「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・03・19

2013-03-19 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソア(1888-1935)の「わたしが死んでから」と題した詩一篇。

「わたしが死んでから わたしの伝記を書く人がいても
これほど易しいことはない
二つの日付があるだけだ――生まれた日と死んだ日との
この二つの出来事にはさまれた日びはすべてわたしのものだ

わたしがどんな人間であったか語るのは易しい
わたしは見た 狂人のように
事物を愛した いかなる感傷もなく
果せなかった望みはなにもない 盲(めし)いたことがなかったから
聞くことさえ見ることに付随する行為にすぎなかった
わたしは学んだ 事物は実在したがいに異なることを
それをわたしは理解した 頭でなく眼で
頭で理解することは事物をすべてひとしいと見なすことであろう

ある日わたしは子供のように睡くなった
わたしは眼を閉じて睡った
そしてわたしはただ一人の自然詩人だった」

(「フェルナンド・ペソア詩選『ポルトガルの海』」池上岑夫編訳 彩流社刊 所収)


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