NHK
ゼレンスキー大統領 SNSにメッセージ投稿
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、SNSにメッセージを投稿し「抵抗の3年。感謝の3年。ウクライナ人の究極の英雄行為の3年だった。ウクライナを誇りに思う。ウクライナを守り、支えているすべての人々、そしてウクライナのために働くすべての人々に感謝する。私たちの国家と国民のために命を捧げたすべての人たちの記憶が永遠に残るように」としています。
首都キーウにヨーロッパを中心とした各国の首脳が集結
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって3年となる24日、ウクライナでは、これまでの戦闘で犠牲となった人たちを追悼するとともに祖国の独立を守り抜くという声が聞かれました。
キーウ市内の修道院 建物の壁に戦闘で亡くなった兵士たちの写真
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キーウ市内の中心部にある修道院では、建物の壁に戦闘で亡くなった兵士たちの写真が貼られ、この3年で壁を埋め尽くすまでになりました。
24日は朝から市民らが訪れ、写真に花を手向けたり、涙を流して見つめたりする人の姿が見られました。
ドネツク州で戦闘に加わっていた24歳の孫を亡くしたという69歳の女性は「ことばにすることができないほどの痛みや悲しみを抱えています。いちばんの願いは、みんなが生きていること、健康であること、平和であることです」と目に涙を浮かべながら話していました。
また69歳の男性は「これほど多くの罪のない人々が亡くなっていることは許されません。恐怖です。アメリカの大統領が何かしらの形で状況を変えてくれることを願っています」と話していました。
以前、領土防衛隊の隊員として戦闘に参加した47歳の男性は「亡くなった兵士の方々の無念を思い、悲しみに暮れています。安全が保証され、平和が訪れることを願いたいです」と話していました。
また63歳の女性は「軍事侵攻後、私たちの生活は変わりました。平和も自信もなく、子どもたちの未来もない。アメリカに期待できるかはわかりませんが、とにかく平和が訪れてほしいです」と話していました。
ウクライナ軍前線の兵士 “北朝鮮の部隊が再び前線に投入”
ウクライナ軍の第95独立空挺強襲旅団の兵士で去年夏からロシア西部クルスク州で戦闘任務についているボロディミル・ネビル氏が、2月17日、前線からNHKのオンラインインタビューに応じました。
この中でクルスク州で一度撤退したとみられていた北朝鮮の部隊について、「1週間以上前から新たな兵士とともに戻ってきた」と述べ、再び前線に投入されたという見方を示しました。
そして「北朝鮮の部隊の戦術はロシアの戦術にどんどん似てきている。これまでより少人数のグループで、より分散して行動し始めている。ただ最も興味深いのは、ロシア軍が迫撃砲や重装備で北朝鮮の部隊を支援していないことだ」と述べ、ロシア軍と北朝鮮軍は連携ができていないとしています。
一方で北朝鮮の兵士はロシア製の兵器を利用するなど戦地での経験を重ねているとして「地上の兵士も司令部の将校もこの経験をほかの兵士や北朝鮮軍のほかの組織に広めていくだろう」と述べ、クルスク州での戦闘経験を持ち帰ることが北朝鮮軍のねらいだという見方を示しました。
北朝鮮軍の部隊をめぐっては、ゼレンスキー大統領が23日の記者会見でこれまでに死傷者が少なくとも4000人にのぼり、前線に1500人から2000人の兵士が補充されるという見方を示しています。
そして長期的な解決策としてNATO=北大西洋条約機構を拡大させないことや、ウクライナに住むロシア語を話す住民の権利の確保など、紛争の「根本原因」に対処しなければならないと強調しました。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部・南部の4州の掌握を目指して犠牲や損失をいとわない形で大量の兵力を投入し攻勢を強めてきました。
これに対してウクライナ軍は、欧米側の軍事支援も得ながら防衛を続ける一方で、去年8月にはロシア西部クルスク州への越境攻撃に踏み切りました。
全体としては戦況はこう着しています。
