「発見! 和の乳酸菌」 伝統のくず餅は健康食品だった
【近ごろ都に流行るもの】
黒蜜ときな粉でいただく、ねっとり食感の和菓子が、実は健康食品だった! 江戸製法のくず餅に、腸活や免疫力アップが期待できるパラカゼイ種乳酸菌が含まれていたことが最近判明した。文化2(1805)年創業の老舗、船橋屋(東京都江東区)では今月から「くず餅乳酸菌」入りのかき氷がお目見えするなど、今後多彩な商品活用が計画されており、伝統のくず餅に新時代が到来している。(重松明子、写真も)
いつもの取材と同じようにたずねた。年齢をおうかがいしてよろしいでしょうか?
目の前には、細身のスーツを着こなすシュッとした若旦那風情の紳士。船橋屋8代目当主、渡辺雅司社長の答えに、えっ!? 思わず聞き返した。
「54歳、(サザエさんの父)磯野波平と同じです。何もやっていないのに老けないんです」と真顔でいう。
日々変化するくず餅の歯応えを、毎日確認するのが当主の役目。「父は81歳の今も週2回ゴルフをやり、祖父もショートホープ(たばこ)を1日2箱、大酒も飲んでいたが元気で88歳まで生きた。『健康長寿』といわれてきた渡辺家の謎が解けた気持ち。くず餅のおかげに間違いない」
くず粉由来の関西のくず餅とは別物で、関東のくず餅は和菓子で唯一の発酵食品だ。小麦粉を練ってグルテンと分離させたでんぷんを寝かせ、船橋屋では450日間の自然発酵後に蒸し上げる。
「いろいろな雑菌が侵入する昔の製造環境で、長期の発酵に耐えられたのはなぜなのか」。同社が専門家に解析を依頼したところ、ラクトバチルス属パラカゼイ種乳酸菌が検出された。長年、悪玉菌を駆逐して生き続けてきた菌を「くず餅乳酸菌」と命名し、培養にも成功した。
これを受けて、亀戸天神門前の本店では、1杯あたり「10億個の乳酸菌入りかき氷」が6月1日に登場した。果肉たっぷりのイチゴミルクや宇治金時など6品(820~950円)あり、シロップに乳酸菌粉末が溶かされている。今後はこの粉末を甘酒やサプリメント、化粧品などにも活用する予定という。
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「くず餅の今の風味が完成したのはほんの20年前。酸味や臭みを抑え、味を洗練させてきた」と語る渡辺社長。
銀行員を経て平成5年に家業の船橋屋に入社した。当時、和菓子店では異例の「ISO」を取得して、品質管理を全社員に“見える化”。職人絶対主義や年功序列がはびこる古い組織の改革を進め、人材の新陳代謝をはかった。その結果、近年の新卒採用では1万6千人もの学生エントリーを集める人気企業に成長。入社6年目の広報担当、篠原優奈さん(27)も「祖母が大好きなくず餅を、後世に残す一員になりたかった」という。
同社は年間500万食超のくず餅を生産し、年商18億円。今年度は20億円の目標を掲げる。現在関東に24店舗展開。来年には、世界のハイブランドが集まる表参道(東京都港区)に旗艦店を出店する計画もあり、乳酸菌が大きな後押しの力となりそうだ。
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関東名物くず餅といえば、池上本門寺(大田区)門前の江戸期創業三大老舗の1軒、「相模屋」が今年1月に「万策尽きて苦渋の選択」(ホームページより)として廃業したことが記憶に新しいが、すでに居抜きで新たなくず餅店がオープンしている。川崎大師の門前でも名物土産として数軒が頑張っている。
昔ながらの和菓子としてだけでなく、現代ニーズに合った健康食品として見直されれば、日常使いも増えるだろう。各門前町が活気づくのもそう遠くない!?