「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・03・18

2013-03-18 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソア(1888-1935)の「師よ」と題した詩一篇。

「師よ 時間(とき)はすべて静穏です
私たちが虚しく過す
時間(とき)はすべて
もし虚しく過すことに
花を挿しさえすれば
花瓶に花を挿すごとく

私たちの人生に
悲哀はありません
歓喜はありません
思い煩うことなき賢者となって
学ぼうではありませんか
人生を生きることでなく

送ることを

心静かに穏やかに
幼児(おさなご)を
われらの師とし
眼に自然を
くまなく映しながら……

川の辺(ほとり)で
道の辺で
ときに応じて
常にかわることなく
そっと癒しながら
生きていることの疲れを

なにごとも語らず
時は過ぎ去り
私たちは老いてゆきます
ほとんど冷やかに学ぼうではありませんか
感じとるのを
私たちが過ぎ去りゆくのを

踠(もが)いても
それは意味のないことです
抗(あらが)うことはできないのです
己れの子らを
常に貪り食らう
あの残忍な神に

花を摘もうではありませんか
そっと浸そうではありませんか
私たちの手を
静かな川の流れに
その静けさを
学ぶため

向日葵(ひまわり)となって 常に
太陽を見つめながら
私たちは心静かに
人生を発つことでありましょう
生きたことを
悔いることもなく」

(「フェルナンド・ペソア詩選『ポルトガルの海』」池上岑夫編訳 彩流社刊 所収)

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