軍事アナリスト “ウクライナ 軍事的 政治的に最も難しい状況”
ポーランドを拠点に活動する軍事アナリストのコンラッド・ムジカ氏は、アメリカの軍事専門家らと数か月ごとにウクライナの前線などを視察し、戦況の分析を続けています。今月も10日間ほど戦闘が続く東部ドネツク州やウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部のクルスク州に隣接する北東部のスムイ州などを訪れ、ウクライナ軍の部隊の指揮官や兵士への聞き取り調査を行いました。
ムジカ氏はNHKとのオンラインインタビューの中で「ウクライナ軍は最も優先的に対処しなければならないドネツク州の前線の地域などを守るための兵士が十分ではない。多くの兵士の脱走が問題となっている」と述べ、兵力不足から士気が低下し、脱走の問題が顕在化し、さらなる兵力不足を招く悪循環が起きていると説明しました。
一方、ロシア軍については「単純に前線に投入できる兵力の数で勝っている。ウクライナ軍の指揮官は口を揃えて『ロシア軍は1日に4回から8回の攻撃をしかけてくる』と話していた」と述べ、ウクライナ側に絶え間なく攻撃をしかけていると解説しました。
そして「当初は兵力の差はそれほど大きくなかったが、ウクライナ側が損失を補充することができず、ロシア側が兵士の確保をカネで解決し、圧倒的に増やしていったことで顕在化していった。侵攻が始まってからウクライナは軍事的、政治的に最も難しい状況にある」と述べ劣勢に立たされているとの見方を示しました。地域ごとの戦況については「ロシア軍はドネツク州の70%ほどを掌握した」と述べました。
一方、ロシア西部クルスク州に派遣された北朝鮮の部隊については「戦闘能力を立て直し、戦場に再び投入されている。北朝鮮の戦い方は当初、ソビエト・スタイルだったが、いまは、ロシア軍と同じ方法だ」と述べ、当初、50人から100人のチームで突撃し、大きな損失を出したことを教訓に現在は、3人から5人の小規模のチームで分散して展開していると説明しました。
そのうえで「北朝鮮の兵士は20代から30代前半と若く、意欲的でよく訓練されている。すべての装備を身につけ5キロ歩行し、さらに、ウクライナ側を攻撃するスタミナがある」と述べました。
また、今後の見通しについてムジカ氏は「ウクライナ軍がアメリカの砲弾、高精度の兵器、インテリジェンスを入手できている間は、崩壊することはない」として、持ちこたえられるかは、アメリカの支援しだいだとの見方を示しました。
そして「懸念しているのは、ウクライナ軍が戦場でではなく心理的に敗れることだ」と述べアメリカとロシアの交渉によってウクライナが不利な条件を突きつけられるといった展開が明らかになれば、士気がさらに低下し、持ちこたえられなくなる可能性もあるとの見方も示しました。
また「ヨーロッパが砲弾の供与などを増やせば、ウクライナ軍はそこまで悪い状況には陥らないだろうが、特に精密な攻撃を行うためのインテリジェンスにおいては能力低下が否めない」として、ヨーロッパ各国がアメリカの支援を完全に補うことは難しいと話しています。
専門家 “交渉の進め方めぐり 米ロ双方の立場には隔たり”
さらに「トランプ政権の誕生は、このウクライナ問題を解決する上でバイデン政権の時と違って妥結の余地があるというのがプーチン大統領の基本的な考え方だ。ウクライナにとっては、トランプ政権が明らかにロシア側に大きく傾いた交渉をやり始めている」と述べ、ロシア側はトランプ大統領が譲歩する可能性があると考えているとの見方を示しました。
一方で「トランプ大統領は早期の停戦を求める一方、ウクライナとNATO諸国の軍事協力の問題などロシアにとって安全保障上の脅威を取り除かないかぎり、この戦争を止めることができないというのがロシアの基本的な立場だ」と述べ、アメリカ側は交渉の争点を停戦の実現に絞り込もうとしているのに対し、ロシア側はヨーロッパの安全保障体制を議論する構えで、交渉の進め方をめぐり、米ロ双方の立場には隔たりがあるとの見方を示しました。
そのうえで「今後、仮に米ロが妥結できたとしても、その合意を欧州とウクライナが受け入れない限り、最終的なゴールにたどり着かない」と述べ、早期の停戦の実現は困難だとの見通しを示しました。
キーウ 松尾寛記者 ウクライナの人たちはどんな思い?
