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シカと森林の一体的な管理に取り組む先進的な対策事例

2016年04月03日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 今回は神奈川県におけるシカ対策についてのご報告です。

 神奈川県は、シカと森林を一体的に管理する体制を整えるため、2000年に「神奈川県自然環境保全センター」を設立。

 「一体的に管理する体制」とは、自然環境・狩猟・林業という行政の縦割り体制を取っ払った体制を意味します。

 今でこそ、「シカ対策」の1つとして、捕獲が重要視されていますが、10年以上前から神奈川県はそれに取り組むと同時に、行政も一体的に管理できる体制を整えていました。

 

 さて、神奈川県では、これまで「3度のシカ問題」に見舞われてきたそうです。

「1度目のシカ問題(シカの絶滅危惧)」
 明治時代の乱獲により、シカ生息頭数が100頭未満になり、1955年から1970年までシカ捕獲を禁止した。


 
「2度目のシカ問題(林業被害)」
 1960年代半ばから、人工林で食害が発生。

 1970年から保護柵を設置(公費100%)し、被害は免れたそうです。

 当時は、シカが絶滅の危機に瀕していただけに、「捕獲」という行為に対して抵抗があったそうです。
 

「3度目のシカ問題(自然植生へと被害拡大)」
 1980年代後半、人工林は柵により守られましたが、人工林よりも標高の高い天然林でシカ被害が発生し、次々と、希少な植物などが絶滅の危機に陥ります。
 

 被害の深刻さから、「防護だけでは限界がある。捕獲しないといけない。」ということとなり、シカと森林を一体的に管理する体制を整えるため、2000年に「神奈川県自然環境保全センター」の設立に至りました。

 シカ対策は「捕獲」と「保護柵の設置」を中心とし、捕獲は施業と連携して実施。
 

 2003年から管理捕獲を県猟友会に委託。

 しかし、捕獲の空白地帯があったため、2012年からワイルドライフレンジャーを雇用(3名)し、2014年はこれを5名に増員しました。

 2014年は524頭を捕獲(レンジャーは188頭)。
 
 シカは伐採地(跡地も含む)や植栽地に集まるため、林業における施業は、シカを増やす行為に繋がることから、各部署の担当者が集まり、現地視察を含めた打合せや会議を行い、次年度の計画を打ち出し、施業と連携した捕獲に取り組んでいます。
 
 人工林では、間伐を実施することで、下層植生が生えるものの、シカの不嗜好性植物や採食耐性植物が優占している状況です。
 
 神奈川県では、10年以上前から捕獲と保護柵による対策を進めていますが、それでも、植生回復は一部に限り、保護柵がないと守ることができない状況にあるとのことです。

 「これからも捕獲と保護柵の継続は必要。」

 

 シカの生息密度が高くなると、一個体あたりの「栄養状態」が悪くなります。

 1990年代のシカの栄養状態と、今のシカの栄養状態を比較すると、改善していることから、捕獲による個体数調整や植生回復が進んでいるようです。

 目標とする、生息密度は5頭/k㎡(キロ平方メートル)。

 しかし、これまでシカによる食害を受けてきた自然植生は、そのダメージが蓄積されていて、生息密度が限りなく0頭/k㎡(キロ平方メートル)にしないと、植生が回復しないとのことです。

 しかし、現状より、さらに生息密度を下げるためには、現在の捕獲体制の2倍以上にしないと困難だそうです。

 

 10年以上前から、行政機関の体制を整い、「捕獲と保護策の設置」に取り組んできた神奈川県。

 それでも、植生回復にはまだまだ時間と労力がかかる、ということにショックを受けました。

 あまりのショックで、「林業被害はその程度まで改善されたのか?」という肝心な質問もスッ飛んでいました・・・

 (これは別の機会に質問し、ご報告したいと思います

 

 木材需要が拡大し、良質な材が取引され、森林所有者に利益が還元できる林業が実現できても、植栽という最初の1歩で、シカに食害を受けてしまうと、元も子もありません。

 神奈川県の取り組みは、非常に先進的で、とても参考になりましたが、焦りが生まれたことも否めません。

 とはいえ、自分一人で捕獲できるシカの頭数は、限りがありますし、自分の実力では、微々たるものです。

 でも、1と0は違います。

 多くの課題を抱える林業業界ですが、少しでも被害軽減に繋がるよう、今年は、昨年以上に「シカ捕獲」に力を入れていきます