ラジオの深夜放送には青春がある。東京のアパートがある、ジャズ喫茶がある、微笑んでいる女の顔がある、カフカやカミュの文庫本がある。どれもみんなセピア色に切ない。祭りの尽きた後の広場のように、遠く過ぎ去ってしまった青春ほど切ないものはない。流れてくる「黒いオルフェ」を聞きながら、渋谷の東急名画座を想いだしている。酢こんぶを噛みながら、終わって外に出るといつも夕暮れだった。三平食堂でカキフライを食べ、東横線に揺られ目黒のアパートに帰った。好きな女はいたがそれ以上にはならなかった。瀬戸内の島へ帰る最後の友人を東京駅に見送ったとき、僕の東京は終わった。 ラジオの深夜放送には、もう戻れない哀しみがある。砂丘を吹き抜けていく風のような孤独がある。