A.
将来への「不安」だけでなく「怒り」や「失望」といった感情が入り混じっています。
侵略された側がなぜそこまで言われなければならないのか。その反発がゼレンスキー大統領のもとでの国民の結束をより強めていると感じます。
ただ、ウクライナ政府にとってトランプ政権の支援は不可欠で自国の鉱物資源もテコに関係を前に進めたい考えです。
ウクライナは、停戦を目指してロシアとの交渉に臨む前に、まずはアメリカとの関係を調整しなければらないという難しい課題に直面しています。
モスクワ支局 渡辺信記者 ロシアの雰囲気は?今後は?
モスクワ支局の渡辺信記者に聞きます。いまのロシア社会はどんな雰囲気でしょうか?
アメリカのトランプ大統領の登場で、停戦に向けた交渉開始への機運が高まったとして、ロシアの人たちは、心の底では大いに歓迎していると感じます。
ロシアでは軍事侵攻で多くの死傷者が出ている現状に恐怖や疑問を抱いても、反対の声をあげられないため、トランプ大統領ならば現状を打開してくれると、希望を託しているとも言えそうです。
米ロの高官会合を伝えた時のロシアメディアの高揚感も、そうした期待の裏返しのようでした。
ただ、その後、トランプ大統領がウクライナに対し鉱物資源の権益をめぐって取り引きを迫る姿から「強欲なアメリカの本質は変わっていない」といった意見も聞かれます。
Q.
今後、停戦交渉が焦点となってきますが、ロシアのプーチン政権はどう出てくるのでしょうか。
A.
あるモスクワの西側外交筋は「ロシアは戦争継続の能力を失っておらず、時間はロシアに味方する」と指摘しました。
プーチン政権はアメリカとウクライナの関係がぎくしゃくしているのを横目に、いまもウクライナ東部などで地上戦を続けています。
そして、ウクライナに占領地があることを踏まえ、強気の立場で停戦交渉に向けて、自分たちの要求を最大限に認めさせるため、外交攻勢を強めるとみられます。
最新の戦況はこちら。茶色のボタンを右から左に動かすと日ごとの地図が見られます。
アメリカのトランプ大統領は、大統領選挙の期間中からロシアによるウクライナへの軍事侵攻について早期の終結に強い意欲を示してきました。
トランプ大統領は2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことや、3年前のウクライナへの侵攻について「自分が大統領だったら起きなかっただろう」と繰り返し主張し、オバマ元大統領やバイデン前大統領を批判してきました。
困難とみられてきた停戦への道筋をつけることで公約を守る姿勢を国内の支持者にアピールするとともにバイデン前大統領にはできなかったことを実現し、政治家としての遺産=レガシーを残したいねらいがあるとみられます。
【ウクライナ支援には消極的 見返り期待も】
また、ウクライナへの軍事支援には消極的な姿勢を示していて、戦闘を終結に向かわせることでアメリカの負担を減らすとともに、限られた軍事的な資源を対ロシアからインド太平洋地域に向けて最大のライバルの中国に対抗していきたい思惑があるとみられます。
一方、トランプ大統領は、ウクライナへの支援の見返りとしてウクライナ国内の鉱物資源、レアアースなどの権益を確保したい考えも示し、ウクライナ側との合意を目指していて、「ディール」によって仲介者としてだけでなく「実利」を得たい思惑もうかがえます。
【就任直後から外交を活発化 侵攻後初の外相会談も】
こうしたことを背景にトランプ大統領は、2期目の就任直後からウクライナでの停戦に向けて外交的な動きを活発化させています。
今月12日にはロシアのプーチン大統領と電話で会談し、戦闘の終結に向けて交渉を始めることで合意したと発表。また、今月にはバンス副大統領やルビオ国務長官、それにヘグセス国防長官や安全保障政策を担当するウォルツ大統領補佐官などを相次いでヨーロッパや中東に派遣し、関係国との協議にあたらせました。
このうちルビオ長官らは今月18日にサウジアラビアでロシアのラブロフ外相らと協議し、停戦の実現に向けて双方が新たに高官級の交渉チームを設けることで合意しました。
