今日の「お気に入り」は山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「『ねずみ講』は日本中の善男善女をだました、許せないと新聞がいうと、
テレビも同じくいう。だまされたのは欲ばったからで、馬鹿だったから
だというなら分るが、善人だったからだという。」
「 ふつうだまされた者は首うなだれ、二度とだまされまいと心に誓うのに、
だました方が悪い、それを取締らなかった政府はもっと悪いといわれては、
首うなだれてばかりはいられない。『被害者友の会』でも結成して、損し
た金を取戻そうと、出来もしないことを出来ると思って奔走する。だまさ
れるほどの者だから、出来ると思うのである。」
(山本夏彦著「笑わぬでもなし」所収)
「 新聞はいつでも、だましたほうを悪玉にして、だまされたほうを善玉にする
傾向があります。だから、だまされたほうは、はげまされたような気分になる
のでしょうが、なにだまされたほうは欲ばりかバカだと私は思っています。」
(山本夏彦著「つかぬことを言う」所収)
「 私は、正直者は馬鹿をみるという言葉がきらいである。ほとんど憎んでいる。
まるで自分は正直そのものだと言わぬばかりである。この言葉には、自分は
被害者で潔白だという響きがある。悪は自己の外部にあって、内部にないと
いう自信がある。」
(山本夏彦著「毒言独語」所収)