能性も帰結である可能性もあり、相対的に多くなってくると考えられる。
また、有職者でみられた「負債(その他)」、「負債(多重債務)」などが少なくなるものの、「生活苦」は多くなっている。