3年前にロシアがウクライナに侵攻して以降、アメリカとロシアの外相が正式に会談したのは初めてでした。
【和平合意の枠組みは3段階】
アメリカの一部メディアは、アメリカとロシア両国の高官が3段階からなる和平合意の枠組みを検討していると伝え、枠組みは、
▽戦闘の停止
▽ウクライナの選挙
▽そして最終的な合意の署名という3つの段階からなるとしています。
また、別のアメリカのメディアは、トランプ政権側がヨーロッパの当局者に対し、ウクライナの停戦をキリストの復活を祝う復活祭にあたる4月20日までに実現したいという意向を伝えていたとも報じています。
≪3年間の犠牲者 避難者 戦死者数は≫
OHCHR=国連人権高等弁務官事務所の今月21日の発表によりますと、軍事侵攻が始まった3年前の2月24日からこれまでにウクライナでは少なくとも1万2654人の市民が空爆や砲撃などによって死亡したとしています。
このうち673人は18歳未満の子どもだということです。また、ケガをした人は少なくとも2万9392人に上るとしています。
ただ、激しい戦闘が行われている地域では、正確な被害の実態は把握できていないとしていて、実際の死傷者はさらに上回るとしています。
また、ロシア軍の攻撃で医療機関は790の施設が、教育関連では1670の施設が少なくとも破壊・損傷したとしています。
ウクライナ 全人口の約4分の1が住む家を追われる
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、ウクライナでは、侵攻開始前の人口のおよそ4分の1にあたる1060万人が住む家を追われているということです。
このうち国外に避難している人は今月19日の時点で690万人あまりで、9割以上はヨーロッパに逃れています。
また、IOM=国際移住機関によりますと、ウクライナ国内に避難している人は2024年12月の時点で366万人あまりです。
さらに、出入国在留管理庁によりますと、先月末時点でウクライナから日本に避難している人は1982人となっています。
ウクライナ軍は4万人余 ロシア軍は9万人余が死亡
戦闘の長期化に伴い双方の軍の損失も拡大しているとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今月16日のアメリカNBCテレビのインタビューで、ウクライナ軍の死者はこれまでに4万6000人にのぼると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は去年2月に3万1000人のウクライナ兵が死亡したことを明らかにしていて、この1年間で、1万5000人が死亡したことになります。
また、けがをした兵士はおよそ38万人だとしたうえで、行方がわからなくなっている兵士も数万人いるとの見方を示しました。
一方、ロシア軍の死者について、ロシアの独立系メディアの「メディアゾナ」とイギリスの公共放送BBCは、今月24日時点で確認されただけで、9万5300人だとしています。
ウクライナ 軍に100万人以上動員 動員逃れもあとを絶たず
ロシアによる軍事侵攻後、ウクライナでは戒厳令などにより18歳から60歳の男性は原則、出国が禁じられ、対象年齢の男性は軍に動員される可能性があります。
ウクライナ軍の動員の規模について、地元や欧米のメディアはこれまでに100万人以上が軍に動員され、去年は1年間でおよそ20万人が動員されたと伝えています。
一方、動員を逃れるために出国を試みる人はあとを絶ちません。
国境警備隊の報道官は、隣国のハンガリーやルーマニアなどとの国境を流れる川を泳いで渡ろうとしたり、女装したりするなどさまざまな手口があると明らかにしています。
出国の試みの多くは犯罪グループが仲介し、これまでに摘発されたグループの数は760以上だということです。
ウクライナの警察は、動員対象年齢の数百人がこうしたグループの支援を受けて国外へ逃れたとしています。
ロシア軍 23日も無人機で攻撃 “これまでで最多”
ロシアによる軍事侵攻が始まって3年となるのを前にした22日から23日にかけても、ウクライナではロシア軍による攻撃がありました。
