みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

退院した当日から

2012-04-02 22:18:42 | Weblog
恵子は「皿洗いをやるから少し簡単なもの残しておいて。リハビリになるから」と私に言った。
試しに少しやらせてみた。
でも、翌日から彼女に「やるな」と言った。
理由は簡単だ。それをやることは今の彼女のリハビリにはマイナスだと思ったからだ。
彼女が「皿洗い」をやりたい理由ははっきりしている。
早く元に戻りたいこと。
なぜ戻りたいかと言えば、「自分が何もできない存在」であることに我慢がならないからだ。
食事を作ることも、掃除をすることも、洗濯をすることも、仕事をすることも(つまりお金を稼ぐことも)できない、買い物もできない、何もできない存在になっている自分を早く克服したいとアセっているのだ。
そして、それら全てを引き受けている私に「何かできる」自分を見せて私を喜ばせたいとも思っているのだ。
だから「食器を洗うことのできる自分」を私に見せたいのだと思う。
でも、ちゃんと洗えているわけではない。
今の彼女の手の力でちゃんと食器が洗えるとは思えない。
結局、私がまた洗い直さなければならない。
ピアノを習っている生徒が先生を喜ばせようとまだバイエルしか弾けないのにいきなりベートーベンの曲に挑戦して先生を喜ばせようとするのに似ている。
そんなことで先生は喜びはしない。
生徒がまだバイエルしか弾けないことを十分知っているからだ。
先生が本当に喜ぶのはその子がバイエルを完璧に弾けるようになること。
そして次の段階に進むこと。
私も恵子にそうして欲しいと思う。
今彼女がきっちりやらなければいけないのは「皿洗い」の真似事ではなく、今学んでいる歩き方のレベルを上げること、手の力をしっかりとつけていくこと、そしてそれを「きれいに」行えるようにすることだ。
これしかないと思っている。
これができさえすれば私は嬉しいし今よりもっと幸せになれると彼女に言った。
彼女は「うん、そうする」と頷いた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