小倉 知子 (兵庫県伊丹市 家事手伝い 52歳)朝日新聞2011年11月4日 ひととき
認知症の両親をひとりで抱えている。毎日が戦争だ。老兵ながら、敵はなかなか手ごわい。思いもよらないことが次々と起こる。
先日、父が夜中にいなくなった。15時間後、少し離れた運送会社に保護してもらえた。迎えに行くと、どこで調達したのか傘を杖代わりに、破れたスリッパを履き、足を引きずりながら歩いてきた。昔の厳しい、シャキッとした父の面影は全くない。涙が出た。
2日後、何事もなかったかのようにニコニコと手を振り、母とデイサービスに出かけた。やれやれーーー。
このごろ、「まあ、いいか」が私の口癖。こぼしたら拭けばいい、汚したら洗えばいい。なくしたらまた買えばいい。ただそれだけのこと。でもストレスもたまるから、今度ヴィトンのバッグ買ってくれる?とうさん、かあさん。
介護は恩返し。「まあ、いいか」そうつぶやきながら、まだまだ私の恩返しは続く。たくさんの人に支えられながらーーー。
そろそろデイサービスから帰ってくる時間。夕飯は2人の好きなハンバーグ。「まあ、おいしそう。ごちそうやね」とうれしそうに笑う母の顔が浮かぶ。さあ、たくさん召し上がれ。
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暖かい文章。
写真は畑のキャベツ。
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