ウクライナ空軍は、22日夜から23日朝までの間に行われたロシア軍の攻撃で無人機267機が使われたと発表し、南部オデーサ州の当局は無人機による攻撃で3人がけがをしたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は23日、SNSへの投稿で「戦争開始から3年となるのを前に、ロシア軍はこれまでで最も多くの無人機による攻撃を行った」と非難しました。
≪ウクライナ侵攻3年 これまでの戦況は≫
【2022年】ロシア軍侵攻始まる ウクライナ軍が抵抗ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まったのは、3年前の2022年2月24日。
プーチン大統領は、ウクライナ東部のロシア系住民の保護やウクライナの「非軍事化」「中立化」を掲げて「特別軍事作戦」を行うと宣言しました。
ロシア軍は当初、北部、東部、南部から部隊を進め、侵攻開始から2週間後には首都キーウの中心部からおよそ15キロまで迫りました。
これに対し、ウクライナ軍は、欧米から供与された兵器で抵抗し、ロシア軍はキーウの早期掌握を断念。北部から撤収しました。
その後、ロシア軍は、東部に兵力を集中させ、ハルキウ州の集落を相次いで掌握しますが、この年の秋までには、ウクライナ軍はハルキウ州のほとんどを奪還しました。
【2023年】ウクライナ軍 反転攻勢も戦闘こう着
一進一退の攻防が続く中、2023年6月、ウクライナ軍は、領土奪還を目指し、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で「反転攻勢」を開始。
ドイツ製の戦車レオパルト2など欧米から供与された戦車や歩兵戦闘車を投入しました。
しかし、ロシア軍が支配地域に地雷原やざんごうなどを組み合わせた強固な防衛線を幾重にも築いたことで戦闘はこう着。
砲弾や兵力不足に悩まされたウクライナ軍の反転攻勢は成果を上げることはできませんでした。
【2024年】ウクライナ軍が越境攻撃 北朝鮮軍 派兵
【ウクライナ軍の越境攻撃】
反転攻勢の失敗が伝えられる中、ゼレンスキー大統領は2024年2月、ロシア軍の侵攻を食い止めてきたとされ、国民の間で人気が高かったザルジニー総司令官を解任。新しい総司令官に陸軍のシルスキー司令官を任命しました。
戦闘の長期化でウクライナ社会に閉塞感も漂う中、8月、ウクライナ軍は、ロシア西部クルスク州への越境攻撃に踏み切ります。
ロシアが他国の正規軍の侵入を許すのは、第2次世界大戦後、初めてです。
この越境攻撃について、ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵攻を終わらせるための計画の一部だと説明していて、今後の交渉を見すえ、ロシアが占領した地域と領土の交換を行いたいとの意向も示しています。
ウクライナ軍がクルスク州で掌握した面積は8月下旬の時点で東京23区のおよそ2倍、およそ1300平方キロメートルにのぼるとしています。
【北朝鮮が派兵 クルスク州に投入】
ウクライナ軍によるクルスク州への越境攻撃が続くなか、10月には北朝鮮がロシアに部隊を派遣したことが明らかになりました。
ゼレンスキー大統領は、派遣された北朝鮮の兵士はおよそ1万1000人だと明らかにしました。
北朝鮮の兵士は12月からクルスク州での戦闘に投入されていると見られていますが、言葉の壁を背景にしたロシア軍との連携不足も指摘され、これまでに3000人以上が死傷したと推計されています。
一方、この年、ウクライナ東部では、ロシア軍が攻勢を強めました。
10月、ロシア軍はドネツク州の要衝、ポクロウシクの南にあるブフレダルを掌握しました。
ウクライナのメディア「ミリタルヌイ」は、ウクライナはドネツク州やハルキウ州でロシア軍に相次いで集落を掌握され、2024年の1年間で日本の奈良県とほぼ同じ面積の3600平方キロメートル以上の領土を失ったと見られると伝えました。
【ミサイル攻撃の応酬続く】
