今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「この世の中がうまく運転するには、ある種の欠乏がなくてはなりません。欠乏がないと人間は堕落します。ついこの間まで私たちがまだ貧しかったころ、いたる処にいた、自分の楽しみより亭主や子供の楽しみを先にして、それを自分の楽しみにする母たち、その母たちを助けるけなげな子供たちを、私たちは見なくなりました。
子供を五人も六人もかかえて獅子奮迅の勢いで働いている両親を、私たちは見なくなりました。母たちはなりふり構わず働いて、衣食に追われていましたから、皺がふえるのは当り前で、気にもとめませんでした。働いた甲斐があって、無事子供が成人するのを見れば満足しました。孫の顔を見ればさらに安心して死にました。
生れることが自然なら、死ぬこともまた自然でなければなりません。今日ほど死ぬことがむずかしくなった時代はこれまでなかったと思います。」
(山本夏彦著「つかぬことを言う」中公文庫 所収)
「この世の中がうまく運転するには、ある種の欠乏がなくてはなりません。欠乏がないと人間は堕落します。ついこの間まで私たちがまだ貧しかったころ、いたる処にいた、自分の楽しみより亭主や子供の楽しみを先にして、それを自分の楽しみにする母たち、その母たちを助けるけなげな子供たちを、私たちは見なくなりました。
子供を五人も六人もかかえて獅子奮迅の勢いで働いている両親を、私たちは見なくなりました。母たちはなりふり構わず働いて、衣食に追われていましたから、皺がふえるのは当り前で、気にもとめませんでした。働いた甲斐があって、無事子供が成人するのを見れば満足しました。孫の顔を見ればさらに安心して死にました。
生れることが自然なら、死ぬこともまた自然でなければなりません。今日ほど死ぬことがむずかしくなった時代はこれまでなかったと思います。」
(山本夏彦著「つかぬことを言う」中公文庫 所収)
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