『南島雑話の世界 名越左源太の見た幕末の奄美』
(南日本新聞社/2002)
を読みました。
『南島雑話』とは、1850~1855年、
奄美大島に遠島(島流し)になった薩摩の上級武士・名越左源太が
奄美大島の自然や民俗などを記録したもの。
絵が得意だったという佐源汰自らが描いたスケッチの数々が
当時の奄美の様子を知る上で貴重なバイブルとされています。
この本はその『南島雑話』の記事をテーマに沿ってピックアップし
今と比較しながら書かれた新聞連載をまとめたもの。
幕末の奄美…と言えば
今年の大河ドラマ『西郷どん』の奄美編が記憶に新しいですね。
(西郷が奄美にいたのは佐源汰が帰郷して4年後の1859年)
そこで見た奄美の様子は幕末と言えども
自然も、髪型も、服装も、文化も、言葉も、
薩摩というよりもずっとずっと琉球だ、と感じました。
(※薩摩侵攻までは奄美は琉球の一部でした)
…と思っていたら、
薩摩は通常、奄美全体で大和風の文化(頭頂を剃る月代や髷、服装など)
を禁止していたのだそう。
それは、清国との関係で奄美は琉球だと思わせておく方が得策で
薩摩が奄美を支配しているというのがバレないように、
ということらしい。
とまぁ、色々と勉強にもなる本なのですが、
面白い記述や絵もたくさんあったので
いくつかご紹介したいと思います。
まずは不思議な生き物シリーズ。
(絵はワタシが模写したものです)
1 ケンモン
ケンムンって言ったほうが聞き馴染みがあるでしょうか。
『西郷どん』でも出てきましたね(18話)。
沖縄で言う所のキジムナーに近い、
ガジュマルに住んでいる妖怪です。
人懐こくて人間の手伝いをすることもあれば
いたずらを仕掛けたり、
仕返しをすることも。
ちょっと違うのは、猿+河童のような見た目の事。
沖縄のキジムナーで河童ような皿がある…というのは聞いたことないような?
『南島雑話』にはこんな絵も。
人間と一緒に手をつないで踊っているのか、手を引かれているのか。
ともあれ、人間・ケンモン両者とも
表情がとてもかわいらしくてほのぼのします。
2 人魚
…どこに「魚」の要素を見つければいいのでしょうか…。
強いて言うなら、耳辺りがエラに…見えないこともない?
ただのはーもーにたじーのおじいにしか見えないです(笑)
3 チリモヌ
ネコ科の動物の様でかわいいです。
名前の響きも、なんだかおもしろい。
空想上の生き物と見る人もいれば
かつてはいた希少動物と見る人もいるらしいです。
記録では
・不浄の獣
・人が死ぬ時に敷くむしろなどに宿っている
・股をくぐられると病気になって死ぬ
・豚の子のようで、猫に似ている。
・色は薄黒、しっぽは短い。
チリモヌと同じように
ミンキリャワァという妖怪?もいるらしく
同じく股をくぐられると死ぬ…らしい。
ともあれ、チリモヌに出会ったら、股をくぐられないように
足を交差させてあるくべし!
4 奈麻戸奴加奈之(ナマトヌガナシ)
語尾に「ガナシ(加奈之=加奈志)」という敬称がつけられているので
高貴な存在だと分かります。
これはの8のツノと8ペアの足(=16本)をもつ牛の姿をした
耕作の神様です。
牛よりも一回り大きいそうで、
鳴き声はチャウメラ(チャルメラ?)のようで
夕暮れに庭火をたくとその光に徘徊するのだとか。
(夕暮れのマジムン出現率高し!
昼と夜の狭間…アコークローってやつですね…)
この神様が出現すると皆、地に顔を伏せて畏敬するので
誰もその姿を見たことはない…
のですが、
作者の佐源汰は
「これ作りものじゃんって言ったらきっとめっちゃ怒られるよねー。
だから大和人が近づくことを嫌うのかー」
って書いちゃってます。
(つづく)