ただロシア軍は、占領した地域と引き換えに多大な人的損失を出していると見られていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍は2024年の1年間で42万人以上の死傷者を出したと分析しています。
このほか11月には、ロシアとウクライナのミサイルを使った攻防が激しさを増しました。ロシア国防省は、ウクライナと国境を接するロシア西部ブリャンスク州でアメリカ製の射程の長いミサイルATACMSによる攻撃を受けたと明らかにしました。
当時のアメリカのバイデン政権は、戦闘の激化を恐れてATACMSをロシア領内への攻撃に使用することを許可してきませんでしたが、北朝鮮の参戦などを踏まえ、使用を許可したものと見られています。
これに対しロシアは、ミサイル攻撃の報復だとして、ウクライナ東部の工業都市ドニプロを核兵器も搭載できる新型の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」で攻撃しました。
【2025年】ロシア軍が攻勢 ウクライナ軍は後退
2025年に入り、ロシア軍は、ウクライナ東部での攻勢を引き続き、強めていてウクライナ軍はじりじりと後退を余儀なくされています。
今月、ロシア国防省は、ドネツク州の都市コスチャンチニウカの南東にあるトレツクを掌握したと発表しました。
ロシア軍は今後、コスチャンチニウカやウクライナ軍の輸送拠点、ポクロウシクの掌握を狙うと見られています。
西側各国のウクライナ支援は総額42兆円余
この3年間、西側諸国はウクライナに対し支援を続けてきましたが、最大の支援国アメリカでトランプ政権が誕生したことで、支援の先行きに不透明感が漂っています。ドイツの「キール世界経済研究所」は今月、各国がこれまで表明した去年12月末までの軍事支援や人道支援などの総額をまとめました。
それによりますと、支援の総額は2670億ユーロ、日本円にして42兆円あまりだということです。
このうち軍事支援は半分近くを占める49%の1300億ユーロ、およそ20兆5400億円、次に金融支援が44%の1180億ユーロ、およそ18兆6400億円、人道支援は7%で190億ユーロ、およそ3兆円だとしています。
【アメリカの支援額が全体の40%】
国別の支援状況では、
▽支援額が最も多いのはアメリカで1141億ユーロ、およそ18兆円に上り
▽続いてドイツが172億ユーロで2兆7000億円あまり
▽イギリスが148億ユーロでおよそ2兆3400億円
▽日本が105億ユーロでおよそ1兆6600億円だということです。
アメリカは1か国で、全体の40%あまりを占めています。
【経済規模との比較ではバルト三国や北欧】
一方、支援額が各国のGDP=国内総生産に占める割合で見ると、
▽エストニアとデンマークがおよそ2.5%
▽リトアニアとラトビアはおよそ2%となるのに対し、
▽アメリカやイギリスは0.5%あまりにとどまっています。
各国の経済規模との比較からは、ロシアと地理的に近いバルト三国や北欧が支援のためにより多くの負担をしていることがうかがえます。
ロシアへの経済制裁とロシア経済
【西側の対ロシア制裁は2万1000件余】
西側諸国は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、ハイテク製品の輸出禁止や国際的な決済ネットワークからの排除、資産の凍結、さらにロシア産原油の国際的な取り引きに上限価格を設定する制裁などを科し、日本や欧米の企業がロシアから相次いで撤退しました。
各国の制裁についてまとめているアメリカの専門サイトによりますと、日本やアメリカなど西側諸国は、2022年2月の侵攻開始以降、ロシアに対し2万1000件あまりの制裁を科しました。
【ロシア経済は原油輸出で回復】
しかしIMF=国際通貨基金によりますと、ロシア経済は侵攻を始めた2022年はGDP=国内総生産の実質の伸び率はマイナス1.2%と落ち込んだものの、2023年は3.6%となり、2024年は3.8%と予測されるなど、回復しています。
これまでロシア経済が堅調だった理由の1つが、主な収入源である原油の輸出が続いたことです。ロシアは「BRICS」で協調するインドや中国に低価格で輸出しているとされ、ロイター通信は去年7月の1か月間でロシア産原油を最も輸入した国はインドだったと伝えました。インドはその後も輸入を増やし続けていると伝えています。
また、ロシアは制裁を回避して原油を運ぶ「影の船団」を組織していると指摘され、先月には、アメリカの当時のバイデン政権がタンカーなど183隻に対し制裁を科すと発表しましたが、制裁と制裁逃れは、「いたちごっこ」の状況が続いています。
【ロシア国内はインフレ 経済は減速】
一方で、兵士の確保に伴う人件費の高騰や経済制裁などによる輸入コストの増加で、インフレに歯止めがかかっていません。
インフレを抑制しようとロシアの中央銀行は、2023年7月時点で7.5%だった政策金利を段階的に引き上げていて、2024年10月には19%から21%に引き上げました。
中央銀行は今月の会合で金利を21%に据え置くことを決めましたが、国営企業からは運転資金が調達できず、倒産につながるなどという声も上がっています。
こうした状況を受けIMFは、今後のロシアのGDPの伸び率について、ことしは1.4%、来年は1.2%と予測していて、ロシア経済は減速が見込まれています。
≪世界の防衛費 エネルギー価格に大きな影響≫
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界の防衛費の増加につながったほか、エネルギー価格などに大きな影響を与えました。
世界の防衛費 過去最高に
イギリスのシンクタンクIISS=国際戦略研究所が今月12日に発表した、世界各国の軍事力や地域情勢を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」によりますと、去年の世界全体の防衛費は前の年より7.4%増えて2兆4600億ドル、日本円にしておよそ370兆円と過去最高に上りました。
このうち軍事侵攻を続けるロシアの脅威を前にヨーロッパでは多くの国が前の年に比べて防衛費を増やし、ドイツが23%余り増やしたほか、スウェーデンや、ロシアと国境を接するバルト三国のエストニアとラトビアなども20%以上増やしました。
原油 LNG 天然ガス 侵攻直後に高騰
原油価格は、ウクライナ侵攻が始まった直後の2022年3月、西側諸国による制裁などで世界有数の産油国ロシアからの原油が減少する懸念から、国際的な原油取り引きの指標となるWTIの先物価格が1バレル=130ドルを超え、13年8か月ぶりの高水準となりました。
その後は需給が安定するにつれ価格が下がり、2023年から去年にかけては1バレル=70ドルを切ることもありました。
JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構によりますと、現在は1バレル=70ドル台前後の水準で推移しているということです。
一方、天然ガスとLNGの価格も侵攻後に高騰しました。
LNGは、ヨーロッパ各国がロシア産天然ガスの代わりとして輸入を急激に増やしたことなどからLNGの取り引きで日本が指標とする、JKM=ジャパン・コリア・マーカーと呼ばれる価格が取り引きで使われる熱量の単位を表す100万BTUあたりで80ドルを上回り、過去最高値をつけました。
天然ガスも、ロシアからドイツやポーランドなどのヨーロッパ各国へのパイプラインでの供給が減少したことなどから、ヨーロッパ市場で天然ガスの取り引きの指標となる「オランダTTF」と呼ばれる先物価格の終値が、2022年8月、100万BTUあたりで100ドル近くまで値上がり、過去最高値となりました。
その後、ヨーロッパ各国がガスの貯蔵量を増やしたことで天然ガス・LNGともに価格は落ち着きましたが、コロナ禍前の2019年と去年の年間の平均価格を比べると2倍あまり高くなっているということです。
エネルギー価格の今後の見通しについてJOGMECの担当者は「ウクライナとロシアの停戦に向けて協議が進めば、西側諸国などによるロシアに対する制裁の緩和につながる見方がある。その場合、価格を大きく押し下げる要因になる可能性がある」としています。
食料価格指数 侵攻直後は過去最高に
ロシアとウクライナは世界有数の穀物の輸出大国です。
FAO=国連食糧農業機関によりますと、2021年の小麦の輸出量は、ロシアが世界で1位、ウクライナが5位でした。
このため、侵攻直後には供給が滞ることへの懸念から価格が上昇し、FAOが毎月出している「食料価格指数」は2022年3月に過去最も高い160.2となり、特に穀物の指数は2022年の3月と5月に170を超えました。
その後は落ちつき、先月の食料価格指数は124.9と侵攻前の水準に戻っています。
ただ、ウクライナでは多くの農地や農業施設が被害を受け、復興に向けた支援が課題となっています。
≪軍事侵攻に対するロシア ウクライナ両国の世論は≫
ウクライナ “和平達成なら領土放棄も”が38%に
ウクライナ国内で行われている最新の世論調査では、侵攻を続けるロシアに対して「いかなる状況でも領土を放棄すべきではない」と答えた人が51%で過半数となりましたが、この1年でみると23ポイント下がりました。
この調査はウクライナの調査会社「キーウ国際社会学研究所」が2022年5月から行っていて、去年(2024年)12月までにあわせて12回実施されています。
この1年でみると、ロシアに対して「いかなる状況でも領土を放棄すべきではない」と答えた人は、去年の2月が65%、5月が55%、10月が58%、12月が51%となり、過半数を維持していますが減少傾向となっていて、12月の最新の調査では、おととし12月と比べて23ポイント下がりました。
一方「できるだけ早く和平を達成し独立を維持するため領土の一部を放棄してもいい」と回答した人は、去年の2月が26%、5月が32%、10月が32%、12月が38%となっていて、徐々に増えています。
また、去年6月と12月の調査では、戦争の終結に向けた3つのシナリオも提示し考えを尋ねています。
このうち6月の調査では、「ロシアが東部2州やクリミアの占領を続けるものの、ウクライナが南部2州の支配権を取り戻し、NATO=北大西洋条約機構などにも加盟する」というシナリオについて受け入れ可能だとする人が最も多く、57%でした。
また、12月の最新の調査では「ロシアが東部2州と南部2州や、クリミアの占領を続けるものの、ウクライナがNATOなどにも加盟する」というシナリオについて受け入れ可能だとする人が最も多く64%となり、6月よりも17ポイント増加しました。
調査結果からは、仮に領土を譲歩するにしてもNATOへの加盟など、ロシアが再び侵攻する事態を防ぐための安全保障を求める声が強いことがわかりました。
ロシア “和平交渉の開始”望む人が60%超に
ロシアでは独立系の世論調査機関「レバダセンター」が毎月、ロシア国内の1600人あまりを対象に対面形式で調査を行っています。
それによりますと、ロシアが「特別軍事作戦」とするウクライナへの軍事侵攻について「支持する」と答えた人は、この1年70%台で推移し、依然として高い支持率を維持していることが分かりました。
このうち先月の最新の調査では、「和平交渉の開始」と答えた人が61%で、これまでで最も高くなりました。
国連事務総長 “ウクライナの領土保全を維持した和平必要”
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から24日で3年となるのに合わせて、国連のグテーレス事務総長は「ウクライナの主権と独立、そして国際的に認められた国境での領土の保全を完全に維持し、公正で持続可能かつ包括的な和平が緊急に必要だ」とする声明を発表しました。
また「ウクライナでの戦争はヨーロッパの平和と安全だけでなく国連の基盤と中核的な原則そのものに対する重大な脅威だ」と位置づけ、公正で包括的な和平の実現に向けたあらゆる努力を国連は支援する用意があるとしています。
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